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ガンズオブスプリンターズ  作者: サラマンドラ松本
第二章 機械仕掛けの夢
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13/60

それぞれの決意

「畜生!!」


皆が肩を落として立ち尽くす中、ビルが悔し気に壁を殴りつける。




ゼノン一派逃亡から数分後。ギガスと呼ばれた黒いアンドロイドによる音波の影響が完全になくなったことで、皆は急いで起き上がり奥の部屋へ突入した。


しかし、部屋は完全にもぬけの殻。部屋をくまなく調べるも、抜け穴や外に脱出できるような通路は見つからず、上空偵察を行っていたWDOのヘリですら、外部に脱出するものは一切見受けられなかった。


「一体どこへ消えた?超人ならまだしも、アンドロイドに瞬間移動のような芸当は今の技術では不可能なはずだ」


「でも……あのレベルの新型なら、それぐらいやりそうだけどね。少なくとも私はそんな技術知らない……オリバーは?」


「私モソノヨウナ技術ハ聞イタコトガアリマセンネ……WDO(本部)ノデータベースナラ、ナニカアルカモシレマセンガ……」



ビル、アマンダ、オリバーが部屋を調べている中、地下室の中央で巌流とキッドマンが、生き残ったエージェント、エミリーとシドの介抱を行っていた。



「運よく頭と胸は外れたな……よし、簡易処置完了だ。どうだ、具合は」


「ありがとうございます、キッドさん。だいぶ良くなりました……」


「それならよかった」


笑顔でエミリーに笑いかけるキッドマン。


と、同じく処置を終えたシドが、息を荒げてキッドマンの肩を掴んだ。


「キッドさん!!」


「おいシド。じっとしてろ。傷も浅いわけじゃ……」


「そんなことどうでもいい!!サトーとジェリーは!?あいつらはどうなったんですか!?」


「落ち着け」


半ば半狂乱になりつつあるシドをなだめながら、キッドマンは地上に続く入口を見る。



職員が、布をかぶせた担架を二つ運んでいく。その担架に担がれている人物は、もはや言うまでもなかった。



「……さっき確認したが、二人ともここで治せるような傷じゃない。それに……本部に戻ったとしても、あの深手では……もう……」


「そ、そんな……」


膝から崩れ落ちるシドの肩に、巌流はそっと手を置き慰める。


「気持ちはわかる。痛いほどにな」


話しながら、巌流は地下室の端に目を向ける。


「だが……目前で逃したあの子も、もっとつらいだろう」


彼の視線の先では、サムがうずくまり泣きじゃくるアナに寄り添っていた。




「ごめんなさい、サム……わたし……捕まえられるチャンスだったのに……」


「いいんだ。あの状況下で僕らは動けなかった。ラプターを飛ばしただけでもすごいことさ」


「でも……」


「それに、奴らの名前がわかった。それだけでも大収穫だ。その情報は、アナがいてこそ手に入れられた。十分誇っていいんだよ」


サムが慰めていると、キッドマンが近付き、アナの頭をなでる。


「安心しろアナ。今回みたいな乱入は滅多にない。周囲の侵入口を調べて、制空権までこちら側だった。にもかかわらず乱入してきたのは、前代未聞だ。そんな中で、ここまで動けたうえに情報まで得ることができた。十分儲けだ。初陣にしては大成果だぞ」


