32−1.悪夢
焼け焦げた匂いと燃え上がる炎、その熱風が上空まで舞い上がる。
街が焼け、逃げ惑う人々の悲鳴が夜の闇にこだまする。
地上から必死に応戦する兵士と魔術師達が、上空を旋回するドラゴン達に投石や魔法を放つが掠りもしない。
なんて愚かなのだろうか…脆弱でありながら強欲、どんな生き物よりも醜悪な人間共、平原に逃げ出した兵士達がドラゴン達に追撃され、燃やされた身で逃げ惑うものだから平原まで火の海だ。
馬車で逃げ出す他の反乱軍も、ドラゴノイド達の魔法攻撃により馬車ごと粉々になる。
剣を突きつけられ、お許し下さいタキナ様ぁぁ!!!と泣き叫び、情けなく命乞いをする人間の兵士の首を獣人の兵士が切り落とす。
その姿を見て思わず堪えていたものが溢れて肩が震える。
「フッ…フフッ…アハハハハハハッ!!なんて惨めな姿!
こんなにも呆気なく蹂躙されて可哀想に…アハハハッ!
この世界で最も脆弱でありながら…クククッ愚かにも程がある。
その結末が…アハハハハッ!!!
怒りと憎悪!!これを晴らすのが、こんなにも爽快な気分とは!
復讐しても虚しい?とんでもない!最高の気分だ!!
私に抱かせたこの憎悪を、我が同胞の命を!貴様ら人間の命でもって贖わせてやる!
この世界を喰らい尽くす人間共!!救う価値などない人間共!!
魔獣に喰らわせるまでもない!
幕引きが欲しければくれてやる!
アハハハハハハ!!さぁ!この世界の!!」
その言葉の後にブラックアウトし、ガバリと勢いよく起き上がる。
ここは宿屋、いつの間にか寝てしまったようだ。
…異常なほどに早く脈打つ鼓動に耳までその音が響く、部屋は薄暗い。
どうやら、日が暮れるほど寝込んでしまって居たらしい。
今のは…夢かっ…それとも未来…手の震えがおさまらない。
嘘だ…違う…いくらなんでも、あんな事私がするわけがない…。
オルハントからあんな話を聞いたから、自分の力が制御できるかなんて不安になったから…だからこんな夢を見たんだ!!
大きな力を持ったとてあんな残虐な事、私にはできない!!するわけ無い!!
あんなの私じゃない!!!
そう思うが、あのノイズが頭を過ぎる…
「…憎い…」
違う…あんなの…私じゃない…
私が願うのはこの世界の人々が手を取り合う事、それが綺麗事だと言うこともわかっている。
正解なんて分からない茨の道だと言うことも…だから…そう願っている私があんな事…
怖い…怖いよ…嫌だよ…
溢れ始める涙を止めたくてシーツに顔を埋める。
部屋の外から複数の声が近づいてくる。
アレイナと男性の声…慌てて涙を拭っていると、ノックの音が響く
「タキナ様、起きていらっしゃいますか?」
アレイナの声が響き、どうぞと声をかける。
扉が開いて入って来た面子に驚く、アレイナの兄のクロイと…もう1人は護衛だろうか?
なぜ、ドラゴノイドの長がここに…クロイが部屋の中に進み出て口を開く
「お休みのところ申し訳ございません。
タキナ様に至急お伝えしたいことがあり参りました。」
神妙な面持ちの面々、良く無い話である事は明白だ。
サージの件もまだ自分の中で整理がついていないと言うのに今度は一体…
「何かあったのですか?」
ベットの淵に移動して腰掛ければ、部屋の中に入り護衛と思しきドラゴノイドが廊下を見回してそっと扉を閉めた。
そう言えば、リリーちゃん達の姿が見えない。
一体どこに?
