43−1.平原の嵐
時間的にはそろそろ、空が茜色に染まる時間だろうか?
残念なことに本日は曇天の空、そして平原には暴風雨が吹き荒れている。
この世界に来てから初めて遭遇した嵐、 よりにもよって平原のど真ん中で!!
ハイランジアへ向かって馬を進めていたのだが、ロメーヌとアレイナから嵐が来るので、早めに準備した方がいいとの進言を受けて、慌てて土で大きなかまくらを造り作り出し、リリーちゃんが外側の壁を雨で土が溶け出さないようにコーティング作業をしてくれて、馬共々かまくらへと避難したのだ。
程なくして降り出した横殴りの雨を見て、心の底から何でも有りな神の力に感謝した。
「これは長引きそうな嵐ねぇー」
体を拭きながら、呟いたロメーヌの言葉にアレイナも「ですね…」と、同意する。
「明日の朝には収まっていて欲しい物です。」
私もそう呟いてグレンの頭を拭いてやっていると、外壁のコーティング作業を終えて戻って来たずぶ濡れのリリーちゃんがタタタッと近寄ってきたので「ありがとうございましたリリーちゃん!」と、リリーちゃんもタオルで拭いてあげようと待ち構えていると、その顔は少し困った顔をしていた。
「タキナ様、何者かがこちらに近づいています。」
「えっ!?こんな嵐に?気付きませんでした…盗賊ですか?」
「魔力も敵意もなですから、仕方ないかと…目視で確認しましたが、おそらくは商人かと…」
そんな話を聞いているうちに、出入り口として開けておいた入口の前に、ポニーのような馬を引いた商人風の男がやってきた。
すかさずロメーヌが出入り口横の壁に背を預け、短刀を手にする。
流石エルフの戦士、普段はあんな感じなのにスイッチが入ると、本当に頼りになるお姉さんである。
「ごめんさください!!!こちらに避難させてもらえませんでしょうか?
この嵐で逃げ場がなく…代わりに、持っている食料をお分けしますので!!!」
と、強風に煽られながら入口で叫んでいる中年の商人風の男性、哀れなことに、ポニーに似た可愛い馬もびしょ濡れで毛が顔に張り付き前が見えていない様である。
この男が良からぬ行動を起こしたとて、この面子であれば片手で事足りるだろう。
「どうぞ、我々もこの嵐を避けるために避難していたところです。
中に馬が3頭も居るので手狭ですが、お入りください」
そう伝えれば
「ありがとうございます!本当に助かります!!」
そう言って馬を引き入れながら部屋の中に入ってくると、背負っていたリュックサックをどさりと下ろし、中から手拭いの様なものを取り出すと、顔や体を拭う。
「いやー、本当に助かりました。
どこか風雨を凌げる場所を探す為に彷徨っていたところ、コチラの建物を見つけまして、あっ!申し遅れました。
私は、ワットと申しまっ……」
言葉が途切れ、驚き目を見開いて固まるワット、その注がれている視線の先、それは私の頭だった。
あぁ、濡れてしまったローブを脱いでいたのを忘れていた。
「噂の黒髪の女は私ですよ、心配なさらずとも善良な方に力を振るうことなど致しませんから、ご安心ください。」
「ハッ、ハイィィィィ!!わっ、私はワットと申しまして!!
たっ、たたた旅商人をしております!!
