42−2.冒険者の真似事
平原に漂う香ばしい肉の焼ける香りがあたりに広がる。
網の上で焼かれた肉を皆で食べながら、話をしていると辺りをキョロキョロと見回すアレイナが視界に入る。
「アレイナ、何か気になる事でも?」
「いえ…そのっ、この匂いで魔獣が出てきちゃったりしませんか?」
自分の皿に肉をよそりつつ辺りを見回すアレイナ
確かに…有り得る…と、思っていると、骨付き肉を頬張っていたグレンがもぐもぐしながら
「フレイムボアならいくらでも食べれるぞ」
「グレン君、そういう問題ではなく…」
呆れた様子のアレイナに、馬鹿がっ!と言わんばかりの目でグレンを見るリリーちゃんに苦笑いしつつ
「確かに魔獣が寄ってくるかもしれまんせんが、平原に出ている魔獣を私達に誘き寄せられるのは、他の旅人達を守ることにも繋がるので、悪いことばかりじゃ有りませんよ」
平原にどの程度の数の魔獣が彷徨いているのかは分からないが、冒険者や兵士はともかく、大した装備のない旅人や村の者が容易く対処できるとは思えない。
平原とは長閑そうで聞こえが良いが、実際は死と隣り合わせ…魔獣が多くなっているのだから、なおのことだろう。
魔獣か…未だに何一つ解決できていない自分自身が嫌になる。
こちらの世界に来て、人々の信頼を得て、私と言う存在を頼りにしてくれる人々が増え「嬉しい!私は特別な人間になれている!」
そう思う反面、時々恐ろしくなるのだ。
あの悪夢もそうだが、いつ何時、その信頼をぶち壊してしまう日が来るかもしれない。
タキナではなく、タキナ様と言う存在を間違えずに行けるのか…少しずつ間違っていってしまったりしないいか?
世界を救えなかった時、私は一体どんな目で皆から見られるのか…そんなプレッシャーが少しずつのしかかって来るのだ。
わかっていた事だけれど、何の変哲もない…いや、それ以下だった人間である私には本当に…やり遂げられるのだろうか…。
ふとした瞬間に襲ってくる何度となく思ってきた負のループ…自分に自信がついた!と、調子に乗っていたと思えば、突然襲ってくるプレッシャー、情緒不安定だな…はぁ…
心の中で勝手に落ち込んでいると、ふとグレンが空を見上げる。
つられるようにその方向を見れば、小さな赤い鳥が物凄い勢いでこちらに向かって飛んでくる。
本当に小鳥かっ!?
しかし、グレンは別段慌てる様子もなく右手を空に差し出せば、その赤い鳥がその手のひらに止まる。
あっ!これってもしかして、オウカとの連絡用の魔法で編んだと言う鳥だろうか?
「グレン、それはオウカからの返事ですか?」
「はい!父上からです!」
大好きな肉を放り出い、嬉しそうに父親からの返事を運んできた小鳥を見つめる。
魔道具と言うものを初めて見たので、物珍しさで私もその鳥をマジマジと覗き込んでしまう。
一見、赤い小鳥なんだけど…でもどうやってメッセージを?
「僕はグレン、オウカからの伝言を受け取る」
グレンがそう話すと、小鳥が翼を大きく広げて深呼吸をするかの様な動作をしたと思ったら、可愛らし小鳥から発せられるとは思えぬような低音ボイスが響き渡る。
コレは!?オウカの声!?
「グレン、元気でやっている様で何よりだ。
我儘を言って、タキナ様達を困らせない様にな…。
早速、本題だが…例の魔獣の件はドラゴンの里周辺では見当たらなかった。
ドラゴノイドやエルフ達の里の方で最初に目撃されたと言うことから、私と里の者数頭で森に降りて見て回ったが、確かに大量の魔獣の足跡と、点々と残る食われた魔獣の死が森のそこかしこで見つかった。
それを辿っていったのだが、どう言うわけか川を境にピタリと足跡も死骸も無くなっている。
川を下ってきたのかと思い、上流へ向かってみたが別段変わりなかた。
まるで…突然川から現れたような、薄気味悪さがあった。
自然的ではないのは間違いないだろう。
それと、例の魔獣の残党と思しき魔獣も見当たらなかった。
ミッドラスを襲ったのが全てなのかもしれない。
幸か不幸か、増えていた魔獣を例の魔獣共が狩ってくれたおかげで、森の魔獣の数は落ち着いている。
引き続き、調査は続ける。
我らとて魔石を持つ者だ。
他人事ではないからな…タキナ様にこの事をちゃんと伝えるように、それと…グレン…身体には気をつけるんだぞ…お前が健やかであることが、父の幸せと言うことを忘れるな…では、また連絡する。」
オウカ…良いお父さんだっ!!
