39−1.脱出準備
古びた木の匂いと、埃っぽい匂い。
たった数日だが嗅ぎ慣れてしまった気さえするその部屋に、風呂上がりの石鹸の良い匂いをさせた大人と子供がその狭い部屋に集まっている。
ドートル達に入浴後は軍の施設へお戻りくださいと告げられたのだが、荷物が宿に置きっぱなしなので!
と、無理やり理由をつけて宿へと戻ってきたのだ。
城壁外の大騒ぎで酒場を休業していたマスターが、フードを外している私の顔と髪を見て渋い顔をしたと思ったら「やっぱりか…面倒ごとはごめんだ」と、一言告げるとカウンターの奥へと引っ込んでいった。
流石は酒場のマスター、私の事は薄々気づいていたらしい。
面倒ごとに巻き込まれたくなかったのだろうが、黙っていてくれたのはありがたい事この上ない。
部屋に戻り一息つくと、皆の顔を見渡す。
「さて、昨晩から皆さん大変お疲れ様でした。
皆さんのおかげで、何とか難を逃れました。
このまま、皆んなでゆっくり美味しい物でも食べて労を労いたいところですが…事は急を用意します。
残り時間は5時間、その間にミッドラスを脱出します。」
ベッドに腰掛けた私が深刻そうな顔をして告げれば、向かいのベッドにアレイナと共に座っていたロメーヌが「はぁーい質問でぇーす」と、いつもの間延びした様子で手を挙げる。
どうぞ、と質問内容を促せば
「逃げる理由は、ミッドラスの政治関係に絡みたくないって言うのは分かるんですけどぉー、あの魔獣達を操っていた犯人がまだこの国にいるかもしれないのにぃー、放置して良いんですかぁー?」
「ロメーヌの疑問はもっともです。
ですが対人であれば対応は獣人達だけでも可能でしょう。
しかし今後の為に情報は必要ですから、これからある人物と話をつけに行こうと思っています。
彼には色々と迷惑を掛けることになりそうですから、何かお礼になる物があれば良いのですが…」
ある人とはホセルの事だ。
オルハントにも声はかけるつもりだが、シルトフィアの「奴隷商人、奴隷狩り潰す」宣言
それを生業としていた彼はこの国に長居はできないだろう。
しかし、2人にお礼か…お金くらいしか思い浮かばないな…
そんな事を思っていると、向かいのベッドの後ろに立っていたクロイも手を挙げる。
何故に挙手制!?
そんなに遠慮せずとも良いのに…と思いつつも、クロイにどうぞと言えば
「宿の外にも兵士が居ますし、まず門の外になど出してもらえないでしょう。
どうやって脱出をされるのですか?」
「それには考えがあるので大丈夫です。
あっ、因みに皆さんは城壁の高さから飛び降りる事は可能ですか?」
そう問えば、ギョッとする大人達だが子供2人は
「問題ありません」
「僕もあのくらいの高さ、この姿でも余裕です」
何ともたくましい2人だ。
さて、君達は?と見れば、ロメーヌは少し考えるように人差し指を顎に置いて首を傾げると
「あれより高いところから飛び降りた事あるのでぇー大丈夫ですぅー」
そう答えると、口元をひくつかせたクロイが
「エルフが大丈夫なら…おそらく…我らも問題ないかと…」
「ちょぉっとぉー!ドラゴノイドもエルフを下に見る様な発言するのぉー
ひどぉーい!アレイナちゃんのお兄さんひどぉーい!
アレイナちゃん慰めてぇー」
えぇーん!と、嘘泣きをしながらアレイナの胸にぐりぐりと頭を押し付けるロメーヌに、ハワワワ!と顔を赤くして慌てるアレイナ
「オイ!!先程の発言は訂正する!!
だから妹に不埒な真似をするな!!」
違う意味で口元をひくつかせるクロイに、頬を染めて目線を逸らすエド、通常運転の仲間達に安心感を覚える。
本当にみんなが無事でよかった。
強い彼らなら心配するほどでもないんだろうけど…
こうして皆なが楽しそうにしている事が、私の安らぎになりつつある。
微笑みながら眺めていたいところだが、今は時間がない!!!
「ハイ!そこまでです!
私はこれから2人、会わなければならない人がいます。
他の皆なも何かやらなければならない事があれば早めに!
クロイとエドは、この後はどうしますか?
私達は、ミッドラスを出た後は引き続き旅を続けるつもりですが」
首を傾げて問えば、クロイが咳払いをしてこちらに向きなおる。
「お供したいところですが、私とエドは里に戻るつもりです。
この件を里の者にも伝えなければ、皆も不安がっている事でしょうから」
その言葉に、そうですか…と少々残念な声が出てしまう。
クロイのおかげで色々と助けられたからな、残念だがクロイは里長なのだから仕方ない。
私の言葉に、クロイが眉を下げて困ったような顔になる。
おぉ!!っと、何を考えているんだ私!!
旅の仲間を増やそうとしてどうする!男手は確かにありがたかったけど!!!
「では、4時間後にこの地図のバツ印の場所で落ち合いましょう。
では、解散!」




