37−2.勝どき
「クククッ…アハハハハ!!
大混戦になりそうだが、それはそれで楽しそうじゃないか!!!」
振り返れば、目の前に迫っていたサーベルウルフの首を黒刀で跳ね飛ばす。
第二陣の魔獣がさらに加速して迫ってくる。
先頭はフレイムボア、そしてその後ろにはサーベルウルフ…猪で蹴散らして狼が本命か…どう見ても魔獣にそんな知恵があるとは思えない。
何者かが誘導しているのは確定だろう。
背後から兵士達の雄叫びが迫って来る。
この数の魔獣相手は流石にキツかろう…と、内心で呟いて左手を下から振り上げる動作をすれば、地面から乱雑に突き出した氷の槍がフレイムボア達を次々と串刺しにしていく、体を削られながらも手負のフレイムボアが抜けていく
ちょっと…抜けた数多いか?
と、一瞬過ったがゴーレムもまだ残っているし城壁にはリリーちゃんとアレイナもいる。
あの2人なら上手く援護するだろう。
そう、考え直して迫り来るサーベルウルフに向きなおる。
「さて…お前達は行かせてやれないなー
私と楽しもうじゃないか!」
氷の槍を隙間なく地面から突き出させて5mほどの壁を作り、サーベルウルフ達を止める。
慌ててブレーキをかけるサーベルウルフだが、先頭の何頭かが槍の壁に激突するが、槍はびくともしない
「さぁーさぁー、第2ラウンドの開始ですよー!」
楽しげにニヤリと笑えば、止められた数十頭のサーベルウルフが唸りながらコチラに向かって突進してくる。
飛びかかってきたサーベルウルフを避けるように屈むと、足の付け根から胴体へ向かって刀で斬り捨てる。
刃が魔石に当たる感触はあるものの、そのままスパッと斬れてしまう刀の切れ味は、さすが神の力とでも言おうか?
一度に4頭で飛びかかってくるのを、笑って飛び退けば予想通りゴッツンコ
4頭が起き上がるのにもがいている間に、爆破の陣で一気に吹き飛ばせば肉片が辺りに飛び散る。
それを見ても恐るどころか突っ込んでくるサーベルウルフ達は、やはり生き物ではなく操られる屍か…次から次へと飛びかかってくるサーベルウルフを、かわしては斬り捨て、蹴り飛ばしては斬り捨てる
「どうした?飛び掛かってくるだけでは芸がないぞ?」
魔獣に言い放つが、もちろん返事などするわけもない。
先程のドデカサーベルウルフは、魔法攻撃の他に攻撃をかわしたりカウンターを入れて来たが、この後続集団はひたすら突っ込んで来る魔獣しか居ないのか?
強い個体も、でかい個体もいない…
考えてみれば魔獣であるのに魔法攻撃を仕掛けてきたのは、あのデカいサーベルウルフだけだ。
一概に屍魔獣と言っても種類がいるのか…それとも操る側に何か問題が生じたのか?
そもそも、何故集団を分けて後続を先に?
何か事情が変わったのか?
そんな事を考えながら刀を振っていたら、うっかり返り血を顔に浴びてしまい思わず顔を顰める。
腐敗臭の漂う死体の魔獣、血も腐っているようで顔につくと流石に臭くて仕方ない。
「クッサっ!!!」
あまりの臭さに集中力が切れ、振り切れていた感情が戻り始める。
見たところ、残りのサーベルウルフは10頭位だろうか?
