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邪神ですか?いいえ、神です!  作者: 弥生菊美


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27−2.夜明け



 「よければ聞かせてもらえませんか?」


そう聞けば少し困ったような顔をするルイ


「良いですけど、子供を寝かしつける時に話すような話ですよ

それでも良ければ…」


 エルフの里で「世界は闇から生まれた」という話は聞いているが、黒の化身が出てくるのは今の所獣人だけだ。


なんでも構わん!聞かせてほしい!!


「私の母も子供の頃に良く話してもらったと言っていました。

話の内容はこうです。」



この世界は闇より生まれ


いずれは闇へと還る


その闇から生まれし黒の化身は


闇夜に紛れて世界を巡り


悪き者には罰を与え


正しき者には手を差し伸べる


黒の化身は今宵も世界を巡る


さぁ、子供達よ眠りなさい


夜更かしする悪い子の元には黒の化身が来てしまうから


と言う話なんですけど、こんな話で良かったでしょうか?」


 ルイの話を聞いて、ふと思い出すのはオルハント達と会った時に唐突に出てきたあの口上「正しき者には導きを、悪しき者には鉄槌を」まるでこの物語を再現するような…痛っ!!


 突如として走る耐え難い頭痛と目の前が、画面の砂嵐のように何も見えなくなる。

何時ぞやもあったノイズの様な何か…砂嵐の先で…誰かが…何かを呟いている…




「どうして…どうして………が憎い……裏切った……憎い……」




誰っ…


「くっ…」


思わず頭を押さえて前屈みになる。


「タキナ様!!」


 ルイが叫び、私が倒れ込みそうになるのを慌てて立ち上がったホセルが支えてくれる。

ルイの慌てた声に気づいたのか


「タキナ様!!」


 リリーちゃんが叫ぶように名を呼びながら駆け寄ってくる。

だめだ…頭が痛い!!

…これ以上は何にも考えたくない…ひたすら痛みに耐えていると、徐々に引いていく頭の痛み、あの時は…ドラゴンの里に向かう前の荷馬車の中だったろうか…。


 あの時はノイズが走っただけで頭痛は無かった。

 一体何が起きているというのか…一体何を憎んでいると言うのか…今のは…私…それとも…別の誰か…人の身で神の力を持った事の弊害でも出ているのか…有り得そうな話かもしれない…


「すみません、急に頭が痛くなってしまって、今は治ったので大丈夫ですよ」


 ホセルに差し出されたマグカップを受け取り、残っていた紅茶を飲み干す。


 今にも泣き出しそうなリリーちゃんに「大丈夫ですよ」と言って頭を撫でると、またも抱きつかれる。

私って本当にいつもリリーちゃんを心配させてばかりだな、ごめんねと謝りその白銀の髪を撫でる。


「良かった。

顔色も戻られてきたようで、私のために力を使ったせいでタキナ様に負担がかかったんじゃ…」


申し訳なさそうにするルイに


「いいえ、違うんです。

力は有り余るほどあるんですが、休む間もなく旅を続けてきたので自分が思っていた以上に疲れが溜まっていた様です。」


 それに、ここにも長居し過ぎている。


 布の隙間から見える外が薄明るくなってきている。

夜明けが近いのだろう。

 この家族も休む時間が必要だし、私も宿に帰って少し休もう。

グレンと同じベッドなら余裕があるだろうし


「さて、長居し過ぎてしまいました。

明るくなる前に宿に戻ります。

明日…もう、今日ですね

薬師を連れてきますね

昼過ぎには来れるんじゃないかと思いますが、ルイも体を休めて下さい。

エイルはしっかりとお母さんの手伝いを、ホセルはまともなお仕事に就くように」


 そう一気に話せば、ホセルだけが罰が悪そうに頭を掻く


「アンタまさかっ…」


地を這う様なルイの声を聞いてホセルがビクリと肩を揺らす


「では、私はこれで失礼しますねー

あっ、リリーちゃん荷物を手早く袋に…パンだけは置いていきましょう」


 リリーちゃんも察したのか私から離れると、ポイポイと放り投げるようにテーブルの上の荷物を袋に詰める。

そろりとエイルがパンに手を伸ばし抱きしめると、リリーちゃんがジト目で見つめるがすぐに視線を逸らして皮袋を空に放ると、その袋がスッと消える。


エイルがスゲーと声を漏らす。


「言ったわよね!!もう足を洗えって!!」


 ルイの怒鳴り声が響き渡る中フードを被り直し、逃げるようにリリーちゃんと共に家を飛び出る。

ホセルがこれで改心してくれると良いんだけど、たんと絞られなさい。

そう思いつつ路地から大通りへと足を進める。


 まだ外は薄暗く夜明け前で人が極端に少ない。

リリーちゃんと共に足早に宿に戻る。

流石の朝まで営業の酒場もこの時間は幾分か静かだ。


 壊れたままの扉を横目に中に入ろうとすると


「タキナ様…お願いがあるのですが…」


 リリーちゃんの言葉に足を止めて振り返る。

リリーちゃんからお願いとは珍しい。


「少し…用事を済ませたいので単独行動の許可を頂けませんでしょうか…」


 用事?リリーちゃんが?


 自ら私の元を離れたいと言う発言にも驚くが、それ程の事情が有るのだろうか?

何か…先程合流してから様子がいつもと違うことに気になっていたが、だが…根掘り葉掘り聞いたり、止めて良いものなのだろうか…

グルグルと頭の中で考えを巡らせる。


「それは構いませんが…リリーちゃんなら何でも自分で対処できますし…

ただ、今日のリリーちゃんは少し心配です…」


 そう言うと俯くリリーちゃん、やはり余程の事情のようだ。

 非常に気になる所だが、言わないと言うことは、話せない事なのだろう…


「気をつけて行ってきてくださいね。」


 そう告げると、リリーちゃんは深く頭を下げ踵を返してして走り出し、一瞬で屋根の上に飛び上がると、そのまま夜明け前の薄闇に消えていった。


リリーちゃん…どうしたと言うのか…ざわつく胸を押さえて宿へと入った。









「うーーん!!

ご無沙汰だったから、ちょっと盛り上がり過ぎちゃったわぁー腰痛いぃー」


 狭い路地に線の様に差し込む朝日に向かって、思い切り伸びをする。

 

 さて、タキナ様達の待つ宿に帰ろうと大通りに向かって歩みを進めると、背後に気配を感じて腰の短剣を抜いて振り返れば、そこに立っていたのは見慣れた白銀の少女


「リリーさん?ビックリしたー

驚かさないでくださいよぉー、何でこんなところにぃー?

タキナ様はどうされたんですぅー?

朝ご飯、皆んな集まってるから呼びにきてくれたんですかぁー?

でも流石に早すぎますよぉー」


 元々タキナ様以外にはまるで無関心で冷淡な少女だが、普段の様子と違うのは明らかで恐れからか些か話をし過ぎてしまう。

抜いた短剣を腰に戻すがその短剣に手をかけたまま、ローブでそれを隠す。


 この少女が本気になれば自分など瞬殺されるのは分かっているが、武器を手にすることで安心するのは戦士の性だろうか


「不本意ですがタキナ様のお側を一時的に離れました。

ですがこれは、どうしても必要なことでしたので…そう…全てはタキナ様の為…そして、私の願いの為に…」


 首筋に嫌な汗が伝い、短剣を持つ手にも力が入る。


ゆっくりと顔を上げる少女


あぁ…ちょっと…いや、かなり


まずいかも知れない…


死を覚悟して短剣をそろりと抜いた。



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