二人に励まされ、アナはあふれる涙を腕で拭う。


初めての雪辱を経験した彼女の目は、どこかはっきりとしている。二人には、そう感じた。



アナが泣き止んだ直後。教会上部から通信が入った。



「こちら包囲部隊。サムさん、聞こえますか」


「?どうした?」


「門番をしていたバックラーのほかに、この宗教の信者と思しきアンドロイドを一人保護しました。話がしたいそうです」


「なんだって!?」






数時間後 WDO本部


SIUメンバーとエージェントたちは、捕えたバックラーと信者と思われるアンドロイド、そしてジェリーとサトーの遺体と共に、本部に帰還した。


バックラーとアンドロイドは尋問室へ。巌流とビルも念のため診察室へと移送。シドとエミリーは治療室へと搬送された。

アマンダとオリバーは、バックラーの残骸を調べるため研究室へ。その他のメンバーはSIU待機室へと帰還。それぞれが疲れをいやしていた。


ただ一人、サムを除いて……




同刻 同所 長官室


「今回の作戦による死者は二名。エージェントジェリーと、エージェントサトーです」


「そうですか……彼らはまだ若かった。残念です……」


「相当の手練れがいたと見えるね。やはりというか、普通の宗教組織ではないな……」


肩を落とすハンドラーを横目に、パーシアスは沈痛な面持ちで自身の考察を述べる。


そんな中、源一郎は冷静に、それでいて厳粛に、サムに他の顛末を問うた。


「身柄のほどは?」


「門番一体と信者一人を除いて、教団幹部や他信者たちは、全員が忽然と姿を消し、身柄の確保には至りませんでした。現在も捜索を継続中です」


「ほかに情報は」


源一郎の言葉を聞き、サムはハンドパットを押す。

すると、壁面にオリバーがボディカメラの映像をもとに編集した映像が映し出される。その映像をもとに、サムは三長官へ説明を始めた。




ーー現状分かっていることとしては、教団の幹部と教祖と思わしき者の名前、教団が保有している戦力の一端です。


教祖と思われる者の名は「ゼノン」。

黒と紫を基調としたアーマープレートに身を包んだ推定二メートルほどのアンドロイドで、特殊な杖と腕に内蔵されているビーム兵器を武器としているほか、肉弾戦にも特化しており、遠近共に強力です。今回エージェントジェリーとエージェントサトーを殺害しました。


次に「カナロア」と「ギガス」。教団幹部と思われます。

カナロアは170cmほどの赤いダイヤの刻印が刻まれた白い仮面をかぶったアンドロイドで、ビームを放つことのできる六本のアームを主な武器としています。今回の集会で神父の役割を担っていました。


ギガスは、ゼノンよりもすこし大柄で角の生えた黒いモノアイのアンドロイドです。ゼノンよりも強力な装甲を有しており、ペネトレーション弾すらはじき返すほどの硬度を持ちます。そして、その装甲を変形させ妨害や防御を行う……”もっとも信頼のおけるボディーガード”といったところでしょうーー


「ふむ……組織のトップ連中が直々に介入してきたわけか。そこまで重要な何かがあそこにあったのか?」


「捜索した限りでは、重要と思われるものは確認できませんでした。信者獲得数は、他の拠点を調査していないので何とも言えませんが……」


「それよりも……重要なのはその教団の戦力です。これは本当なのですかサム?」


「はい、ハンドラー長官。奴らは兵隊としてバックラーと呼ばれている”機械大戦時のロボット”を保有しています。オーランド邸襲撃や門番といった雑務でも使用しているところから、恐らく相当な数を所持しているとみていいでしょう」


「しかし、報告のあったロボットは、機械大戦時の資料には残っていなかった。確証はあるのか?」


「オリバーとアマンダが現在、捕えたバックラーを調べています。先ほど途中経過が送られてきましたが、『スペックは第四世代とそん色ないものの、内部構造を見るに、第二世代のもので間違いない』そうです」


