38−1.救い
ミッドラス軍施設、その応接室は茶色い革張りの4人掛けのソファーが2脚、通常のテーブルセット同様にテーブルと相向かいになる様セットされているテーブルには、青いテーブルクロスが敷かれており、その上にはすっかり冷めてしまったティーカップが6つ置かれていた。
その静まり返った部屋に、冷めたお茶が凍てつくのではないかと思うような、冷たい声が応接に響く
「それで、その主犯格どころか誰1人捕まえられなかったと?」
応接室に苛立つシルトフィアの声が響く、重要参考人確保のために動いていた兵士達の隊長がシルトフィアの言葉に小さく申し訳ございません…と応える。
兵士が縮み上がるほどの迫力、やはりシルトフィアの姐さんと呼ばせていただきたくなる。
兵士の話によれば、拠点と思しき廃墟に突入したが壊された魔石と、40人の奴隷の遺体が残されており、主犯と思われる者はすでに逃走した後だったと言うことだ。
後続の魔獣達がやけに単調な動作だったのは、操る者側に問題が生じたせいだったのかも知れない。
…40人もの犠牲者…
平原での戦いで1人の死者も出さなかった!良かった!と喜んでいたが、私は救えなかったのだ…40人もの人々の命を…。
ため息を吐いて思わず手で顔を覆い俯くと、しくじった事に対しての落胆の溜息と勘違いしたのか、兵士が小さな悲鳴をあげる。
「ヒッ…ももも申し訳ございません!!
そっ、そのどっ…奴隷達ですが、全員泡を吹いて死んでおりました。
周りには人数分の小瓶が転がっておりましたので、口封じに毒物を服用させられたのかと…」
追い打ちをかけるような兵士の言葉に、心が引き裂かれるようなそんな感情が湧き上がる。
本当に私は…神など名ばかりだ…
テーブルの向かい、シルトフィアの隣に座っていたドートルの深いため息が響く
「奴隷の中に獣人はいたのか?」
「はい…6人おりました。」
「そうか…」
悲痛な顔をする兵士やドートル達、それを見て複雑な思いを抱える。
やはり、彼らからすれば同族以外はどうでも良いと言う事なのだろう…差別、その言葉が頭をよぎる。
ミッドラスを魔獣から救えた。
だが、ある意味私は救えなかった。
一体どう行動していたら、全員を救えていたのだろうか?
神といえども、犠牲を出さずに全てを救うなど不可能なのだろうか?
そう思ていると、私の隣に座っていたロメーヌが口を開く
「ちょっとぉー!それは失礼じゃなぁーい?その遺体の中にはエルフも居たのよぉー
獣人以外はどうでも良い!みたいに聞こえるんですけどぉー」
何時もの間延びした話し方だが、ロメーヌの表情は無表情だ。
その言葉に、ドートルがハッとしたように
「申し訳ない…」
と、一言謝罪した。
その顔を見たシルトフィアも盛大にため息をつくと
「この国に蔓延っている奴隷商人も奴隷狩りもいずれ全部潰す。
助けられなかった犠牲者はコチラで丁重に葬るわ
そこの!突っ立てるアンタ!すぐに手配してちょうだい!
それと、逃げた奴らの捜索は続けなさい!
まだ門を開放していないんだから、この国の中にまだ居るはず!
この国を襲った落とし前、そいつらには死にたくなる程の苦しみを味合わせてやる。
何としても捕まえてきなさい!!!
でないと…どうなるか分かってるわよね?」
地を這う様なシルトフィアの声に、兵士の尻尾が縮み上がると
「ななななななな何としてもひっ捕らえます!!!!」
そう言うと、勢いよく部屋から飛び出して行ったのだった。
シルトフィアは何事もなかったかの様に、他の兵士に「お茶が冷めてるから入れ直して来て」と、ティーカップを差し出すと、兵士はティーポットを持って部屋から慌てて出ていく
「シルトフィア代表、軍の責任者は私なんだがな…」
ドートルが呆れた様な声を出すと、先ほどまで大人しく腕組みをして部屋の隅で座っていたダンが大笑いする。
「ダハハ!!ミッドラスの軍団長も兵士も代表の前じゃ仔犬も同然だな!!」
笑い事じゃないだろ…と、その横に立っていた同じ副団長のプロンズが呆れた様に首を振る。
冷ややかだった部屋の空気がようやく和やかになってきた様だが、私の心は晴れない。
晴れるわけもない…
そんな事を思っていると、再びシルトフィアが口を開く
「タキナ様にはこの国を救ってくださった御礼を、改めてさせて頂たいと思っております。
ささやかですが祝賀会も用意させておりますので、どうぞ皆様方と一緒にご参加ください。」
そう言うとニッコリと効果音が付きそうなほど綺麗な笑みを浮かべるシルトフィア…
その言葉に、一瞬で脳が反応する。
それは…お礼と言う名の…祝賀会と言いつつ…政治的に巻き込まれる感じなのでは???
すぐさま断ろうと口を開く
「あの…お気持ちは大変「その前にミッドラスの大浴場を貸し切りましたから、そちらで疲れを癒やしてくださいな
アンタ達もさっきから臭いわよ、さっさと風呂入ってきて」」
嫌とは言わせないシルトフィアの言葉と、遠回しに私も臭いと言われているようで…
「「「「「はい…」」」」
と、軍TOP3と共に小さく返事をしたのだった。




