28−2. 予想外
そっとガイルの背中を摩りながらも、片手に収まるだけの大きさの治癒の力を使う。
薄い翡翠色が手を覆い摩りながら少しずつ力を込める。
神力に気付いているのか居ないのか?まぁ、それどころでは無いのだろうが嘔吐って辛いよね…。
ガイルに共感を覚えつつ
「うっぷ…見苦しいところを…すまない…」
ヘニャリと気力を無くし倒れた耳に、バケツを抱えたままの大男が弱々しく謝罪する姿に、不謹慎と思いつつも可愛い…と思ってしまう。
「気にしないでください。
私も二日酔いは酷い方なので、辛さは心中お察しします。」
そう言って背中を摩り続けること数分
「はぁ…お陰で少し楽になってきた…」
この力…二日酔いにも効くのか?
いや、吐くだけ吐いて楽になった感も否めない…かっ…?
「それは良かったです」
さすっていた手と神の力を止めてみるが、再度嘔吐し出すことは無さそうなので一安心
「ルークスの奴…なにをやってるんだ…」
そう言いながら顔は痛みに歪んでいる。
吐き気は治ったようだが辛い事には変わり無いようだ。
相変わらず耳は倒れたままだ
確かにルークスは一体何処まで水を貰いに行ったのか?
「少し様子をみて来ますね」
そう言って扉へ向かおうとした瞬間、不意にローブを引っ張られる。
「待ってくれ、その前に礼をっ……」
ローブを引っ張られ伸びた反動でパサりと落ちるフード、薄明るくなってきた部屋に晒される黒の髪、あぁ…やっぱりこうなってしまった…そう思いながら振り向けば、目を見開き、固まっているガイル
どうしたものか…気絶させてその間に宿から撤退する?
それとも、この国で私の討伐の命が出ていないなら、お話し合いで何とか解決できないだろうか?
このガイルと言う男も悪い男では無さそうだし、この際だ!恩を売ったのだから、これくらい黙っててくれるよね?作戦しかないか!?
一瞬で脳内を駆け巡る諸々の案
「あのですね「美しい…」……へっ?」
あぁーえぇー?
空耳?人生で一度も言われたことのない言葉が聞こえた気がしたのですが?
私に思い当たる節などある訳もなく、アレイナやロメーヌならまだしも、おそらくガイルはまだ酒が抜けていないのであろう。
「えぇ…っと、まだ酔ってらっしゃるようで…」
おずおずとフードを被り直し、距離を取ろうとするもローブの裾を掴まれたままで、これ以上距離が取れないしローブを引っ張るも離してくれない。
はっ…離してくれぇー!!心で叫ぶがガイルに聞こえるはずもなく、ガイルを見れば不意に立ち上がりこちらを見下ろしてくる大男…いや壁…
おいぃぃ!!意外と元気じゃん!!!
さっきまでのダルそうな感じはどうした!?
「俺は酔ってなどいない。
黒の化身がこんなに美しい女だとは、一目惚れだ…俺の子を産んでくれ」
両手を握られ真剣な眼差しでみつめてくるガイルの急な告白、もはやプロポーズに
「アナタ ゼッタイ ヨッテル」
スン…と冷静な対応を装うが、ドン引きすぎてカタコトになってしまった。
さっきまで死にそうなくらい嘔吐してましたし、弱ってる時に甲斐甲斐しくお世話されて色々とフィルターかかってるだけですよお兄さん!!
気を確かに!!
そんな事を思っていると、階段下から誰かが上がってくる音がする。
ルークスか!?こんな所を見られては色々と説明が面倒だ…
もはや致し方なし!!!
瞬時にガイルの手から自身の手を引き抜き、一瞬で背後に周り後頭部に手刀を入れると、反応する間も無く気絶し倒れるガイルをベットに引っ張り上げる。
許せ、峰打ちじゃ…
ドラゴノイド怖いとか思ってたけど、大男を簡単に引っ張り上げられるほど私の腕力も大概でした。
一仕事やり終え、開いたままのドアからルークスが水差しとコップを持って入ってきた
「ゴメン、ガイル遅くなって下に兵士長が居て…って、あれっ、タキナ様!?」
「ようやく嘔吐が治った様なのですが、何か言いながら倒れ込むように寝てしまわれたので、失礼と思いつつも勝手に部屋に入らせて頂きました。」
今、布団を掛けてあげましたを装うも私の良心が痛む…許して…ガイル、ルークス…
「失礼だなんてとんでも無いです!!