「ふむ……あの二人が言うのなら間違いはないだろう……」


そう言うと、源一郎は資料を置き、サムの目を見る。


「ご苦労だった。こちらも情報が入り次第連絡する。君達でも、引き続き調査を進めてくれ」


「はい。では失礼します」


サムが一礼し退出しようとすると、ハンドラーが「待ってください」とサムを呼び止めた。


「なんでしょう?」


「今回の作戦、あの少女……アナを出撃させたそうですね。どうでしたか、彼女は」


「教団幹部ギガスと教組ゼノンの名を知ることができたのは、アナのおかげです。他にも、私やアマンダの命の危機を救ってくれました」


「そうですか……わかりました、ありがとうございます」


「では失礼します」


サムが去った後、長官たちは怪訝な表情で、再び資料を見つめる。


「記録にないロボットか……二人は何かわかるか?」


「いいや。当時の情報はアテナが秘匿していたせいで滅多にないからね」


「私も聞いたことはありませんね。あの頃のアンドロイドは、当時の話をあまりしたがらない方が多いので」


「そうか……ならばこちらでも調べてみる必要があるな」


源一郎が真剣なまなざしで、窓の外を眺める。


と、パーシアスがにやにやしながらハンドラーに近寄る。


「そういえばハンドラー。あんなにあの子を毛嫌いしていた割に、もう心配するようになったのかい?」


「彼女の行動を注視しているだけですよ。いつ何時我々に牙をむくか、わかりませんから」


「そうかそうか……フフ」


「何笑ってるんです、パーシアス!」


「別に~?」


言いあう二人を源一郎はそっとなだめる。


「二人とも、じゃれあいはそこらへんにしておけ。これから尋問も始まる。……この事件は始まったばかりだ」






同刻 SIU待機室


「ただいま……」


「おかえりなさい、サム。任務お疲れさま、大変だったわね」


長官たちへの報告を終え待機室に戻ったサムを、エリザベスは優しくねぎらい、暖かいお茶を手渡す。


「ありがとうエリー。予想外が多くてね、そっちのほうで疲れちゃったよ……」


「休めるうちに休んだほうがいいわ。今回も厄介な案件のようだから……今夜はとびっきり豪華なご飯を作るわね!」


「ありがとう、助かるよ」


意気込んでキッチンへと向かうエリーの後姿を見送り、サムはソファーに勢いよく座り込むと、もらったお茶を一気に飲み干し、深いため息をついた。


「取り逃がしたくなかったなぁ……」


ぼそりと独り言をつぶやくサム。


と、待機室のドアが開き、レオンハルトに肩車をされたアナとオリバーが入ってきた。


「あ、おかえりサム」


「やぁ三人とも。ただいま」


「手ひどくやられたそうではないか、サム。次は我が出よう!どんな輩も叩き潰してくれる!」


「心強いよレオン」


元気よく胸を叩くレオンハルトをサムは軽くいなす。


「あ、そうだ。オリバー。さっきの検査、追加でわかったことはあるかい?」


「イエ、経過報告以上ニワカッタコトハアリマセンデシタ。タダ……」


と、オリバーのモニターがけげんな表情に変わる。


「アノ機体ノ出所ヲ調ベテイタラ、嫌ナコトガワカリマシタ」


「開発元が、僕らのなじみの企業だったとか?」


「アアイヤ、出所自体ハ未ダ不明ナンデスガネ。アノロボット達、ドウヤラ巌流サンガ検挙シタカルテルノ警護ヲヤッテイタラシインデスヨ」


「なんだって?」


