23−1.ミッドラス
この世界に来てから、大切なものが一つまた一つと増えていく
何者でも無かった私は、誰かに認めて貰わなければ、自分の生きる価値すら見出せなかった。
そんな私に、大切な者、成し遂げたい事
それが増えていく
やり遂げたい
そう願う反面、頭の中で別の自分が囁く
結局他人の期待に応えて認められたいだけ
多くの人に頼られ己に酔っている
そんなお前なんかに世界救済など
できはしない。
私は遂にやり遂げたのだ… 来る日も来る日も森!!平原!!山!!
もしかして、私って永遠に最初の街にも辿り着けないのでは?
と、思って居たが、遂に…遂に辿り着いた!!!
最初の街ならぬ国!!ミッドラスにーーーー!!
世界にはこんなに人が居たのか!?と、思うほど賑やかな商店街、その先に広がる青空市場、簡易テントの様な店の軒先には多くの人が行き交い
人間や獣人でごった返している。
軒先に吊るされているのは装飾品や武器、美味しそうな肉料理やパン、中には、えっ…それ食べるの…と思わず後ずさりたくなる蛇の串焼き…
おのぼりさんの様に辺りを見渡すと、獣人の国というだけあって、やはり人間より獣人が多いようだ。
そう、この世界には獣人がいる…それは、話に聞いていたからずっと分かっていた。
だが…そう…目の前に本物がっ!!!!
犬の耳にふさふさの尻尾、大人の獣人の耳がピクピクと忙しく動き、私の横を走り抜けていく子供達の頭にも可愛らしい耳と、パタパタと振られている尻尾!!
可愛い!!可愛すぎる!!
オタクの憧れ!!!エルフと同じく人気があるであろう
「ケモ耳だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!(小声)」
獣人や人間で賑わう市場の端っこで、ハワワワワワワ!!と歓喜に震える。
「タキナ様、リリーより獣人がお好きなんですね…」
冷たい声で言い放つリリーちゃんに慌てて抱きつき
「そんな事ないですよ!!
リリーちゃんはリリーちゃんで別格の可愛さがあるんですよ!!」
お互いのフートがずれないように、リリーちゃんの頬に頬擦りすれば、あっという間に
「はい!リリーはタキナ様の特別です!!」
と言って速攻で機嫌を直してくれるリリーちゃん、互いに互いの扱いを覚えて来ている今日この頃である。
「タキナ様、先に宿を決めましょう。
夕方になると駆け込みで入国してくる旅人が増えて、良い宿は直ぐに埋まってしまいます」
奴隷狩りの頭であるオルハントが、辺りを気にする様にしながら話しかけてくる。
オルハントはエルフの里からミッドラスに入国する間、段々と昔の言葉使いを思い出したのか、盗賊っぽい話し方が抜けつつある。
それなりの立場と言っていたが貴族か何かだったのだろうか?
「それならぁー、私が良く使ってる宿屋があるのでぇー
そちらに行って見ましょー、こから近いですしぃー」
流石はロメーヌ、早速頼りになる!
ちなみにロメーヌには、しばらくローブを脱ぐな!露出禁止令を発令したので、ミッドラスで悪目立ちする事なく過ごせそうである。
オルハント以外の奴隷狩りの面々とは別れ、ミッドラスに詳しいロメーヌと共にオルハントが案内をかって出てくれたので、有り難く頼むことにした次第だが、先ほどから、やたらと周りを見回しているのが気になる。
「オルハント、何か気になることでもあるのですか?」
首を傾げてそう問えば、少し気になることが…と雑踏に紛れるよう小声になる。
「帝国は黒髪の女を取り込もうとしてますが、ミッドラスや他の国はどう対応するつもりで居るのか、知り合いの獣人がいたら話を聞こうと思いまして、獣人は非常に耳が良いですから会話は十分に気をつけてください」
その言葉に頷いて返事をする。
オルハントすんごい協力的じゃないですか…最早旅の仲間並みですけども!!
