40−2.頼み事
そう伝えれば、驚いたような顔をする2人、ホセルが呆気に取られつつも口を開く
「そんな事くらい構いませんが、タキナ様方ならこの国の代表や軍から情報が行くのでは?
何せこの国の英雄じゃ無いですか!」
「そっ…そのぉー、非常に言いにくいのですが…この国の政治に利用されないために、実はこれから城壁を飛び越えて逃げようかと思っておりまして…」
視線を泳がせながらそう伝えると、ルイがプッと吹きだして、それに釣られるようにホセルも吹きだして大笑いをし始める
「プッ…あははははははは!!」
「こんな…くっハハハハハ、タキナ様は本当に…フフフフッ」
笑うなら笑えば良い…英雄みたいな真似した思ったら脱兎の如く逃げるんだもん。
私だって、本当はこんなことしたくありませんよ…
グヌヌヌぬと唇をへの字にしていると、それを見たルイが口を開く
「いやぁ…申し訳ありませんタキナ様、まさかフフフっ…タキナ様ともあろうお方が逃げ出すほど政治嫌いとは思いませんでして…フフフっ」
「ハハッ!確かにタキナ様程のお力があれば、シルトフィア代表が何もしないわけないからな!
はぁー、笑ってすみませんでした。
もちろんお受けしますよ!タキナ様には返しきれない程の御恩があるんですから、街の噂話を流すくらいお安い御用ってもんですよ」
ホセルがそう告げると、ルイもウンウンと頷く
「私らなんかにできる事なんてたかが知れていますが、お役に立てるのなら何でもおっしゃって下さい」
その言葉に、私の方が困ったように眉を下げてしまう。
2人の思いを利用するようで些か申し訳ない。
噂話を流してくれとは言ったが、スパイをさせるようなものだ。
変な誤解を生む可能性もゼロじゃない。
「ありがとうございます。
できれば、何かお礼ができれば良いのですが…」
「お礼だなんてとんでもない!!
タキナ様にはご恩があるんですから!
そんな事、仰らないでくださいよ!」
ルイが真剣な顔をして前のめりになってくるので、思わず私が仰け反る
だがしかし、そうは言っても…
「いえでも…長期的なお願いになってしまいますし…」
まぁまぁ、落ち着いて下さいとルイを落ち着かせつつ、奥さん止めてよホセル!と、ホセルを見れば何やら言いづらそうにしている。
「何か有れば、遠慮なく言って下さいホセル」
そう言うと、ルイの首がものすごい勢いでホセルに向く
「アンタ!!!タキナ様にはこれ以上ないくらいご恩があるってのに!」
ルイの勢いにホセルが、ヒィーっという顔をしながらも落ち着けと手で制している
「違う…いや、違くない…頼みと言いますか…何と言いますか…許可を頂きたくて…」
「「許可?」」
思わずルイと顔を見合わせて声がハモった。
「実は…お恥ずかしい話、若い自分には絵描きを目指していた頃がありまして…こう見えても絵は人物画は上手いんですよ…。
ただ、この国は人物画よりも風景画が好まれるので辞めちまってたんですが…タキナ様のお姿を見ていたら無性にタキナ様の事を描きたくなってきまして、できればタキナ様のそのお姿を描く事と、その絵を売る許可をいただけませんでしょうか!!どうか、お願いします!!」
そう言うと、椅子から降りて床に土下座をするホセル
この世界に来てから2度目の土下座!?
じゃなくて!呆気にとられている場合じゃない!!
「ホセル!頭を上げて下さい!
私なんかでよければいくらでも描いて下さって構いませんが…売れるとは到底思えませんが…」
私も椅子から降りて、ホセルの肩を押して起き上がらせれば花が咲いたかのように明るい顔になるホセル
「本当ですか!?よろしいんですか!?
ありがとうございます!ありがとうございます!」
そう言って再び、床とゴツンするホセル
その隣にルイも座り込みホセルの肩にそっと手を置く
「この人が昔、絵を描いてたってのは聞いてましたけど…確かに絵の仕事なら真っ当な仕事だし、これからタキナ様の絵は売れると思うけど…でも、タキナ様を利用して売るなんて、私は気が進まないよ…」
「そうそう…売れ!?
いやいや、売れないと思いますけど…」
途中までルイの言葉に共感を覚えていたが、いやいやいやコレは自分下げとかじゃなくて
普通に!!無いだろ!誰が買うのよ!?ポッと出の黒の化身?いらんだろ!
「話は聞きました。
ここにスケッチブックと鉛筆、絵の具一式を用意しました。
タキナ様の神々しい御姿を描いて見せて下さい。
下手ならタキナ様が許しても、このリリーが販売を許しません。」
「リリーちゃぁぁぁぁぁん!?」
思わず叫んでしまったが、いったいどこから話を聞いていたのか、ホセルにお絵かきセットを手渡しているリリーちゃん、それどころか販売許可が認可制って!?
ホセルもホセルで、お任せ下さい!必ずご満足いただける絵を!とか、力説してるし!!
ちょっ、まっ…えぇぇぇぇぇぇぇぇ!?
コレで販売されて、一枚も売れなかった時のホセル一家の絶望と、何よりも私の心も粉々になりますが!!?
描き始めてしまったホセルも、進んでいく話も止められない私の心の叫びは、もちろん誰に訊かれることもなく消えていった。