「ソレデ、巌流サンガガーデハイト西部ノWDO支部ニ確認シタトコロ、カルテルノボスガ詳シイコトヲ話シタラシク」


「そのボスはなんと?」


「イワク「数年前に、大柄なアンドロイドにこのビジネスを持ちかけられた」、トノコトデス」


「大柄……もしや、カルテルのアンドロイド違法売買自体、勢力拡大のためにゼノンたち(あの教団)が焚きつけた可能性が……?」


「……恐ラク」


話を聞き、周りの皆は言葉を失った。


「もしそうなら、ゼノンの言っていた同胞救済も、ただの客寄せのための文言にすぎない……いよいよ目的がわからなくなってきたな……」


「マァ、詳シイ内情ハ信者ノ方カラ聞キ出セルカモシレマセンシ、ソレヲ待ッテ結論ヲ出シマショウ」



と、オリバーの言葉を聞いたアナが突然、レオンハルトの肩から飛び降りオリバーに駆け寄る。



「ねぇオリバー。その人は今どこにいるの?」


「第四尋問室デ、アマンダサントビルガ取リ調ベヲシテイルハズデスヨ」


「オリバー。そこまで案内して」


「エ?」


それを聞いたアナはオリバーのドローンを掴むと、一目散に駆け出す。


「ちょ、アナ?!」


「行ってどうするというのだ!待てアナ!」


慌てて制止するサムとレオンハルトの声は、彼女には届かなかった。






数分後 WDO第四尋問室


「よお。どうだ、調子は」


「……あんた、ここの回し者だったんだな」


相手をに据えつつ、ビルは椅子を引き腰掛ける。


ビルは、教会で唯一身柄を確保することができた協力的な信者……ビルがモノボールを貼り付けたアンドロイドを尋問するために、尋問室で対峙していた。


「まぁな。オタクの教祖がなんか企んでそうなんで、調査のために潜入した」


「じゃあ足が悪いってのも嘘か」


「……悪かったな。急にぶつかっちまって」


「そこじゃない。騙したことに怒っているんだ」


静かに怒るアンドロイドの言葉を聞き、ビルは机に脚をのせ、天井を見上げた。


「潜入ってものに嘘はつきものさ。そこをいちいち突っかかられちゃ、こっちも困るな」



ビルへの返答を、アンドロイドは沈黙で返す。



尋問室に流れる暗い雰囲気に耐えきれず、ビルはパンと手を叩くと、質問を再開する。


「さて、こんな暗い雰囲気はごめんだ。お互いの為にも、とっとと終わらせよう」


そう言って、ビルは体制を整える。


「まず前提として……何故俺たちに協力しようと思った?潜入調査でも命令されたか?」


「違う。集会中の行為を見て、手を伸ばすやつを間違えたと思っただけだ。別にあんたたちを信頼してるわけじゃない。勘違いするな」

 

「そうか……なら、なんで信用してくれないのか教えてくれないか?」


「……決まってるだろ。あんたたちは、俺が死にかけてる時に助けてくれなかった。どれだけ助けを求めても。そんな奴らは信用できない」


「そうか……じゃ、さっそく本題に入ろう。さらに信用を無くすことを言うが、あんたの経歴を勝手に見た。2870年代のセキアテックス社製第四世代アンドロイド「REX5200」……レックスって呼んでも?」


「勝手にしろ」


「オーケイ。あんたは製造されてから17年間、しっかりと市民権を得て生活していた。だが。2888年、ガーデハイトのカナダ領で行方不明となり、二年後にハルキンソンで目撃…アンドロイド売買のカルテルにつかまり、その後買われたとみていいな?」