後ろに飛び退き、サーベルウルフと距離を取ると黒刀を自身の真横に構える。
刀に神の力を込めれば鈍く光り始める黒刀
ちょっと、厨二病ちっくだが今更か
「さようなら屍共、土に帰る時間だ」
にっこり笑ってその刀を勢いよく真横に振れば、黒い一閃が飛び出し、一瞬でサーベルウルフ達の胴体を切る。
勿論狙ったのは魔石の部分、サーベルウルフの上半身がドサリと地面に落ちると、立っていた下半身もバランスを崩してバタバタと倒れていく
「初めてにしては上出来上出来!」
機嫌良く顔についた腐った血をローブで拭い取るが、やはりまだ臭い…
終わったら絶対お風呂に入る!そんな事を思いながら、さて後ろはどうなったかなー?と、氷の槍を消せば魔獣は全て地面に倒れており、敵を失ったゴーレムが伏せをして倒れている魔獣の魔石をガリガリと噛み砕いている。
馬は倒れ、兵士達もボロボロで治療をされている者もチラホラいるが、見たところ死人は出てないようだ。
無傷の兵士も多くはあるが、それでもこの有様とは…魔獣が強すぎたとでも言うのか?
確かにドラゴノイドのクロイ達が対処できないと判断したとはいえ、抜け出た魔獣は多くはなかったはず。
しかも彼等は魔獣戦は得意なはず…。
息すら上がっていない自分に、何処までも自分の力が規格外すぎるのだなと改めて痛感する。
今更だけど…。
槍の壁が消えたことに驚いたのか、コチラを一斉に振り返る兵士達の視線が、私の背後に散らばっているサーベルウルフの死体を見る。
「………」
些か…残虐性がすぎる光景かもしれない…
毎度お馴染み、後半は割と自分を保っていたつもりだったが全くそうではなかった。と、今更ながらに焦りが込み上げる。
「かぁー!!!流石はタキナ様はとんでもねーなー!!!
息切れひとつしてねーってのが、規格外にも程があらぁー」
コチラに歩み寄ってくるダンの腕や顔にはかすり傷はあるものの、大きな怪我はなさそうだ。
その隣を馬を引いたプロンズがやってくる
「ご無事で何よりです。
さぁ、タキナ様!勝ちどきを!」
「えぇ!?私!?」
プロンズの言葉に思わずたじろげば「ダハハハ!!それ以外に誰がいる?」と大笑いしたダンが、しゃがんだと思ったら私を持ち上げそのままダンの肩に乗せられる。
兵士達の視線が一様にコチラを向き、えぇーっと…リアクションに困っていると
「「ターキーナーさぁーまぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
と、遠くから元気の良いリリーちゃんとアレイナの声が響く、その声を聞いた瞬間「プッハハハハ!!」と噴き出しひと笑いすると、思いっきり息を吸い込む
「我々の勝利だぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
と、全力で叫けび黒刀を天にかざせば、目の前の兵士達と城壁からも
「「「「「「ウォォォォォォォォォォ!!!」」」」」」と、地響きのような声が響き渡った。
遠くから勝どきと思われる声が平原に響き渡る。
「えっ?終わっちゃったの?
来ないじゃん!!!魔獣1匹どころか何にも来ないじゃん!!!
僕のかっこいいところ見せつけたかったのに!
僕はドラゴンなのに!!!!」
地団駄を踏みなが、体を振り回し暴れ回るグレンを屈んで避けるクロイとエド
「グレン殿!!落ち着いて下さい!!
そのお姿だけで強さは十分伝わりますから!!」
ですから、その姿のまま暴れないでください!!!
エド!避けろ!!」
「グレン殿!!コッチに来ないで下さっ!うわぁぁぁっ!?
タッタキナ様!!タスケテ!」
「タキナ様に褒めてもらいたかったのに!!!
タキナ様のお役に立ったって、父上に自慢したかったのにぃぃぃ!!!」
そう叫ぶと、人語を捨てて思い切り天に向かって怒りをぶち撒けるように咆哮するグレン
獣人並みに聴力の優れるドラゴノイドの2人が慌てて己の耳を塞ぐが
「「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」…あっ……」
「クロイ様!?クロイ様ぁぁぁぁ!!!?
お気を確かにぃぃぃぃ!!!!」
その日、平原には勝どきと、咆哮と、悲鳴が響き渡ったのだった。




