36.邪神vs魔獣
軍の施設内が慌ただしく動き始める。
シルトフィアによって偵察に出されていた3人組の報告からも、数百の魔獣がコチラに向かっている事が報告され、いよいよ本格的に危機感を持った兵士達が動き始めたのだ。
「不気味でした…闇の中で赤く光目玉に、魔獣達の足の付け根の魔石が鈍く光ってて…数百の赤い光が向かってくるのは異様な光景でしたよ…」
3人組の1人が、怯えた様子で応接に居たドートルや私達に報告をあげる。
それを聞いたクロイが眉を顰める
「数百は言い過ぎだ。
目や魔石の光でそう見えただけだろ、魔獣は100頭かそこらのはずだが」
言われてみれば、リリーちゃん達と作戦を考えていた時に聞いた数は、100頭そこそこと言う話をしていた。
リリーちゃんがそんな大幅な数の間違いをするとは思えない。
「我々も最初はそうだと思ったんですが、その魔獣の数キロほど後ろから別の魔獣の一団が来ていたんですよ…
前の集団よりも数が多かったんで正確な数はわかりませんでしたが、少なくとも300は居たと思います
しかも後ろの集団は進むペースが速くて、おそらく前の集団を追い越して、先に着くのはそいつらだと思います」
「「それを早く言え!!!」」
私とドートルの声がハモる。
まさか、ここにきて魔獣の量が増えているとは予想外…しかも通常の魔獣より強いという話だし、数十頭相手なら最強のドラゴンを倒した後だし、自信はあるが…そこそこの強さの魔獣が数で攻めてくるなら正直未知数だ。
私1人で魔獣蹴散らして、抜け出た魔獣は当初の作戦通りリリーちゃん達が対処と思っていたが、これはミッドラス軍のお力を借りる事になるかもしれない…多分…
平原でちょっと暴れますが、軍の皆さんお許しくださいねー。程度のつもりだったのに…ドートルを見れば、深いため息をついて前髪をクシャりと掴んで顔を歪ませている。
まぁ、そうなりますよね。
青天の霹靂の如しの魔獣襲来ですもんね。
しかも、帝国が戦争ふっかけて来ようとしている中ですし…
できる限り、ミッドラスの兵士達の負担にならないよう、当初の予定通り魔獣は私がなんとかしなければ
「おそらく、クロイや私の仲間が見たのは先頭の集団です。
その到着時刻が昼なら、もっと早く到着してしまう
夜明けを待っている暇はないのでは?」
私がそう告げれば、確かにっ…と、ドートルが呟き立ち上がる。
先程まで、どうしたもんかと言わんばかりの顔をしていたドートルだったが、腹を括ったのかキリッとした顔に戻っている。
「すぐに門を開いて周辺住民の避難を開始しろ!
ルークス、非番の兵士にも招集をかけてすぐに班を編成するように副団長のプロンズにも伝えてくれ!ついでにもう1人の副長、ダンの現状もな…」
一通り指示を出すと、どかりと席に座りため息をつくドートル
「本当に…魔獣の対処はタキナ様にお任せしてよろしいのですか…
魔獣の数は倍以上増えることになりますが…」
恐る恐ると言うように、様子を伺うようにコチラを見るドートル、それに笑顔で答える
「数が増えても変わりません。
元より私が対処するつもりでしたし、ここに来たのは万が一に備えて住人の避難をお願いしたくて参っただけなので」
そう話せば、手で顔を覆うように俯くドートル
「お恥ずかしい限りです…
数百の魔獣相手に兵士を出せば、魔獣と同等…いや、その倍以上の死傷者は免れない…
魔獣に襲われ疲弊した我が国と同盟を結ぶ国など皆無でしょうし、帝国は戦の準備を早める事でしょう
国を守るのが我らの務めだと言うのに、タキナ様の善意に縋る我らは本当に…情けない…」
私は軍人ではないから、彼らの悔しさが如何程なのか分からない…。
私の申し出は正直、激怒されるだろうと思っていた。
突然やってきた女に、私が戦う!お前らの出る幕はない!
と言い放ったようなものだ。
しかしながら、ダンのおかげで何とか纏まったようなものだ。
ある意味感謝しなければ、ドートルにはなんと声をかければ良いものか…そう考えていると、クロイが不意に口を開く
「自国を守れぬのは確かに恥だろうな、だがドラゴノイドの俺とてあの異様な魔獣相手では勝てる気がしなかった。
情けない話だが、タキナ様に助けを求めてミッドラスまで来たのだ。
恥も外聞も、そんな物よりも優先すべきは一族の…民の命だ。
タキナ様のご慈悲にすがってでも、一族が生き延びられるのなら俺はそれを選ぶ
もちろん、微力ながらタキナ様のお力にはなるつもりだ。
大体あの女…シルトフィア代表はタキナ様には良い顔をしていたが結局のところ、ミッドラスの兵力を削らず魔獣を撃退するため、タキナ様の申し出を即受けたのだろう。
その部分に関しては其方が気に病む必要はないと思うがな」
そう言い終わると、すっかり冷めてしまったお茶を啜るクロイ
それを見たドートルが困ったように笑い
「ありがとうございます。
些か気が晴れました。
優先すべき物は己の軍人としての矜持ではなく民の命、確かにその通りです。
シルトフィアに関しては、あれに変わってタキナ様に謝罪いたします。」
頭を下げるドートルに、いやいや謝られることは何もされて無いですと慌てれば、ノックの音が部屋に響くとドートルの返事と共に、兵士が1人入室してくる。
「タキナ様のお連れの方が門の外にいらしております。」
各々動いていたリリーちゃんやアレイナ達が合流し、情報整理と本格的な作戦会議を開始した。