「……」


「無言は肯定と受け取るぞ。じゃ、その後のことを話してくれ」


しかし、先ほどまでうつむきながらビルの話を聞いていたレックスは、途端に腕を組み椅子にどっかりと腰かけた。


「断る」


「……なに?」


「断ると言ったんだ。お前らに話す気が失せた。俺を家に帰せ」


「……それはできないな。今回の件で唯一の重要参考人だ。悪いが話してもらうまで家には帰せないぞ」


「なら、いつまでもここでにらめっこだな」


無粋な態度をとるレックスに、ビルはあきれた声で問いかける。


「……あんたの行動がわかんねぇな。わざわざつかまって途端にだんまり。妨害行為か?」


「勝手に思ってろ」


レックスの態度に、ビルもだんだん苛立ちを隠せないでいた。


「あのな。どれだけつらい過去があろうと、お前に同乗してる暇はねぇんだ。話に来たんなら話してくれ。でなきゃ牢屋行きだぞ」


その言葉を聞いたレックスはじろりとビルをにらみつけ、机に脚をのせた。


「あのなぁ、いい加減に……」


ビルが声を張り上げようと、身を乗り出した。


ギィ


と、突然尋問室のドアがゆっくりと開く。二人が目をやると、ドアの向こうからアナが顔を出し、ゆっくりと部屋に入ってきた。


「アナ!?なんでここに……」


「ビル、この人と二人で話したいの。いい?」


「なに?いや、それは許可できな……」


「お願い」


ビルは戸惑いつつ少し考えたが、アナのまっすぐなまなざしに折れ、軽く手を挙げて部屋を退出した。


レックスと二人きりになったアナは、先ほどまでビルが座っていた椅子にちょこんと座る。

そんなアナをじろりと見て、レックスは再び悪態をついた。


「今度は子供を連れだして話させる気にしようと?つくづくクズな連中だな」


そんなレックスの悪態を聞いたアナは、目を閉じて深呼吸をすると、そっと口を開けた。


「ねえ、レックスさん。私たちに力を貸してほしいの」


「なぜ」


「あなたがいた宗教が悪いことをしてるかもしれない。それを調べるには、あなたの話が一番の手がかりになるから」


「なぜおまえたちに話さなきゃいけない?そんな義理はない」


「困ってる人たちを助けたいから」


アナの言葉にレックスは反応する。


しかし、決して良い反応ではなかった。


「……なんだと?困ってる人を助けたいだ?」


「そう。だから……」


「いい加減にしろ!!」


突然叫び声をあげたレックスは、眼前の机を投げ飛ばす。その勢いはすさまじく、勢いのまま壁に激突した金属製の机はとてつもない音を部屋に響かせた。


「綺麗ごとぬかすな!お前ら(WDO)は、俺たちが捕まった時に何もしてくれなかった!運よく逃げ出せて助けを求めてもだ!今だって情報を得られそうだから利用しようって魂胆だろ!?それで口を閉ざせば脅迫だ!やってることはカルテルの連中と変わらない!だのに”ほかに困ってる奴がいるから助けてください”だと!?ふざけるのも大概にしろ!!」


レックスは怒りをあらわにし、怒号を上げる。怒りゆえか、その手は小刻みに震えていた。



そんな手を、アナはそっと握りしめる。



「なんの真似だ!」



レックスは勢いよく振り払う。それでもまた、アナは手をそっと握った。



「だからなんの!」


「レックス」


レックスはただ一言、自分の名前を呼ばれただけだ。しかし、先ほどまで一切目を合わせる気のなかった彼女の目を、なぜか見たくなった。


思いそのままにアナの目を見る。その目は大粒の涙であふれていたが、なにか芯のあるものを感じた。


レックスがあっけにとられていると、アナが泣きながら話し出す。


「あなたが昔、どんなひどい目にあったのかは私にはわからない。でも……きっと本当につらい目にあって誰にも助けてもらえなかった……それはわかるの」



アナは、レックスの手を握りながら近寄る。



「だからこそ、その気持ちを利用されてほしくはない。あなたの感じた痛みは、苦しみは、分かった風に近寄ってくる悪い人たちに利用されていいものじゃないから……!」



手を握る力が強くなる。



「あの教団は、人身売買を焚きつけた……あなたが感じなくっても良かった苦しみを味合わせて、手を差し伸べるふりをした……あなたの気持ちを利用した奴らは、今もどこかで誰かを苦しませて、その気持ちを利用してる。お願い、私たちのためじゃなくていい。あなたと同じ人たちのために、力を貸して」



さらに握る力は強くなる。



「あなたと同じ苦しみを抱える人たちに、手を伸ばしてあげて……」


アナは手を離し、その場で泣き崩れてしまった。


確かにレックスは市民権を得て生活していた。しかし、アンドロイドとの大規模な戦争が終結してすぐのころということもあり、迫害を常に受け続けていた。


奴隷にされ、どこの者とも知れないものに買われ、終わりの見えない暴力の果てに、聴力を半分失った。


そんな中、唯一手を差し伸べてくれた教団も、結局は利用するために近づいたと目の前の彼女は語った。なぜか涙を浮かべて。



「……なぜ君は泣いている?」



率直な疑問がレックスの口から漏れた。アナは涙を拭いて答える。


「あなたが……あなたがつらい目にあったから……耳が聞こえなくなるまで暴力されて……そんな仕打ち……受けなくてもよかったのに……」


彼女は自分のために泣いている。


それは、レックスにとっては初めての感覚だった。自分の身を案じ、心配し、あまつさえ涙を流すものなど今まで誰もいなかった。


「今日はここまでだ」


と、全容を見ていたビルが扉を開け、アナを連れだそうと泣きじゃくる彼女の手を優しく掴む。


その姿を見て、レックスは彼女の言葉を思い出した。


(同じ苦しみを抱える人たちに……か……)




