30−1.冒険者達の災難
人は何故、人なのだろうか
どんな生き物よりも知恵が有り
どんな生き物よりも理性を持つ
己を律し、他者を尊重できる生き物
だと言うのに
どんな生き物よりも残虐で
どんな生き物よりも醜悪である
善良で弱い者ほど食い物にされ
悪きものほど世に蔓延る
文明を発展させて尚
人は人のふりをした醜い獣のまま
救う価値など有るのだろうか…
アレイナ達の部屋に戻ってどれくらい経ったろうか?
アレイナには事情を話して、リリーちゃんを案内役にグレンと共にルイ達の家に向かってもらった。
ロメーヌは隣のベッドですやすやと眠っている。
あの話を聞いて熟睡できるとは…鋼のメンタル…
オルハントから告げられた言葉が、何度も頭の中で反芻される。
「サージはハイランジアと同盟関係を結んでいる様に見えますが、実際はハイランジアの属国の様なもの、サージでは税金の滞納額が一定に達すると、国民は税の滞納代の代わりに奴隷として売られます。
ここ最近、一部の者達の間で噂になっている話がございます。
サージが国主体で人を家畜のように増やし、奴隷産出国として各国へ輸出すると…
どうやら、ハイランジアもその話に関わっているようです。
主な買取先がハイランジアだったので当然と言えば当然ですが…さすがの私も怖気が走りました…」
この話を聞いた時、何を言っているのか…そんなバカな話があるわけがないと…信じたくないのと同時に、気持ち悪さに全身に鳥肌がたった。
人の醜悪さは理解しているつもりだった。
だが、人を家畜のように増やして、それを物のように売ると言う…それも国が主体で…頭を抱えたくなる。
奴隷がいると言う事自体、理解し難い所業だと言うのに同じ人を何故そのように扱えるのか…嫌悪感という言葉では到底足りない。
コレは物語ではなく現実…人間の醜悪さ、そして私もその人間…何故…どうしてそんな事ができる…人間でないのは奴隷の方じゃない。
人を人とも思わぬ奴らの方、そいつらこそが家畜以下の獣
握った手に爪が食い込む、これは怒りか、それとも憎悪か、それと同時に恐怖が襲う。
私はそいつらを前にした時、自分自身の力を抑える事ができるのだろうか…
もし、戦闘に対する執着に憎悪が混じった時、私は私を止められるのだろうか…
「あんなにいた魔獣が一頭もいないだと…」
ヨゼスが呆然とした声を出す。
森の中へと斥候に出し戻ってきた冒険者3名の言葉は
「魔獣の姿どころか獣すらいない」
あれだけ頻出していた魔獣が急に居なくなるなんて、そんな馬鹿な…
「黒髪の女が魔獣を狩って歩いたのか?
それとも、黒髪の女に怯えて引っ込んでるのか…」
オーストンの言葉に、確かに有りえなくもない…と他の者達も口にする。
黒髪の女を追ってミッドラスへと向かったコールズからの伝言を、オーストンから聞いた時は魔獣狩りなど止めて国へ戻った方がと過ったが、そんな事をしようものなら荷馬車に乗っているお貴族騎士共が何を言い出すか分からない。
それを見越してのコールズの判断だろう。
仕方何しに、森へと来たが…これでは無駄足もいいところだ。
それどころか貴族騎士の不満も爆発寸前、荷馬車から降り不機嫌と言わんばかりの様子の新米騎士や兵士達、さてどうする…
「森から誰か来ます!」
見張り役が木の上から声を上げる
「エルフか?他の冒険者か?」
そう、見張り役に聞けば単眼鏡を覗きながら
「…ドラゴノイド…かと…2人組で敵意はなさそうです。」
ドラゴノイド!?
滅多に森の奥から出てこない引き篭もり連中が!?
いよいよ持って、何かがおかしい。
見張の見ていた方角から、程なくして馬の蹄の音が響き始め2人のドラゴノイドが姿を現す。
ドラゴノイドを見たのは冒険者になりたての頃に一度だけ、見間違えようのな二本角に1人は赤茶の髪、身なりは隣のドラゴノイドより些か良い様に思える。
2人とも自分よりも年下に見えるが、人より遥かに長く生きる種族だ。
見た目の10倍は有るかもしれない…寿命も力量も経験も全てにおいて人間より上、敵意を出さず素直に尋ねるほかない。
今はこの森の異様な状況を把握するのが優先だ。
森に住む彼らなら事情も知っているかもしれない。
新米騎士や兵士達が警戒して剣を抜こうとするが、そばに居た冒険者達がそれを手で制する。
この集団の責任者であるのは自分だと言うように、ドラゴノイド2人の方へと歩みを進める。
「ヨゼス…」とオーストンが心配そうな声を上げるが、目配せをして心配ないと伝える。
ドラゴノイド達の目前まで歩み寄れば
「人間か…こんなところで何をしている」
馬上から見下す様に睨みつけるドラゴノイド、腹が立つがここは堪えるしかない。
「そう言う貴方方はドラゴノイドの様だが…
我々は平原に頻出していた魔獣を討伐しに来ただけだ。
だが、来てみれば森に魔獣どころか獣の姿すらない。
何か知らないか?」
そう伝えると眉間に皺を寄せ、もう1人のドラゴノイドと顔を見合わせ何事か小声で話している。
「お前達はミッドラスの人間か?」
ドラゴノイドの問いに面食らいつつも首を振る。
「そうか…
人間は好かないが、お前は冒険者だな…あそこにいる騎士共よりは、話が通じるだろうから伝えておいてやる。
数刻と絶たぬうちに森から魔獣の集団が出てくる
サーベルウルフとフレイムボアだ。
だが、ただの魔獣ではない…仲間を食い殺しながら進み続ける異様な魔獣どもだ。
足の付け根に濁った魔石が寄生したかのように、体表に付いているから直ぐにわかるだろう。
同族の魔獣すら容易く殺すほど強い。
奴らの餌になりたくなければ今直ぐ荷物をまとめて国へ帰れ、森がおかしいのはそう言うことだ」
そう言い終わると、馬の手綱を持ち上げ進みだそうとするドラゴノイドを慌てて止める
「まっ!待ってくれ!!
サーベルウルフとフレイムボアが一緒に行動してる?
同族食い?それに、魔石が寄生って何が何だか!」
今の話を聞いて、あっさり理解できる者などいるなら見てみたい!
それくらい、理解し難い状況をサラリと言ってくれたこのドラゴノイド…
「理解し難いのは当然だ…我らとて数百年生きているが、あんな魔獣の行動を聞いたことすらない。
信じたくないなら、このまま森の捜索を続ければ良い
幸な事に奴らの歩みは遅い。
忠告はしたが、貴様らがどうなろうと知ったことではない。
好きにしろ、我らは急ぎ向かわねばならぬ所がある」
「向かうってどこへ!?」
思わず声を荒げて止めれば、2度も進み出そうとして止められたドラゴノイドが、苛立たしげにこちらを睨みつける。
「あの魔獣共を、唯一止める事のできるお方の元へだ。」
そう苛立たしげに告げると、今度こそ馬を走らせていってしまう。
慌ててその馬を避けるように、他の者達が逃げるように道を開けた。




