30−2.冒険者の災難
「唯一止める事のできるお方って…黒髪の女か…」
オーストンがボソリと呟く、走って行く方角を見る限りミッドラスだ。
オーストンの予想でほぼ間違いないだろう。
今の問題はそこではない。
「魔獣の話、本当だと思うか?」
そう、オーストンに問えば
「確認するしかな「いい加減にしろ貴様ら!!!いつまで我等を引き回す!!?
今のはドラゴノイドだろ!何故止めぬのだ!!」」
半ば溜息混じりで振り返れば、金髪碧眼の少年が苛立たしげにコチラに歩いてくる。
その後を追うように、ルイス!と叫びながら似た顔立ちの少年が駆けて来る。
「コチラも色々と予定外の事が立て続けに起きていて、騎士様方には申し訳ないと思っておりますよ」
まぁまぁ、落ち着いてと愛そ笑いをして宥めるが逆効果だったのか
「貴様ら!!!私を誰だと思っている!我らは国王に仕え王を守るための騎士だ!!
薄汚い貴様らの獣狩りに付き合っている暇はない!」
その言葉に、他の冒険者達も頭に来たのか剣の柄に手を掛ける。
まぁ無理もないが、それを見た騎士や兵士達も慌てて剣の柄に手を伸ばす者、剣を抜くものすらいる。
この状況で浅はか過ぎる騎士達の行動に、こんなのが戦に出たところで役に立たないどころか、死ななくても良い騎士や兵士の死人が出る事だろう。
「お前ら剣から手を離せ、今はそれどころじゃないのは分かっているだろ…。
悪いんですがね騎士さん方、さっきのドラゴノイドの話によると魔獣の群れがコチラに向かっているそうなんですよ
それも普通の魔獣じゃないとか、なのでね…
獣すら殺したことのない役立たず共は、死にたくなきゃ大人しく荷馬車に乗ってろ」
怒りを滲ませて威圧すれば、一歩足が後ろに下がる騎士
たかがこれくらいで引くとは…
「ルイス!いい加減にしろ!
皆も剣を納めろ!私達では力量も経験も不足している。
冒険者の方々の案内がなければ、戻ることすら難しい。
つまらないことで争うな、森から鳥の囀り一つ聞こえない
それすら気づかぬのなら、戦さに出たとて死ぬだけだ!」
ルイスと呼ばれた騎士とよく似た顔立ちだが、性格と思慮深さは天と地ほど違うらしい。
感心して見ていると、コチラを振り向き
「ご不快な思いをさせて、申し訳ありません
弟に代わり謝罪いたします。
我々は、冒険者の方々の命にくれぐれも従う様にと言われております。
ですが、ここに来た以上はできる限りお役に立ちたいと思っております。
何なりと、お命じください。」
そう言うと、頭を下げる騎士
不満げな顔をするルイスを見て、その騎士がルイスの頭を掴み無理やり下げさせる。
「止めろ!!イルト!!俺は平民などに頭は下げな「黙れ」……」
威圧されて渋々頭を下げるルイス、見た目によらず兄には頭が上がらないらしい。
「頭を上げてくださいお二人さん
では一つ、斥候の付き添いをお願いしましょうか人選はイルト殿に任せますよ
3人お願いします」
そう言えば、イルトが頷き他の騎士達の元へと走って戻っていく
「おい…生きるか死ぬかなのに、お荷物のお守りはゴメンだぜヨゼス…」
斥候の3人組が嫌そうな顔をしているが、苦笑いをして黙って面倒見てやれと言い放った。
不気味なほどに静まり返る森の中、ドラゴノイドが出て来た方角へと馬を進める。
結局、イルトが選んだ人選は、イルト、ルイス、マルフィス、何故ルイスを…と思ったが、ヨゼスも任せると言った以上認めざる負えなかったようで、渋い顔をしながらも了承した。
「「「お荷物決定じゃねーか」」」と、斥候であるロイ、スタット、アルマはヨゼスに悪態をつきつつ2人1組、冒険者と騎士とで組み、見失わない程度の距離を保ちつつ、横に広がり森の奥へと進んでいく
暫く進んだところでスタットが手で止まれと合図すると、単眼鏡を覗き込む、そして一点を見つめたまま釘付けになっている。
一体何がと声を出そうと言うところで、急に漂い始める獣の匂いと血の匂い。
腐敗臭も混じっている。
他の者達も嗅ぎ取ったのか、騎士達は鼻を手で押さえている。
単眼鏡を手に取りスタットが釘付けになっている方を見れば、血で汚れた口周りをそのままに歩みを進めるサーベルウルフとフレイムボア…本来フレイムボアは滅多に肉を食うことなどないし、なによりサーベルウルフに狩られる側だ。
ドラゴノイドの言っていた通りだ…足の付け根に濁った魔石が見え隠れしている。
「何が見えるんですか、ロイ殿?」
隣に馬をつけ、小声で聞いてくるイルトに無言で単眼鏡を渡せば、覗き込んだ後に驚愕した表情に変わる。
「一体あれは…フレイムボアはサーベルウルフの餌のはずでは?」
「そうだ…この分だと仲間食い殺してるって話も本当だな…」
すぐに切り替え、スタットとアルマを見れば息を合わせたかのようにコチラを見て頷く
「すぐに戻るぞ」
イルトに伝えると頷き、馬を方向転換させる。
馬を走り出そうかとした時
「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!
