25−2.風向き
「仕方ない」と、事の成り行きを見守っていたアレイナやリリーちゃん達の方を見る。
「グレン、今日はアレイナと一緒の部屋で寝てもらえますか?
私とリリーちゃんは少し出かける用事ができたので、私達の部屋はこの方達に譲りましょう。
リリーちゃんも、アレイナもそれで構いませんか?」
リリーちゃんは承知いたしました。
と、一言返しグレンはあくびを噛み殺しながら、はーいと間延びした返事をする。
「そんな、タキナ様が外に出られるなど私が代わりに…」
ワタワタしているアレイナに微笑む
「私は寝なくても大丈夫ですが、貴方達2人は睡眠が必要でしょう。
気にする必要はありませんよ、しっかり休んで下さい。
むしろ、グレンをお願いしますね…」
この調子ならすぐ寝そうだが、アレイナに我儘を言わないかちょっと心配でもある
「ちょっと待ってください!!
流石にそれは申し訳ないです!
しかも、女性のあなた方にこんな事お願いするわけには!
マスター!だから、誰か男性客の部屋でいいんです!
口利きしてくださいよ!!」
今度はルークスがワタワタとする
この青年は中々の好青年のようだ。
私がガン見していた事を分かっていただろうに、何よりも酔い潰れたこんな巨体のお仲間の面倒を、きっちり見てあげる良い青年!!
助けたくなるってもんんですよ、心の中でウンウンと頷く
「言っとくが身元がまともそうなのは、このお嬢さん方だけだ。
知り合いの話じゃ、このフードのお嬢さんは相当に腕が立つらしいから大丈夫だろ」
ですけど…と続けるルークス、中々話がつきそうもなくマスターもイラついてきている。
そして優柔不断なルークスの会話に、リリーちゃんも苛立ってきている。
おぉっと…双方雲行きが怪しい!
さっさと解決しなければなるまい!
「グレン、一仕事お願いできますか?
報酬は惣菜パンでどうでしょう?「やります!!」」
即答かっ!
安請け合いしすぎでしょうグレン君…
「あそこで寝ている獣人の兵士を、私達の部屋まで運ぶのをお願いできますか?」
酒場の中央で突っ伏して寝ているガイルを指差しながら頼むと、ルークスが何言ってるんですか貴方!?
と言わんばかりに驚いたように振り返る。
「分かりました!」
グレンが元気よく返事をすると、テーブルに突っ伏している獣人兵士の元まで行き、ガイルの腰のベルトをよいっしょ!っと、一声出して引っ張ると椅子を引き倒し、そのまま後ろに尻餅をつくようにガイルが床に落ちる。
その兵士は軽い素材でできてるのか?と、思うほど軽々しく引きずって戻ってくるグレン、流石ドラゴンの腕力、酒場も驚きのあまりその光景を見て静まり返る。
「あの…あの子供はいったい…」
ルークスが唖然としながら問うてくるが
ドラゴンなんですよー!
なのでアレくらい軽いもんですー!なんて、言えるはずもないので
「グレンはドラゴノイドなんですよ
ねぇー、グレン?」
そう言って、戻ってきたグレンに問い掛ければ「えっ?」という顔を一瞬するも、直ぐにはたと気付いたようで
「ボク ドラゴノイド デフ」
いや、言語下手くそか!
と、思わずツッコミを入れたくなるような見事な噛みカタコトで返答したグレン、しかし空気を読んだのは大変偉い!
偉いぞグレン!!
アレイナが笑いを噛み殺して肩が震えている。
リリーちゃんは引き摺られている獣人を、ゴミを見るような目で見ている。
そんな目で見ないであげてリリーちゃん!!
「ドラゴノイドの腕力は子供といえど凄いですね…
って、ではなく!!良いんですか!?」
慌てるルークスを放置しハイハイ行きますよーと、部屋のある2階へ上がる。
グレンがガイルを引っ張るが流石に階段で引っかかり、グレンが肩をアレイナが足を持ち上げて軽々2階へと上がっていく、アレイナも大概の腕力…ドラゴノイド恐るべし…扉を開いてガイルを部屋へと搬入する。
流石の獣人用のベッドでも、ガイルにはいささか小さいようで足首がはみ出ている。
「本当に申し訳ありません…
何とお礼を言ったらいいか、代わりに何かできる事があれば何なりとおっしゃって下さい!
はっ!!?
申し遅れました、ミッドラスで兵士をしておりますルークスと申します。」
中に入ると深々と頭を下げるルークス、本当に好青年!!!