扱うのは宝飾品や工芸品など様々な物ですが、ななななな何も悪き事はしておりません!!!」
ズシャッ!!と、音をさせて地面に座ったと思ったら、額を地面に擦り付けて土下座をするワット
そんなに怖がらなくても良いじゃないか、傷つきますよ…って…ドラゴン落とした様な得体の知れない者ですもんね…そりゃこうなりますか…
「ワット、頭を上げてください。
楽に…と言っても難しいでしょうけど…そうだ、コレから夕食なのですが、一緒にいかがですか?」
「ハイィィィィィ、毒でも泥水でも何でも頂きますぅぅぅぅぅ!!!」
そう言いながら、一瞬上げた顔を再び額を地面に擦り付けるワット
何でだよ…
心の中で、静かなツッコミを入れつつ、警戒していたロメーヌとアレイナに困った様なか顔を向ければ、ロメーヌもアレイナも警戒を解いて苦笑いしながらコチラにやって来たのだった。
かなり広めに造ったかまくらだったが、馬3頭にポニー、人が6人では中々に手狭である。
出入り口付近で馬達が草を食んでいるのを横目に、簡易的に造った囲炉裏を囲い私が元いた世界のシチューを頂いている。
もちろんシチューのルーは、リリーちゃんに出してもらった。
「濃厚なスープで、すごく美味しいです!!
ミッドラスの食事は本当に…辛くて…うぅっ…美味しい…ちゃんとした食事ですっ…」
泣きながらシチューを啜るアレイナ、私も同じくミッドラスの食事は合わなかったので心の底から同意である。
この世界の方々にもシチューは口にあったようで、グレンも無心で食べ進めている。
「私もあらゆる場所を行商して歩いておりますが、このように美味しい食事は初めて頂きました。
それにこのパン!焼きたてでもこんなに柔らかいパンはそうそう食べれません!」
そう言ってワットさんがシチューにパンを浸して口に運ぶと、花がほころんだかのような幸せ顔をしている。
「お口にあったようで何よりです。」
そう言って私もシチューを口に運ぶ、ワットは最初こそ私を前に縮こまってたのだが、話をしているうちに少しは警戒心を解いてくれたようで、今はロメーヌとワイン片手に話をしている。
「ワットさんがお取り扱いしてるワイン、すんごい美味しいぃー!
そう言えばワットさんはぁー、護衛がいないようだけどぉー、平原に1人でよく無事だったわねぇー」
ロメーヌがそう問えばワットさんの顔が急に暗くなり、そっと皿を自分の膝に置いた。
「いえ…実は途中まで護衛付きの大きな行商の一団と一緒だったのです。
ですが…途中で盗賊に襲われて…最悪な事にその騒ぎの最中、血の匂いを嗅ぎつけたのか魔獣まで襲ってきて、盗賊も行商の一団も次々殺され、皆が散り散りに逃げ、誰が生き残っているのかすら分かりません…。
私もこの仔馬1頭ではなく、荷馬車と親馬を連れていたのですが、捨てて逃げざるをえませんでした。
この仔馬も魔獣に食われたとばかり思っていたのですが、何処をどうやって逃れたのか川に逃げ込んでいた私の元にトボトボとやって来まして、こうして命拾いした者同士なんとかハイランジアに向かっている途中なのです。」
平原を旅するとは、まさに命懸けなのだな…とワットさんの話を聞いて痛感する。
その上、ワットさんは嵐にまで会い、自分で言うのも何だが噂の黒の女にも遭遇し、不幸過ぎて同情を禁じ得ない…。
「随分と辛い思いをされて来たのですねワット…。
そんな事があったのであれば、ろくに睡眠も取れていないのではないですか?
私がいる限り、魔獣も盗賊も寄せ付けはしません。
今日はゆっくり体を休めて下さい。
と言っても、私が怖くて難しいかもしれませんけど」
そう言って、おどけて笑えばロメーヌも笑いながら口を開く
「安心して大丈夫ですょー
タキナ様は魔獣と悪党には容赦がないですけどぉー、本当はとっても優しいんですからぁー
寝れないなら、このロメーヌが添い寝してあげちゃいますよぉー」
そう言って、ワットとの物理的距離をズズイと詰めたロメーヌに、ワットが顔を真っ赤にして
「おおおおお気持ちだけで十分ですっ!!!」
と、上擦った声で焦り叫ぶ物だから皆で声をあげて笑うと、ワットも気がほぐれたようで、自分自身もつられて笑っていた。




