31−2.行き先
「ほう…色々と動き出した様だ」
上空から平原を見下ろし、魔獣と人間の追いかけっこを眺めながら静かに呟いた声が風に消える。
そんな小さく呟いた独り言に、ふと背後から声がかかった。
「この様な場所で何をなさっておいでなのでしょうか?
天之御中主神様」
静かに振り向けば、そこに居たのは白のローブを纏ったリリーと瓜二つの少女、見た目こそ同じだが、リリーとは違いどこまでも無機質で感情のない人形の様な表情と声
「ははっ、ようやく出てきたと思ったら…
まさか神使をよこすとは、私も随分と下に見られたものよ」
「大変申し訳ございません。
この世界の創造主様は多忙でいらっしゃいます。
代わりに、私めでご容赦ください。」
そう言って頭を下げる少女の髪とローブの裾が風に流される
「ふん、取ってつけたような言い方だがまぁ良い。
連れ去られた人の子の様子を見にきたのだ。
最近は他所の世界の創造主達が、なんだかんだと理由をつけ人の子を連れ去るので困る。
新しい人生を与えてやるなどと言っておきながら、結局のところ己が世界への新しい知識や習慣を取り込み、その世界の文明発展や意識改革を期待しているなどと言うのだから…まったく…まぁ…連れ去られた先で苦労をしてないのならまだ良いが、そうでない者も少なくはない。
まったく、困ったものだ…手塩にかけて育てた世界、その我が子らを勝手に連れ去るなど許せる事ではない。」
生前、死後関係なく他の世界に連れ去られ、本来在るべき理から外されていく氏子達を憐んで、伊邪那美や天照から造化三神しか他の世界の創造主とは渡り合えぬ!何とかしてくれ!と泣きつかれたのだ。
各世界の創造主と面会し、その子らを連れ戻すため視察も兼ねてこうして回っている次第だが、中々どうして…後ろめたいのか、軽んじられているのか…創造主が出てこない…なかなか返還が進まぬ…。
特に…この世界連れ去られたタキナには事の他、重い試練を与えられていると言う…本来怒りという感情など持たぬ性分だが、自ら作り出した世界の者達は皆、我が子同然だ。
その子らが他所の神から苦しみを与えられるなど許せることではない。
感情を抑えねばと大きくため息をつき、怒りを吐き出す。
「創造主様は黄泉国の神に許可を頂いたと伺っておりますが…」
どこまでも無機質、何処までも無感情、棒読みの様な言葉に機械とでも話しているかのような感覚になる。
「連れて行きますね。の一言では、許可をとったとは言えんだろうまったく…其方のところの創造主も、他の世界の創造主も自分の世界をどうにかしたいなら、我が世界の人の子らを連れ去らずに、其方らの世界の子を日本に留学させれば良いではないか」
この娘に愚痴をこぼしたとて変わらないのは分かっているが、ついつい不満をこぼし過ぎてしまった。
表情一つ変えずに、話を聞いているのか、いないのか分からぬ少女の顔を見て溜息をつく
「はぁ…、この世界に連れてこられたタキナという娘にも、これ以上良からぬ苦労を与えようものなら同じ創造主とてただではおかぬ、其方の主人にそう伝えよ」
「確かに伝言を受け承りました。」
その無機質な表情を見てふと思い出す。
いやまさか…このような娘が…
「もしやとは思うが…其方があの文をよこしたのか?」
そう問えば、表情ひとつ変えず。
「いいえ、私自ら行動することはございません」
その無機質な言葉に「そうか…」と、再びため息をつく
しかし、すべきことは済んだ。
そう、内心で呟き神使を一瞥すると、次の世界へ向かうため音もなくその場から去った。
先程まで天之御中主神が居た場所を見つめていると
「帰ってくれましたか?天之御中主神?」
見計らった様に現れたこの世界の創造主が頭上からゆっくりと降りてくる。
白いローブがパタパタと音を立ててはためいている。
「はい。天之御中主神様からの伝言をお伝えいたします。
タキナと言う娘にこれ以上、良からぬ苦労を与えようものなら同じ創造主とてただではおかぬ。と…」
そう伝えると、創造主はケラケラと乾いた笑い声をあげると
「嫌ですねー人間の1人くらいで、あれだけ人間がいるのに!
日本人はあの世界でも稀で、秩序と規律を重んじ、他者を尊重し性善説を地で行く人種ですが、作った神がアレなら納得ですね。」
そう言って、また笑い出す。
「タキナ様に創造主と明かさなかったのは何故ですか?」
ふと気になり問えば、創造主様が驚いたように目を見開く
「おや?あなたが疑問に思うなんて珍しいですね?
質問されるなんて初めてじゃないですか?
リリーちゃんに影響されちゃいましたか?
別に大した理由なんてありませんよ、創造主と言うより召使の方が親近感湧くと思ってです。
ただそれだけの事ですよ」
質問を疑問で返して来たのに、コチラが回答する間もなく捲し立てるように話続ける創造主様
そうだ…、自分が疑問を持つ必要はない。
それが、私のあるべき姿、そんな事を思っていると平原から爆発音が響き渡る。
「おやー!今回はまた随分と派手にやってますねー!」
手で日除を作るように遠くの爆発を眺める創造主様を横目に、地面から登る土煙
それをぼーっと眺める。
「面白くなって来ましたねー!
まっ、人の事はタキナちゃんに任せて、私達はそろそろ行きましょう。」
そう言うと直ぐ様姿が消える創造主様、自分もその後を追おうとするが不意に止まり、ミッドラスの方を見る。
そこに居るであろうタキナとリリー…これ以上、何も考えてはならない…行動すべきではない…。
再度言い聞かせて、今度こそ主人の後を追った。