調査内容よりも、オウカの良きお父さんっぷりに涙が出そうになる。
見れば、グレンもウルっと来ていて、隣に座っていたグレンの頭を撫でれば、鼻を啜ってゴシゴシと腕で目を擦って涙を拭っていた。
泣き虫グレンも、少しずつ成長しているようだ。
勝手に親にでもなった様に気持ちになって、私もツーンとして涙が出そうになる。
「ほっ…本当にドラゴンが調査を…」
「わぁー!流石タキナ様ぁー!
人種を虫程度にしか思ってないって言う、あのドラゴンがぁーすごぉーい忠誠心!
あぁーん、ますます見たいわぁーグレン君のお父さん、絶対イケメンよぉー
長く生きてるけど、ドラゴンとはや「ハイソコマデ!!!」えぇーー♡」
ロメーヌ…油断も隙もない…。
隙あらば、いらん知識を純粋な子供達に聞かせようとするなっ!!
「えぇー♡じゃ、ありません!」
冷たい目でロメーヌを見れば、いやぁーん♡と色ぽい声をあげる。
歩かなくても18禁のお姉さん…存在が18禁のお姉さん…うわぁ…と言う目で見ていると
「最近、タキナ様やリリーさんから蔑むような目で見られると、ゾクゾクする様になっちゃったんですよねぇー
数百年生きてきてぇー、新しい性癖の扉が開きそうですぅー」
「一生開けないでください。
閉じてください。
鍵かけといてください。」
「タキナ様の言う通りです痴女エルフ、気持ち悪いこと言ってると里に投げ返しますよ」
「「投げっ!?」」
思わず私とアレイナの言葉が被る。
できそう…リリーちゃんなら本当に出来そう…。
「やぁーん、それは困りますぅー!
私にも大切な目的!イイ男探しの旅がここで終わりなのは困りますぅー」
ムゥーっと口を尖らせるロメーヌは、憎たらしい程に可愛くて…ズルイッ!!!
はぁ…っと、ため息を吐いて隣を見れば、くだらない女子トークをガン無視して、オウカからのメッセージを何度も繰り返しきているグレンを見て微笑む
「グレン、返事をする際はオウカにありがとうございましたと、タキナが感謝していたと伝えておいてくださいね。」
それを聞いたグレンが、ハイ!と元気よく返事をした。
「グレン君のお父様が仰っていた川というのは、兄様が魔獣を見たという場所から考えると、思い当たる川がありますが、魔獣はどうやってそこまで来たのでしょうか?」
そう言って、アレイナが首を捻る。
「その川はサンタナムからは距離はあるんですか?」
サンタナムが黒!と決めつけすぎるのは良くないとは思うが、川を挟んだのは足跡を残して魔獣の出所を分からなくするため、自然発生的な魔獣であればそんなことをする必要は無い。
サンタナムに責任を押し付けたい国があるのかもしれないし、なんとも言えないが、アレイナの言う通りその魔獣を果たしてどうやってそこまで連れてきたのかは、大きな疑問だ。
「決して近くはありませんが、サンタナムからもその森へ抜ける事は可能です…」
サンタナムは限りなく、黒に近いグレーだな…
はぁ…今すぐサンタナムに調査にも行きたいが、サージの件も待ったなしだ。
どちらにしろ、人災…割ける人員も居ないし、困ったなぁ…こんな頼りない神ってどうなのよ…
やんや言い合っているリリーちゃんとロメーヌを横目に、雲行きの怪しくなり始めた曇天の空を仰いだ。