しかしまぁ…言われて見ると些か気になる。
私の噂なぞ普通に考えたら、ドラゴンの強さを知っていれば「そんなのホラ話だろ」で、終わりそうなものではあるが、本当に国のお偉いさん方がそう思ってくれているのか否か、知りたいのは確かである。
だが、私の黒髪がバレればホラ話では済まないかもしれない。
対話する前から敵対されるのはゴメンだ…ロメーヌの後を追うようにゾロゾロと皆で移動を開始する。
ミッドラスに到着するまでの間、オルハント達から色々な話を聞いた。
私がこの世界に来る前に敗戦国は奴隷にされているという話を聞いていたのだが、敗戦国はリリーちゃんの言っていた通り帝国に従う者の多くは、帝国国民とそこまで変わらぬ扱いを受けているとの事だが、戦争で親や夫を無くし身寄りのない女、子供の多くが奴隷商人に捕まり売られているという。
オルハントは自分と同じ出身国の人間を売るのは流石にできずに、森に住む人間以外の奴隷狩りになったそうだ。
まぁ…気持ちは分からなくもないが、彼にとっては、人間以外は人扱いではないのだなと痛感する。
やはりどの種族も似た考えのようだ。
だからこそある差別なのだけれど…そんな事を思い返しながら賑やかな通りを歩いていると
「ここですぅー」
と、ロメーヌが立ち止まり振り返る
見た目はボロくもない普通のお宿、木とレンガで組み合わせて作ったような、地震大国出身者かすると揺れたら崩れない?と、いささか心配になる…。
見上げれば古びた木の看板に「止まり木」と書かれている。
ロメーヌが扉を開けそれに続いて中に入れば、中は食事どころと言うより酒場のようだ。
まだ昼過ぎだと言うのに店内は賑わっており、丸テーブルには老若男女多くの人がジョッキで酒を飲んでいる。
これも、ファンタジー定番の光景とも言えよう。
ミッドラスに来てから、なんだか観光気分が抜けない。
だって仕方ない…本やテレビで見ていたお話の世界のセットが目の前にあるのだから!!!
ウキウキとした気分で店の奥にあるカウンターへと進むと、ローブを被った大小様々な集団が異質に見えたのか、店内が少し静かになり皆一様にこちらを見てくる。
ロメーヌとオルハントがローブを脱ぎ、カウンターにいた白髪の店主を呼ぶ
「お久しぶりねぇーマスター
元気してたぁー?」
ロメーヌがカウンターに肘をつき、頬杖をつきながら親しげに店主に声をかける。
見ればその店主の耳もエルフの様に長い
もしかしてエルフ!?
「誰かと思えばロメーヌじゃねぇーか、オメェーは変わらず元気そうだな…何なんだよその後ろの奴らは…
厄介ごとはゴメンだぜ」
マスターがロメーヌの肩越しに覗き込むように、迷惑そうな顔をしてコチラを見る。
それに反応したリリーちゃんから、ギリッと歯を食いしばる様な音がする。
落ち着けーリリーちゃん
今までとは違って暴れても大丈夫な森ではなく、建物の中で、まして国の中なのだ。
リリーちゃんの手をそっと取って手を繋げば、バッ!!と私を見上げて嬉しそうな顔をするリリーちゃん
リリーちゃんマジ天使!可愛い!!!!!
と心の中で絶叫するが、文字通りの手綱代わりである。
「もぉー、厄介ごとじゃ無いわよぉ〜エルフの里とドラゴノイドの里から連れてきたのぉー
魔獣の素材を売りに来たのとぉー、戦争が始まりそうって話の詳細とぉー
魔獣が活発な理由とかその辺の話を集めたくて、情報収集?するのに人手が必要だったのぉー
お部屋いくつ空いてるぅー?」
ロメーヌが理由を一つずつ指を折りながら数え、コチラを振り返り人数も数える
「オルハントはどうするのぉー?」
ロメーヌがオルハントも泊まる人数の頭数に入れるか、首を傾げる
「オルハント?
あんた、奴隷狩りのオルハントじゃねぇーか
何でエルフなんかと一緒にいやがる」
マスターがオルハントを不審な目で見る
「エルフを狩りに行ったってのに、まんまと返り討ちにされてな、生きて返してやる代わりに知ってる話を吐かされた上に、情報収集を手伝えって脅されて今に至る。
笑うなら笑いやがれ…」
そういって仏頂面をするオルハント、ロメーヌもオルハントも中々うまい言い訳をするものだと感心して2人を見ていると、マスターが胡散臭そうな顔をしつつも
「まぁ、俺だってエルフだ
アンタにゃ思うところはあるが、そう言う事にしといてやる。
だが残念ながら、空いてる部屋は2人部屋が2部屋だけだ。
ガキ2人ならベッド1つありゃ十分だろ、2部屋で1泊5銅貨だ」
そう言うとオルハントを見て、フンと鼻で笑うマスター
「俺の部屋は必要ない寝床は別にある。
知り合いが酒場にいるかもしれんと探しに来ただけだ。
ここにテアンという白髪の獣人は来ていないか?
本を常に持ち歩いている老人の男なんだが」
オルハントが酒場を見回すと、コチラの様子を伺っていた者達が慌てて視線を外して元の会話に戻っていく
「テアン?あぁ、あの眼鏡かけた学者野郎か、知ってるが…そういや最近は見かけねーな」
ロメーヌがカウンターに10銅貨を置くと、2泊も泊まるのかよと言わんばかりの顔でロメーヌを見るが、オルハントには顔も向けずに答えると、カウンターの下に手を突っ込み、鍵を2本取り出すとロメーヌに放り投げた。




