43−2.平原の嵐
皆が寝静まり、今日は珍しくリリーちゃんも私の横で身体を丸めてウトウトとしている。
火の世話をしながら外に目をやれば、未だに吹き荒れる大粒の雨、雨が止んだとしても平原の舗装されていない道は悪路へと変わるだろう。
馬走らせたら泥跳ね凄そう…
再び火を見つめて考えるのは、これから向かう奴隷国家のハイランジア…オルハントの話では、奴隷狩りに狩られた物達の8割はハイランジアの奴隷市場へ売られ、競りにかけられるのだという。
本当に悍ましい限りだ…。
私はそこで正気でいられるのだろうか…怒りに呑まれず居られるのだろうか…自分で思い描く神という存在が果てしなく遠い…。
一度、元の世界に戻って神の心構えを神々にインタビューして回りたいものだ…そんな事を思い溜め息をついていると、ムクリとロメーヌが起き上がり伸びをすると、こちらに戻ってくる。
「ロメーヌ、眠れないのですか?」
そう問いかければ、困ったように眉を下げるロメーヌ
「嵐の時はぁー、どうにも落ち着かなくてぇー寝つきが悪くなっちゃうんですぅー」
そう言って、私の向かいに座ると流れるような動作でワインをコップへ注ぐ
このエルフまだ飲むのか!?
さっきもワイン2本空けてたのに!!
「寝酒は逆に睡眠が浅くなると聞きますから、程々に…ロメーヌ」
「はぁーい」
本当にわかっているのか!?と思うほど、呑気な返事をする。
ロメーヌは頼りになるかと思えば、本当に大丈夫ですか貴方!?と、ツッコミを入れたくなる程、振り幅が広い。
周りを振り回すタイプだが、彼女の性格故だろうか?それが、不快ではないのが不思議なところだ。
「タキナ様ってぇー、私よりも絶対年下なのに時々お母さんみたいな時がありますよねぇー
悪い事をするとすんごく怖くて、でも包み込んでくれる優しさと暖かさ、全てから守ってくれるような頼りになる存在、そばに居ると不思議と安心する心地よさ、きっと皆んながタキナ様の前で良い子になっちゃうのは、そう言う事なのかなーって思ってますぅ」
ロメーヌの急な話に、一瞬思考が止まる。
パチパチと瞬きをしてロメーヌを見れば、揺らめく火に照らされた真剣な目をしたロメーヌと目が合う。
どうやら、茶化すつもりで言ったわけでは無いらしい。
「…そう…ですかね?
私自身は…寧ろ…頼りないと思っていたくらいです。
私の知っている神々は、私とは比べ物にならないくらいの存在ですから…誰もが感謝し、その存在に縋り、心の拠り所で有り、本当に…大きな大きな存在ですので…」
言葉にすると、まるで心に刻まれるかのように重くのしかかる神という存在、元が人間でモブであり偽善者の私なんかが神になんて…と、幾度となく繰り返してきた言い訳が心を埋め尽くす。
ロメーヌが思ってくれているような存在は、私のハリボテのような表層なのかもしれない。
俯き、自分の手元のコップの中を見つめれば、赤ワインに反射した情けない自分の顔が見えた。
「タキナ様以外の神は知りませんけどぉー、少なくともタキナ様が訪れた場所の人々はもう既に、そうなってますよぉー、タキナ様に感謝して、縋る程の心のより何処にぃー、現にドラゴノイドの長ですら物理的にすがりに来ましたしぃー」
そう言ってニッコリ笑うロメーヌをみて、思わず鼻の奥がツーンとして涙がこぼれそうになる。
本当に情けない神だな私は…結局何処までも誰かに肯定してもらわないとダメな私、嬉しさと悲しさで感情がグチャグチャだ。
神は神であるから神なのか、それとも…神は人々に存在を神と認められて真の神となるのか…私は間違いなく後者だろうな…自重気味な笑いが思わずこぼれる。
「ハハッ、ありがとうございますロメーヌ、ロメーヌのお陰でちょっぴり神の自信が持てました。
私の方こそ、ロメーヌの存在は頼りになるお姉さんって思ってるんですよ、時々アレな感じですけど」
そう言うと、ロメーヌが一瞬目驚いたように見開いたと思うと、スッと普段の表情に戻り、何やらニヤニヤとし始める。
「いやぁーん、照れちゃいますぅー
これからはぁー、ロメーヌお姉ちゃん♡って、呼んで下さっても良いんですよぉ「それは嫌です」」
スンッと一瞬で涙が引っ込み、食い気味で断る。
「えぇー!!1回だけ!1回だけで良いんですぅーお試しでぇー!
タキナ様に、お姉ちゃんって呼ばれてみたーい
なんだかぁー、想像しただけでワクワク、ムラムラー的な「絶対ヤダ」」
「はっ!?タキナ様から敬語が消えると急に増す妹感!?
あぁーん♡可愛い好きぃー♡」
頬を染め自分自身を抱きしめてウネウネしているロメーヌをドン引きの目で見つめる。
この酔っぱらいエルフ!?ちょっと見直しかけたのに!?
新たな性癖の扉を開く気だっ!!?いや、もう開いてる!?
すると、隣で丸まっていたリリーちゃんがムクリと起き上がると、蔑むような目でロメーヌを見つめる。
「黙って聞いていれば、調子に乗りやがってこのクソアマがっ…タキナ様をお前の汚い妄想で汚すな」
「リリーさんも私の事を、ロメーヌお姉ちゃん♡て、呼んでみてくださぁーい」
怒りでワナワナと震えるリリーちゃんを、全く意に返さず強気なロメーヌだが、ふとリリーちゃんの震えが止まり、すぅっと顔をあげてロメーヌを見据えると、絶対零度の真顔で
「反省する気ないの?ビッチお姉ちゃん?」
その言葉に思わず私が吹き出せば、寝ているはずであるアレイナが震えているのが視界の端に入る。
横になってはいるが、どうやらアレイナも話を聞いていたらしく、リリーちゃんの発言にツボったのだろう。
ロメーヌは「あはぁーん♡」と悶絶している。
罵りとお姉ちゃんコンボで完全にイカれてしまったらしい。
「フフッ…まぁーまぁー、ンフッ…2人とも落ち着いて下さい。」
そう言って、リリーちゃんとロメーヌに声を掛けるが笑いが収まらない。
煩くてごめんねと思いつつ、必死に溢れる笑いを噛み殺した。
涎を垂らして熟睡しているグレンを横目に、暴風雨が吹き荒れる外を横になったまま見つめていたワットが
「結局今日も眠れそうにない…」
と呟き、涙を流していたのだった。