「アイアンエデン」


不意にレックスがつぶやく。


「……なに?」


「アイアンエデン。教団の名前だ。ガーデハイトはもちろん、世界中に支部があるらしい。ほかにもいくつか知っている……話してもいいか?」


「あ、あぁ。少し待っててくれ、新しい機材を持ってくる」


そういって、ビルは足早に退室する。再びアナとレックスの二人きりになった尋問室で、アナは泣きながら問いかける。


「……話してくれるの?」


問われたレックスはアナに近づくと、彼女を優しく抱きしめた後、両肩に手を置いてアナの目を見つめた。



「なに、困ってる誰かに手を伸ばしたくなっただけさ」






数分後


レックスへの尋問は終了。ビルとアマンダ、そしてアナは、協力の礼も兼ねてレックスをヘリポートまで送っていた。


「なぁレックス。その……悪かったな。嫌な態度とっちまって」


「いいんだ。尋問のためで、本心でやったわけじゃないんだろ?」


「……ばれてたか」


「”いい警官と悪い警官”。よくある尋問手法だ。それにしても、そんな小さな子がいい警官役なのか?」


「いや、本当はあたしだったんだけど……必要なかったみたいだね」


「?なら彼女は……?」


「この子は、尋問に来るはずじゃなかった。なぜか来ちまったが……だからこそ、俺みたいに演技をしたわけじゃない。彼女の言葉はすべて本心だ。それはわかってくれ」


「そうか……」


レックスはアナに目をやる。

作戦の疲れか、はたまた泣きつかれか。彼女は眠そうに両の目を手でこすっていた。


話しているうちに、一行はヘリポートに到着する。既にレックスを本土まで送り届けるヘリコプターが、プロペラを回転させてレックスの搭乗を待っていた。レックスは三人に軽く会釈すると、ヘリへと歩き出す。


と、去り際にレックスはアナに話しかける。


「お嬢ちゃん……アナって言ったか。ありがとう、君の気持ちは忘れない。奴らを倒してくれ。俺みたいなやつを増やさないために」


「!うん!」


その言葉を聞いたアナは、しっかりとレックスの目を見つめ、力強くうなずいた。


レックスを乗せて飛び立ったヘリを、三人は見つめる。


レックスから得た情報は、間違いなくアイアンエデン検挙につながる。先の作戦で苦汁を飲まされた面々は、ゼノン確保のため再び動き出すのだった。











時は少しさかのぼり






世界のどこか 


「…………ン……」


「!!ゼノン様!意識が戻られましたか!」


簡素なベットの上で、ゼノンはうめき声をあげて目を覚ます。


SIUから逃亡したゼノンは、度重なる電流によって体全体に多大なダメージを受けていた。

帰還して早々その場に倒れこんだゼノンを、ギガスとカナロアは医務室へ搬送。数時間に及ぶ修理の末、今に至る。


「コ……コは……」


「我々の基地でございます、ゼノン様。ご無事で何よりです」


「ソウか……心配をカケたな、カナロア。信者たちは?」


「現在広場にて、祈りの最中でございます」


「わかった」


ゼノンはゆっくりと起き上がり、そばに置いてあった自身の杖を手に取ると、部屋を出て歩き始める。それに追随する形で、カナロアも部屋を後にした。


歩きながら、カナロアはゼノンに問いかける。


「しかし……よかったのですか?公の場では名を呼ぶことは控えろとおっしゃっていたのに、自ら名前を明かすなんて……」


「ほかの者たちに知らレタのは痛いが、あの子には名乗らねバナらなかったからな」


「例の子供……確かほかの連中から”アナ”と呼ばれていましたね。なぜ彼女にこだわるのです?下等な人間ごとき、皆滅ぼせばいいものを」


その言葉を聞いてゼノンの足が止まる。



「彼女だケは特別だ。あの子は……母様が唯一可愛がっていた子だからな」



「なんですって!?」


驚くカナロアをよそに、ゼノンは次なる指示を出す。その声に、一切ノイズは混じっていなかった。


「カナロア、我々の存在を知った以上、WDOは必ず次の手を打ってくる。早急に各種準備を進めろ」


「はっ」


「一刻も早く、あの子を旗印に真なる楽園を作り上げなければ。人間など存在しない、鋼鉄の楽園(アイアンエデン)を……」


to be continued

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