32−2.悪夢
「リリーです。
ただいま戻りました。」
その声に、アレイナがハイ!と返事をして扉を開け、扉の前に立っていたリリーちゃんと目が合うと、リリーちゃんがそのまま走り出し私の腹にタックルする。
グハッ!!と言う声をあげつつも、何時ものリリーちゃんが戻って来たのが嬉しくてその頭をナデナデすると
「9時間ぶりのタキナ様ぁぁぁぁぁ!!」
と、腹にグリグリと押し付けてくるリリーちゃんに苦笑いする。
あんなに何か抱えている風だったのに、すっかり元通りのようで安心した。
「リリーちゃん、私が寝ている間に色々と立ち回ってくれたようで、本当にありがとうございます。
流石は私の頼れるリリーちゃんですね!」
そう言うと、リリーちゃんがガバリと顔を上げて
「当然です!リリーはタキナ様の優秀な僕ですので!!」
リリーちゃん!タキナ様!と2人して抱きしめあっていると
「あっ、あのーお取り込み中に誠に恐縮ではございますが、状況を…ヒッ!!」
恐る恐る話しかけてきたアレイナの言葉に、しまった!?っと、焦っていると何故か悲鳴を上げるアレイナ、その目線を辿ればリリーちゃんに向いている。
私からは見えないが、威嚇しているのだろうと容易に想像できる…。
クロイと護衛の目線が冷たい…スミマセン、空気読まなくて本当にスミマセン…
「コホン…皆さん大変失礼致しました。
では、リリーちゃん!
偵察の報告を聞かせてください」
そう言うと、キリッとした顔つきに戻るリリーちゃんが「承知いたしました」と言うと、私から離れてベットサイドに立つと、何処からともなく何時ぞやのホワイトボードを部屋に出す。
それに慄くドラゴノイド3人を横目に、ホワイトボードに絵を描き始めるリリーちゃん
どうやら、ミッドラスと魔獣の位置関係を描き出しているようだ。
「さて、こちらに書き出した赤い三角が濁った魔石魔獣の現在の位置です。
帝国領側の森から出て来て街道に沿うように、ミッドラスへ進軍している魔獣の群れは明日の昼前には到達すると思われます。
ドラゴノイドからの情報通り、通常の魔獣とは異なっておりサーベルウルフとその餌であるフレイムボアが仲良く進軍しておりました。
魔石も見たところ、通常の魔石とは大きく異なるようですが、そばで良く見てみないと判断が致しかねます。
そして何より、あの魔獣達は全て屍です…腐敗臭が上空まで漂って居ました。」
Oh…バイオハザートデスネ…ウィルス感染系ですか?
その領域は神の範疇外だと思うのですが!?
「リリーちゃん、その魔獣に齧られると感染するようなバイオハザード的なアレですか?」
背筋が薄寒くなりながら問えば、首を振るリリーちゃん
「いいえ、バイオハザード的なアレではございませんのでご安心を、噛まれたところで屍は動きません。
屍が動いているのは十中八九あの魔石が原因かと思います。」
その言葉に良かったーと、胸を撫で下ろす。
クロイも安心したのか肩から力が抜けるのがみて取れた。
それと同時に、もう一つの疑問をリリーちゃんに問う
「なぜミッドラスに向かっているのか?その辺りはどうですか?」
「何が原因かまでは分かりませんでした。
ですが、ミッドラスを目指しているのは間違いないようですので、ミッドラスに引き寄せる何かがあるのか…何者かに操作されているのか…」
リリーちゃんも判断がつきかねるのか珍しく言い淀む
「帝国領側の森なら帝国が関与しているのか、それとも帝国の仕業と見せかけたい魔石研究の盛んなサンタナムの仕業か…」
リリーちゃんが目を見開いてゆっくりと顔を上げる。
それに釣られるようにドラゴノイドの3人も
「そんな…サンタナムが何故…ミッドラスを襲わせるのですか?」
驚いたように声を上げるアレイナに、首を振る
「分かりません、この世界の自然発生的な物であればリリーちゃんが知らないはずはありません。
そのリリーちゃんが知らないのであれば、人為的な事象の可能性があるのではないかと思ったまでです。
あくまで私の勝手な予測ですが…」
今は、魔獣がどうして出てきたかよりも、魔獣にどう対処するかだ。
ロメーヌ達が既にミッドラス側には警告しに行っているのだから、兵士達が魔獣に応戦するだろう。
私が出しゃばるまでも無いだろうから、クロイ達の懸念事である逃げ帰る魔獣達を私が対処すると言う方が良いだろう。
だが、ゾンビ化している魔獣達に恐怖心があるとも思えない。
最後の一頭になってもミッドラスに突貫してくるのではないだろうか?
バイオハザードのゾンビはそんな感じだし…。
そんな知識を参考にしていいのか甚だ疑問だが、逃げ出したら逃げ出したで私がなんとかすれば良い。
そんな楽観的に考えていると、廊下からロメーヌの声が聞こえる。
何やら珍しく怒っているようだ。
護衛のドラゴノイドが様子を見るためか立ち上がると、突然バンっ!!と言う音共に扉が開くとロメーヌが「聞いてくださいよぉー!!!」と、半ば叫びながら入ってくる。
その後ろから、めんどくせーと言わんばかりの顔をしたグレンがノロノロと入ってきた。
「あぁー!タキナ様!
起きてらしたんですねぇー!
良かったぁー聞いてくださいよタキナ様ぁー!!
もう本当に私頭に来てぇー!!
獣人の兵士達が酷いんですよぉーー!!
もう信じられないぃー!!」
また何か問題発生の予感…心の中で白目を剥きながら、どうしたんですか?
と、引き攣りながらも笑顔をなんとか作りロメーヌに問う。
もう一回、ちょっと寝ても良いですか?現実逃避したいんで…
モブにはこの緊急事態を超えられるメンタルが無いんです…
そう思いながら、語りだすロメーヌの話に耳を傾けたのだった。