虫がァァァァァァァァァァ!!!」
ルイスの絶叫が森に響き渡り、時が止まったかのように皆の動きが止まる。
「あんたの弟は、騎士どころか冒険者にも向かねーな」
そう言ってイルトを見れば、顔を片手で覆って盛大なため息をついていた。
背後から魔獣の遠吠えが響き渡る
そりゃ、そうなるわな!
「走れっ!!!!!」
そう叫ぶと、一同が馬を全力疾走させる。
馬を飛ばしながら、天へと手を伸ばし魔法を上空へと飛ばせば赤い光が弾け飛ぶ
「救援ですか!?無茶では!?」
叫ぶイルトに
「逆だ!警告だ!逃げろって信号弾だ!!」
同じ頃、森から打ち上がる赤い信号弾を確認したヨゼスが一団に怒鳴る。
「急げ!!荷馬車を出せ!!」
一斉に走り出す冒険者の乗る馬と、荷馬車が土煙をあげて森から離れる。
逃げる体制作っといて正解だったぜ全く、内心でため息をつき全員が走り出した事を確認し、自分も馬を走らせる。
「まだ仲間が戻っていないだろ!!」
「そうだ!!イルト様とルイス様もまだ戻られていない!!」
荷馬車から顔を出し叫び散らす騎士達、まったく、どこまでも呑気な騎士にいい加減腹が立ってくる。
荷馬車の背後を走るヨゼスが怒鳴る。
「バカ言うんじゃねぇ!!命が惜しかったら引っ込んでろ!!
サーベルウルフをお前ら2人で倒せるってのか?群れでいるんだぞ!!
ドラゴノイドが倒せないと言っている魔獣も居るってのに!!
そんなに助けたきゃ、荷馬車飛び降りて行ってこい!!
行ったところで一瞬で食い殺されて終わりだろうがな!」
そう怒鳴れば、唇を噛み締め荷馬車の中に引っ込んでいく騎士達、クソガキ共が!思わず心の中で悪態をつく
「あの黒髪の女が呼び込んでいるのか?」
隣を並走するオーストンがそう問うてくる。
何でも黒髪の女に結びつけるのは流石に如何なものか
「そんな短絡的な考えはよせ、ドラゴンを落とし人を超えた力で雷を落すんだろ?
魔獣の力を使うまでも無い。
そのドラゴン使って襲わせりゃいい。
大体、黒髪の女なら自分1人で国なんぞ簡単に攻め滅ぼせるだろ」
そう返せば、腑に落ちないのか
「救う姿を見せて恩を売るとか?」
「ハハッ!恩を売るより、力でねじ伏せたほうが楽だろうがよ
ドラゴン落としただけじゃなく、あのドラゴノイドが助けを求める程なんだぞ!
大体、目の前で見たんだろその力をよ
逆らう気、起きたのか?」
「いや…微塵も起きないね」
なら、そう言う事だろ。
そう返しながら背後を振り返り単眼鏡を除けば6人がこちらに馬を走らせて来るのが見える。
その姿に安堵するのも束の間、見たことのない数の魔獣の群れが森から飛び出してくる。
チッ、魔獣の歩みは遅いんじゃなかったのかよ!!!
舌打ちしながら、思考を巡らせる
「オーストン爆薬をあるったけ用意しろ!
火魔法が使える奴は後ろに下がれ!!」
そう叫べば、何をするのか察したオーストンが白目を剥きつつ爆薬を積んでいる荷馬車へと馬を向かわせる
「ったく!!遠足気分が飛んだ災難だ!!
死んだら恨むぞコールズ!!」
ヨゼスの絶叫が平原に響き渡った。