そんな事を考えていると、私の前まで来たクロイが突然膝をつく
「魔獣が…魔獣の群れがこのミッドラスに向かっております。
それも、ただの魔獣ではない様子、タキナ様からお聞きしていた魔獣の暴走とはまた違った様子です。
里の方は厳戒態勢を敷くように伝えて居ますが、あの魔獣共が里を襲えば我らは里を捨てる他有りません…
あの魔獣がミッドラスの軍に押し返されれば、逃げ戻るのはエルフと我らが森です。
情けない願いとは重々承知しております…どうか…我らにあなた様の知恵と力をお貸しください。」
そう言って頭を垂れると、慌てた様子でアレイナと護衛も膝をついて頭を垂れる。
魔獣が?暴走ではない魔獣?一体どういう…先程の夢といい混乱して取り乱したくなる。
お願いだから1人にしてくれと叫びたい。
あぁ…私の世界の神であれば、こんな状況でも容易く対処するのだろうか…だがここに居て頼られているのは私…
深く息を吐いて心を鎮める。
「色々と…立て続けに起きていて私の方も少し混乱しています。
魔獣の様子を詳しく教えていただけませんか、向かっている魔獣が何時このミッドラスに到達するのかも…
それとアレイナ、リリーちゃんや他の皆は何処に?」
。
アレイナに目をやると、アレイナがすかさず顔を上げる。
「この話を先に聞いたリリーさんは魔獣が本当にミッドラスに向かっているのか、向かっているならどれほどで到達するのか正確な時間を予測するために偵察に行かれました。
ロメーヌさんはグレン君と共に、平原に魔獣の群れが出て来ていると警告しに警備兵の詰め所へ向かわれました。」
流石はリリーちゃん、そしてロメーヌも、ポンコツな私と違って皆んなできる子だ。
私もしっかりしなければと、少しだけ平常心が戻ってくる。
「そうですか、魔獣の気が変わっていることを願うばかりですが…ではクロイ、魔獣の詳細をお願いします」
クロイから聞かされた魔獣の様子が、リリーちゃんの話ていた魔獣の凶暴化とは随分違う。
分裂個体でもなさそうだ。
全く別の事象…一体何が起きているのか…
「我々がミッドラスに魔獣が向かうと判断した理由がございます。
何かに統率され、まるでそれを目指して歩くような…行軍のような動きに見えたのです。
通常の魔獣なら思いもしませんが…それにあの魔石の魔獣…一体どこから来たのか…」
片膝をついているままでは辛かろうと、楽にしてくれと言ったら3人が床に座るのでなんとなく私も床に降りるが、アレイナに止められたのでベットの上からクロイの疑問を聞いて、そうですよねと首を捻る。
森でふっと湧いた訳でもあるまい…いや…あるのか?
クロイ達に戻って調べてくれと言いたいところだが、その異様な魔獣に遭遇でもしたら無傷では帰れないだろうし…。
そう言えば、リリーちゃんから聞いた国の一つサンタナムという国だったか…魔石の研究をしていると言っていなかっただろうか?
ハリウッド映画でありそうな話だ…研究で生み出された生物兵器的な…バイオハザード的な…
「因みになんですがクロイ、その濁った魔石の魔獣に食べられた魔獣が動いたりなんてことは?」
恐る恐る尋ねれば、ギョッとした顔をするクロイ
「いえ!我々が見た限りではそのまま動く事などない屍でしたが…まさかアレが動くのですか!?」
「いえいえ!!念のため聞いただけなので、動かないなら大丈夫です!」
良かったー、噛まれたら仲間を増殖的な展開でなくて…
安心したのも束の間
「ですが、あの時…血と獣臭だけでなく腐敗臭が混ざっていたかと…」
護衛のドラゴノイドの言葉に絶句する。
それ死体利用的なアレでは!?
そういう話はハリウッド映画だけにしといてよ!!
「確かに…まさか本当にあの魔獣達は死体…」
クロイが俯いて手で顔を覆う。
「あの時、食われた魔獣の死体をよく確認すれば良かった…里に…里に戻らねば」
そう言うと同時に立ち上がるクロイに、アレイナと護衛が慌てて止める。
「もう夜ですよ!!いくら夜目が効くとは言え危険です!!」
「そうです!クロイ様!里の者も愚かでは有りません、歩みの遅い魔獣からであれば容易に逃げられます」
慌てるのも無理はない、正直私自身も安心しなさいと言える確証も今はない。
「落ち着いてくださいクロイ、今はリリーちゃんの情報を待ちましょう。
今ここを出るとしても、里に情報を少しでも多く持ち帰った方が良い。
そう思いませんか、クロイ?」
クロイの目を見据えてそう問えば、クロイが眼を瞑り深く息を吸って吐き出す。
「仰る通りです…
タキナ様に情けなく頼りに来た挙句、この様に取り乱し申し訳ございません…」
そう言うと、どかりと床に座るクロイ
それを微笑んで見れば、アレイナもやれやれと言った様子で座り直すが、護衛のドラゴノイドが扉の横の壁に背をつけるようにして、耳を壁に当てている。
「誰か来るようです」
間も無くしてコンコンコンと小さなノック音が響いた。




