26−3.路地裏の決断
「思ったよりゴミへの尋問が長引いてしまいました。
早くタキナ様の元へ行かなければ!」
この国のスラム街は随分と闇深い。
下っ端風情が知っている事などたかが知れてはいたが、奴隷商人の先には必ず見え隠れするハイランジア、人と言うのは本当にあさましい生き物だ。
分かっていた事ではあるが、奴隷の根本を断つにはハイランジアをどうにかするしかない。
顔が腫れ上がり路地に転がった男達を足で蹴り転がしてどかすと、タキナ様の向かった方向へと向かおうと一歩踏み出した瞬間、世界が一瞬で白黒に変わり、時が止まったかのように全てが停止する。
ただ事ではない、経験した事の無いこの状況、人では決して到達できぬ力
「また…随分と汚い所に来てしまった。
海外にしろ異世界にしろ、つくづく日本が1番だと思ってしまう。
んっ?これは、自画自賛になってしまうだろうか?
どう思う、リリーとやら」
瞬きの間に現れた男の声が路地に響く、目元だけを隠すように黒い狐の面を付けた男は、のんびりとした動作で辺りを見回しこちらに顔を向け微笑を浮かべた。
その顔は面を付けているため目元はわからないが、日本と言う単語、そして着ている服が黒い和服、その服は斎服と言っただろうか?
神事を執り行う神職の礼装だ。
タキナ様の国では神事においても黒が最も高貴な色だと言う。
つまり…タキナ様と同じ世界の神であり高位の神…しかも、異世界に来てこの世界に干渉できるほどの力の持ち主
「そう警戒せずとも良い。
其方に頼みがあって来たのだ。
私も其方と同じ目的を持っている。」
その言葉を聞いて、声を出そうとするが思うように出ない。
焦りか動揺か恐怖か自分でもわからない。
「何を…」
カラカラになった喉から絞りでた声、何故それを知っている…
この神は何を知っていると言うのか、どこまで知っていると言うのか、私が知っている事を、目的を…この神は…
「雨野タキナ…ふふっ私と同じ名を持つ者とは面白い…
…その神使であるリリーよ、哀れにもこの世界の理を知る者よ、其方の目的と私の目的は一致している。
リリーよ、私と手を組まぬか」
これは罠か…私は試されているのか…
例えそうだとしても、この蜘蛛の糸のように細い希望を、一筋の光を
私は…
フラつく足に力を込めて一歩、また一歩と踏み出し神の元へと向かう。
この身に宿った憎しみの業火が、あの日から私を蝕み続けている。
私の願い…私の目的
…それが叶うなら…どんな事でもしよう
例えこの手が血で汚れても
例えこの身が穢れと呪いで朽ちようとも
例え抗った罪でこの身が無に還ろうとも
構いはしない