こんな好青年ばかりなら世界は平和だろうに…でも兵士か…戦場に出ればこんな彼でも人間を殺すのだろう…そんな考えが頭をよぎる。
戦争とはそう言うもの、祖国では良き友人で、家族で戦場に出れば敵国の兵士を殺す人殺しに変わる。
例え望んだことでなかったとしても、殺さなければ殺されるのだから当然
そう…当然…
「タキナ様?」
アレイナに声を掛けられてふと我にかえる。
ルークスも伺うようにコチラを見ている。
「あぁ…すみません…私はタキナと言います。
失礼しました少し考え事をしてしまって、今回のことは本当に気にしないで下さい。
では、私達はこれで」
そう言ってそそくさと部屋を出る。
ルークスがまだ何か言っていたようだが、容赦なくバタン!と勢いよく扉を閉めたリリーちゃん、テキパキ型のリリーちゃんからすれば、いつまで経ってもゴチャゴチャ言う系はお嫌いなのかもしれない…気をつけよっ…
アレイナ達の部屋に入り、リリーちゃんにお願いしてグレンに報酬を渡してもらう
「グレン!寝る前は禁止ですよ、明日の朝までお預けです」
すかさずソーセージパンの袋を開けようとしたグレンに静止を入れれば、ショック!!と言わんばかりの顔で固まる。
そして持っていた袋をリリーちゃんに取り上げられている。
騙し討ちみたいでごめんて…
「本当によろしいんですかタキナ様…
ベッドを繋げれば寝れると思いますが…」
アレイナも大概、遠慮しいな子である
「そんなに気にしなくても大丈夫ですよアレイナ、私もリリーちゃんも睡眠は必要としませんから、遠慮なく2人でこの部屋を使って下さい」
そう言うと、小さくハイ…と返事をし申し訳なさそうに眉尻を下げるアレイナ、うちの子達って何でこんなにイイ子ばかりなのか、タキナは嬉しいです!!
心の中で感激しつつ、そろそろ行きますかと再度身なりを整える…と言ってもフードを被り直すくらいだが
「さて、リリーちゃん私とご一緒してくれますか?」
そう言って振り返れば、何やらグレンに小言を言っていたリリーちゃんが一瞬で満面の笑みになり
「もちろんです!タキナ様となら何処までもお供します!」
キラキラとした背景が見えるのではと思う程、前のめりで即答してくれるリリーちゃん、重すぎる忠誠心で些か心配になるがリリーちゃんマジ天使!と、リリーちゃんへの愛が勝ってしまう私も大概なのかもしれない。
では早速行きましょうかとリリーちゃんを連れ立って2階から降りてくれば、マスターがカウンターから声を掛けてくる。
「悪かったな嬢ちゃん、明日の朝食は俺の奢りだ好きに食いな」
バツが悪そうにしながらそう告げてくるマスター
あっ、悪いとは思っていたんですね…と、酷い事を思いつつ呑み込む
「ありがとうございます。
お言葉に甘えさせていただきます。
ところで、マスターは黒髪の女の話って聞いたことありますか?」
そう言えばマスターに話を聞いていなかったと思い出す。
酒場だから色々な噂話は集まるだろから、情報通ではありそうに思う
「ドラゴンを落としたって言う与太話だろ、そんなお伽話俺は信じないが…だが、帝国が探してるって話も聞くからな…
この国のお偉いさん方も信じる信じないで二分してるって話さね
今はその話よりも帝国との戦争が近いってんで、ハイランジアとサンタナム、その2カ国と同盟を組むか組まないかで議会は大揉めだとさ、黒髪の女は当面二の次じゃないか?
まぁ、俺が知ってるのはそんなもんくらいだ」
そう言い終えると、そそくさとカウンタの奥へと戻っていった。
ナルホド…そりゃ普通に考えたら噂話よりも、国家を揺るがしかねない戦争の方が重大だよね。
自分を些か買い被り過ぎたようで恥ずかしぜ…だが、既にミッドラス内で黒髪討伐の話が出ていないのは朗報には変わりない。
リリーちゃんに行きましょうと声を掛けて、賑やかな酒場を突っ切り酒場の外へと出る。
外だと言うのに、冷たい夜風に混じり漂う酒の匂い。
昼間ほどの人通りはないにせよ、飲み屋が集まっているせいか人通りもそれなりにあり、店から賑やかな声が漏れ出ている。
「さて、どっちへ行こうかな…」
私の何とも間抜けな呟きが、夜の雑踏に掻き消えた。




