36−2.邪神vs魔獣
まだ星の見える薄暗い空を見上げ、平原のど真ん中で「さて、頑張りますかねー」と、自分に言い聞かせながら思い切り伸びをする。
赤い陽が平原を照らし始め、朝露に濡れた草が陽の光に反射してキラキラと光りとても綺麗だ。
湿度を含んだ朝の独特の香りを目を瞑り、胸いっぱいに吸い込み、ゆっくりと目を開けば起伏のある平原のなだらかな坂の上から、魔獣の集団が姿を表した。
昨晩、ロメーヌとアレイナの捜査報告から、ミッドラス国内に呼び寄せている魔石があるのではないか?と言う可能性から、裏事情に詳しいオルハントに協力を仰いだところ、最近魔力の強い奴隷をやたら買い集めている者が浮上した。
何処からそんな金が?と、思うほど湯水の如く金を使い奴隷を買っていくので奴隷商人もよく覚えていたらしい。
奴隷商人が奴隷の魔導士集団でも作るのかと冗談で聞いたら、「魔石の動力炉にするのさ」と冗談めかして言っていたという。
それもう黒では!?違ったとしても危険人物には変わりない。と言うことで、ミッドラス兵士と共にロメーヌが引き続きその人物の捜索を行なっている。
元凶を確保するのが先か、魔獣を蹴散らすのが先か…
おそらく、この世界に来て初めて大規模な力を使うんじゃないだろうか?
不安は勿論ある。
自分の意思とは関係なく、力を使えば塗り潰される己の理性、そして過ぎるのはあの悪夢
幸にして、私は今のところ人を殺めていない。
憎しみに駆られていない。
けれど、これから先はわからない…
だから、昨晩考えて心に決めた事がある。
もし…憎しみに呑まれ力を使おうとした時、あの悪夢のように自信が憎しみに塗りつぶされそうになった時
私は自らの命を絶つ
思うのは簡単だし、そう簡単に自死など出来ることではないだろう。
並大抵の覚悟では無理だということも分かっているつもりだ。
けれど…私が私を止めなければ誰にも止めることはできない。
もしかしたら、自称召使が止めてくれるかもしれないが…
再度、ゆっくりと目を瞑り首から下げた赤い瑪瑙の勾玉を握りしめる。
私は大丈夫、私なら大丈夫
平原に出る直前にリリーちゃんから「御守りです…」と手渡されたネックレス、受け取って貰えるか不安げな顔をして差し出してきたリリーちゃんを思い出して、ふと微笑んでしまう。
その上、リリーちゃんから「タキナ様を守るおまじない」も、して貰ったし大丈夫!
前を見据えれば、第一団の魔獣達が街道沿いから徐々にサイドに広がり始め一気に加速し始める。
まるで、何者かの指示を受けてミッドラス攻めの開始を告げられたかのようだ。
ミドラスから鐘の音が3回響く、平原に居た住人や人々の避難が完了した合図だ。
「さて、始めようか」
まるで、その言葉を聞いていたかのようにミッドラスの城壁から赤いドラゴンが飛び立ち、挨拶がわりと言わんばかりに私の上空を大きく旋回すると、そのまま魔獣の後方へ飛び去っていく
グレンの背に乗ったクロイと、その護衛のドラゴノイドのエドが悲鳴をあげていそうだ。
3人の役目は魔獣が森へ逃げ込まないようにブロックするのが役目だ。
「そんなのつまらないです!」と、ごねたグレンをいつもの様に食べ物で買収して納得させた。
頼みましたよ3人共!!そう心の中で呟くと、ニヤリと笑い500m程まで迫ってきた魔獣達を見る。
今回の戦いはギャラリーが多いのだ。
やっぱり勝てませーん!なんて、みっともない真似はできない。
私はいつからこんなに肝が座るようになっていたのか?
そんな事を思いながら右手を天にかざすと、自分の後方に魔獣の広がりに合わせる様に上下左右大量の氷の槍が空中から現れる。
「さぁ、まずは小手調べ何頭立ってられるか、なっ!!」
右手を勢いよく振り下ろせば、氷の槍が弾丸の如く発射される。
その後からも、連射する様に氷の槍を次々作り出して撃ち出す。
その槍に体を削られ、肉塊が飛び散り悲鳴をあげて倒れていく魔獣達、だが流石は屍…体を削られながらも更に速度を上げて走り出す魔獣、頭を半分削られても、体を射抜かれても、それでもこちらに突進してくる。
流石に魔石を一撃で仕留める正確な射撃能力はない。
故に、数打ちゃ当たる戦法のつもりだったが、頭を完全に潰すか、足を削らない限りは突き進んでくる。
うーん、ますますバイ◯ハザードのゾンビ!!
しかし、いやでも…これだけの規模の力を使って、それでも止まらない魔獣達…
くつくつと笑いが込み上げてくる。
「くくっ…アハハハハハハ!!!死なないなんて最高に潰し甲斐があるじゃないか!!!」
かつてない大規模な戦いに高揚感が一気湧き上がり、黒い感情が徐々に私を塗りつぶし始める。
いつもなら、争おうとも思うが今日ばかりは………ククッ…楽しみたい!!!
だって、死体相手に遠慮なんていらない!!!
存分に斬って捨てて!
跡形も残らないほど噛み砕いてやる!!
アハハハハ!!と高笑いをしながら、黒い日本刀を右手に作り出す。
それと同時に氷の槍を打つのを止め、昨晩のダンとの戦いで思いついた新しい力を試す。
「さぁ、出ておいで!!
奴らの魔石を噛み砕いて来い!!」
そう声をかければ、地面から這い出すように出て来たのは50体程のサーベルウルフ型ゴーレム、それらは這い出ると同時に走り出し、魔獣に向かって次々に飛びかかっていく、指示通りに魔石部分を執拗に狙うゴーレム達
我ながら良い出来じゃないかーと満足気に眺める。
しかし、そんなゴーレムを蹴散らしながコチラに一直線に向かってくる一際大きいサーベルウルフが視界に入る。
狙いは私か…
ククッ良いね良いねー!面白くなってきた!!
「アハハハハ!!屍風情が上等じゃないか!!」
突っ込んでくるサーベルウルフにコチラも走り出し真っ向勝負を仕掛ける
あぁ…最高に楽しい!!!
目を見開き、歪み切った己の顔など気にするのも忘れて黒刀を振るった。