昨夜から本当にご迷惑をお掛けしまして申し訳ありません…
ガイルの分までお詫び致します。
あっ、これ部屋代です。」
そう言って水差しをテーブルに置くと銅貨を手渡される。
「本当に、そんなに気にしないで下さい」
そう…血迷った君のご友人を気絶させましたし…本当に…こちらこそ面目ないです…
「私はこの国の兵士をやっています。
滞在中に何か困った事があれば、いつでも声をかけてください。
兵士の詰め所でルークスかガイルの名を出せば、大抵は話が通ると思いますので」
「ありがとうございます。
何かあった際は頼らせていただきますね。」
そう言ってお礼を言うが、できれば2度と遭遇、いや、関わらないようにしたいものである。
特にご友人!!目覚めた時に記憶が曖昧でありますように!!と、切に願うばかりである。
自分から関わりに行っといて…我ながら自分勝手だとは思っているが、御人好しのこの性格を直さないとな…神だからと気負っている部分もあるのかもしれないが、何でもかんでも手を差し伸べすぎてしまうのも良くないとは思いつつ
だが、そう簡単に治るのだろうか?とも思う。
ルークス達の部屋から出て、止まない溜息をつきながらアレイナとグレンの部屋をノックする。
「おはようございます。
アレイナ、グレン、早くからすみません、起きていますか?」
こんな早朝から起こしてゴメンと内心で謝罪しつつ、返事を待つと、中からバタバタと音がしてガチャリと鍵の開く音がしたと思ったら勢いよく扉が開く、目の前にいたのは寝癖で髪がピョコピョコ跳ねているアレイナ、やはりまだ寝ていたらしい。
「スッ、スミマセン!
このような姿で…」
そう言って恥ずかしそうに頬を染めるアレイナ、男の人って、こう言う素の感じに弱いんだろうな…きっと、さっきのガイルの前でも、普通の女の子なら頬を染め恥じらうのが正解だったんだろうな…
そんな事をボーッと考えつつも
「そんなこと気にしませんよ、早く戻って来すぎたのは私の方ですから、私もロメーヌとリリーちゃんが戻るまで少し仮眠を取ろうかと思って」
そう言って部屋に入りながらグレンのベットを見れば、掛け布団が無惨に床に落ちグレンはベッドの端ギリギリで寝ていた。
あまり寝相がよろしくないようで…グレン君…子供あるあるだから仕方ないか
「リリーさんとは別行動をされていたんですか?」
自身の髪を撫で付けながら、アレイナが驚いた様子でコチラを見る。
やっぱりそう思うよね…
まぁ、別行動すること自体は初めてではないけれど、リリーちゃん自ら言い出して別行動なのは初…
「リリーちゃんから済ませたい用事があると言われまして、リリーちゃんにも何か事情があるんでしょう。」
何でもないように笑ってそう伝えれば、アレイナは腑に落ちない様子でありつつも「そうですか…」と小さく呟いた。
「さて、アレイナも二度寝してください。
私も一眠りしますので、起きたらアレイナに話したい事と言うか、相談したい事もありますし」
そう言いながらローブを脱いで壁にかける
「私などでお役に立てるのでしたら、何でもおっしゃってください!」
なぜか気合いの入った鼻息の荒いアレイナの言葉に気押されつつ「あっ…ありがとうございます」と伝えてグレンをベッドの中央に戻し
「グレン、隣お借りしますよー」
と声をかければ、ムニャムニャ言いながら薄目を開けて
「……あいっ…」
と、返事をしてまた寝息を立て始める。
そんな姿が可愛いやら面白いやらで、クスクス笑いながらグレンの横に潜り込むが、グレン…頼むから蹴ってくれるなよ…
ドラゴンの蹴りはただじゃ済まなさそうだ。
怯えながらもそっと目を閉じた。




