26−1.路地裏の決断
「ガハッ!」
男が吐血し薄汚い地面に倒れ込むと、狭い路地故か倒れた音がやけに大きく反響する。
結局、こうなるのかと頭を抱えたくなる…
倒れた男の先を見れば、積み重なるように何人かの男が山のように積み重なっており、その山の上には白銀の天使ならぬリリーちゃんが、月に照らされた銀色の髪をキラキラさせている。
幻想的で見惚れそうな光景だが、1番上で呻き声を上げた男に最後のとどめと言わんばかりに、容赦なく顔面を蹴り飛ばしていた。
恐ろしい子っ…と戯けてみるも、私も似たような者かと倒れた男を見下ろし、黒髪が見えないようにフードを深く被りなおす。
「もう終わりですかお兄さん方?
まだお仲間がいるなら連れてきて下さいません?
食後の腹ごなしにもならないんですけど、もうちょっと運動しましょうよ?」
しゃがんで吐血した男と目を合わせると、ニッコリ笑う
「ヒッ…ばっ…化け物ゴハッ!!」
人の笑顔を見て化け物とは何事かっ!!とキレる間も無く、すかさず山から飛び降りて男の背に着地したリリーちゃん
「不敬だゴミがっ」
まさにゴミを見るような目をして、足元の男に吐き捨てるように言い放つリリーちゃん
あっ…相変わらずリリーちゃん強いっ…
「リリーちゃんリリーちゃん、流石に殺してしまったらまずいので程々に…ねっ?」
おいでおいでと、リリーちゃんを呼べば
「タキナ様に不敬を働くゴミを蹴散らすのも、リリーの役目ですのでー」
と言いつつも、私の腹にタックルをかまし、グリグリと頭を押し付けてくるリリーちゃんの可愛さたるや!!
「さすが私の頼れるリリーちゃーん!!」
と、狭い路地で2人でこんなことをしている場合ではない!!
酒場から出て15分ほど歩いたところで、路地に入った瞬間に、次から次へと出るわ出るわ…金を出せから始まり、良い値で売れそうだの何だのと、分かっていたが大変治安はよろしくないようだ。
またもロメーヌの言った通りになってしまい解せぬ…しかし、彼らが弱いおかげで戦闘狂になる前に片付いたのは良かった。
オルハントから奴隷の売買ルートは教えてもらっているが、折角だし転がっているこの連中にも何か知っている事がないか話を聞かせて頂こう。
「さてさて、意識ないフリしてやり過ごそうとしても無駄ですよ、君たちの元締め、親分はいますか?
それと、奴隷を買い取ってる人が居ますよね?
それって何処の何方か教えて頂けますか?」
抱き付いたままのリリーちゃんの頭を、なでなでしながら問いかけるも誰1人として返事をしない。
仕方ない
「リリーちゃん、彼ら死んでるみたいなので証拠隠滅、灰も残らぬように燃やしてしまいましょう」
「畏まりました!ゴミは灰も残さず燃やしましょう!」
ニッコリ笑えば、ニッコリ笑って手に炎を瞬時に出すリリーちゃん
燃やす気満々だわこの子ー!!
脅してるだけなのだけど、リリーちゃん察してくれてる!?
大丈夫!?と、思った瞬間リリーちゃんが炎をそのまま人の山へと投げる。
あぁぁぁぁぁぁ!!!!?
本当にやっちゃったぁぁぁぁぁ!!!
っと、心で絶叫する
「ギャァ!!」
「アチチチチ!!!」
「早く退け!!」
「いやだぁ!!死にたくない!!」
「助けてくれぇ!!」
積み重なっていた男達が崩れるように転げ出し、阿鼻叫喚の悲鳴が路地にこだまする。
幸にして汚い路地は水溜りが多く、転がってすぐに火を消していたので大事にはならなかったようだが、焦げ臭い匂いが充満しているし、所々服や髪が焼けこげ、ゼェゼェ言いながら水溜りに這いつくばっている男達
この悲惨な光景たるや…スマヌ…
生きていたのが不満だったのか、簡単に消えた炎に不満だったのか、再度、手に炎を纏うリリーちゃんを慌てて止める。
リリーさん落ち着いて!!
言い出したの私だけど、止まって!!
何とかリリーちゃんを止めて人通りの多い方に目を向ける。
流石にこんなに騒いでたら兵士の1人でも来そうなものだが、まるで来る気配がない。
こんな事は日常茶飯事だとでも言うのか?
はたまた、戦争前でそれどころではないのか?
戦争前と言ってもどれほど差し迫っているのか知らないけれど…そんな事を思っていると、路地の奥の方から走ってくる音がする。
兵士にしてはずいぶん軽い足音だ。
仲間だとしても1人?
訝しんで足音の先に目をやると、暗がりから獣人の少年が息を切らして走り出てきた。
リリーちゃんと同じくらいの年頃か、少し下くらいだろうか?
スラム街の子を具現化したようなボロボロで汚れた服に、月明かりで照らされた短い髪もボサボサで顔も汚れている。
そしてその顔は今にも泣き出しそうだ
「親父!!こんな所で何転がってんだよ!!
母ちゃんがっ!!母ちゃんがまた発作起こして大変なんだ!!」
そう叫ぶと、水たまりで突っ伏していた人間の男の1人がむくりと起き上がる。
「ルイがっ!?」
直ぐに起き上がり「イテテ」と言いながらも少年の元へと駆け寄り、路地の奥へと向かおうとするが、その前に立ちはだかる銀色の天使
「タキナ様の質問に…お前は答えていないぞ人間」
その瞳は獲物を狩る時の猛禽類のそれ、人ならざる異様なその瞳と殺気に少年と男は怯えて思わず後ずさる。
リリーちゃん怖いし!いつの間に!?と叫びそうになるが、平静を装う。
「リリーちゃん、構いませんよ行かせてあげましょう」
そう言うと、リリーちゃんの雰囲気が戻り眉が下がる。
「宜しいのですか?こう言う類の人間には、慈悲など不要かと思います…」
「まぁまぁリリーちゃん、行かせてやれとは言っていますが、逃してやるとは言っていませんよ、後でゆっくりお話を聞かせて頂けますよね?」
そう言ってニッコリと圧をかければ、父親が少年を庇うように前に出る。
「俺の知っている事なら何でも話す。
だから、家族には何もするな」
他人には金を出せと刃物を出して脅すが、そんな男でも家族が大事とは笑わせると、内心で思わず毒付いてしまう。
貧困故に家族を守るため罪を犯すことは、果たしてやむを得ない事なのか…これも、意見が分かれる所だろう。
本当に…人とは勝手な生き物だな…
「貴方と一緒にしないで頂きたい。
私は、無関係な人間の命を奪うような者ではありませんから」
皮肉の一つは言ってやらないとこのイラッ!!とした感情も収まらないというものだが、言った後に
いや…神様なら嫌味なんか言わないよね…しかも子供の前で…
くっ…器の小ささが露呈する。
所詮私なんてこんな程度ですよ…小さじ一杯の器ですよ!!
内心で情緒不安定状態に陥りながらも、父親を見れば苦虫を噛み潰したような顔をしている。
子供の前故か応えているらしい…
「親父早く!!」
重苦しい空気を破るように、子供が再度父親を急かす
「必ず約束は守る」
そう言うと子供と路地の奥へと走り出した。
必ず約束は守ると言ったその顔は
先ほどまでの覇気のない悪人顔とはまるで別人、凛々しい父親の顔をしていた。
私自身も元人間だが、本当に人って分からない…
「リリーちゃん、お願いがあるのですが…」




