21−2.遠征
「ヨゼス!!ここを任せる!」
そう副隊長に怒鳴ると、返事も聞かずにゾアン達の後を追うため馬を走らせる。
なんだ…何が起きた!!?
今まで生きてきた中で一度も聞いたことのない轟音、あえて言い表すならば雷が連続して落ちるような、そんな音に近かったかもしれない。
嫌な汗が全身から流れる。
3人の安否が気がかりだ。
馬を走らせていると向いから、一台の荷馬車がこちらへ物凄い速さで駆けてくる。
森から逃げるように走っているのが見て取れる
乗っている馭者は2人だがフードを目深に被っており、表情は見えない。
魔獣の出る森で一体何を、と声を掛けて止めるべきだが視界に入った荷台には檻が見て取れた。
なるほど…奴隷狩か…今は3人の安否の方が重要だ。
仕方なくその馬車を横目に見送る事にしたが、双方走る速さが速い為すれ違ったのは、ほんの一瞬
その一瞬で檻の中に目深にフードを被っている数人の人陰が見て取れた。
そして、その1人と目があった気がした…その瞬間
背筋に寒気が走った。
何だ!!?
振り返るが荷馬車はもう遥か後方、土煙をあげて走り去って行く、腑に落ちない何かを抱えながらも馬を走らせれば、森の入り口付近に馬から降り、立ち尽くす3人が目に入る。
どうやら無事の様だがサーベルウルフの姿が無い
「お前達!無事かっ!!」
息を切らせて馬を止め、唖然と立ち尽くす3人に声を掛ければ、ゆっくりとゾアンが振り返る。
「たっ…隊長…これを」
目を見開いたままゾアンの指差す方向に目を向けると、黒焦げになったサーベルウルフ
よく見れば、黒焦げのサーベルウルフ達が視界に入る。
そして、今更ながら焼けこげた匂いと硫黄の様な匂いが鼻に付く
「…何が…あった…」
ゾアン達のようにあっけに取られ、半ばずり落ちるように馬から降りると、カリナもこちらを振り返りゆっくりと口を開く
「雷です…雷が一度に8つ、サーベルウルフ目掛けて落ちたんです」
こんな晴天だと言うのに落雷だと!?
だが、確かに先ほどの音は落雷の時の音に似ていた。
8頭のサーベルウルフ目掛けて落ちるなど…まさか、魔法でやったとでも言うのか…
雷系の魔術は存在するが、魔導士の目の前の魔法陣から飛び出る程度で感電はするが、黒焦げになる事などない。
まして天からの落雷ともなれば天候を操る様なもの、ドラゴンの中には魔法を使う者がいると聞くが、天候を操るなど御伽噺ですら聞いたことがない。
「ドラゴノイドですかね…」
オーストンがボソリと呟く
「ドラゴノイドが天候を左右させる程の力を使うなんて聞いたことないわよ!
奴隷にされるようなドラゴノイドだっているのに、そんな力あったら今頃、ハイランジアなんて壊滅してるわ!!」
カリナが怒りに任せてオーストンに怒鳴る
この飲み込めない状況に気が立っているのだろう
「落ち着け、ともかく状況確認だ。
落雷が起こる前に何か変わったことはなかったのか?」
すると、ゾアンがこちらを振り返る
「有りました…落雷が起こる前に何度か爆発音と粉塵が森の中で上がっていました。
その後、魔獣の悲鳴のような叫び声が上り、その後にサーベルウルフを目掛けた落雷がありました。
それで…その直後に荷馬車が森から出て行くのを見ました」
「荷馬車…」
ゾアンの言葉を聞く限り、すれ違ったあの荷馬車だろう。
そして、そのに馬車は魔獣のいる森を突っ切ってきている
しかも、サーベルウルフが恐れる何かが居る森を、それを無傷で出てきただと…
「ゾアン、オーストン、俺に着いて来い
カリナ、お前はここで待て、俺達が戻らなければ隊に戻ってヨゼスにこの事を伝えろ」
頷くカリナと馬を残し、剣を抜き足音を殺して森へと足を踏み入れる。
先程の落雷で鳥達や獣が逃げ去ったのか、不気味なほど静まり返った森、自分達の息遣いしか聞こえない。
荷馬車の車輪の跡を辿る様に足を進めていく、一体何があったと言うのか…
嫌な汗を拭いつつ、しばらく進むと鼻につく獣臭と血の匂い。
ゾアンとオーストンに合図して、更に気配を殺して臭いの元へと近づく、木の影から覗き見れば地面に倒れ込んでいる大きな影
「おい…うそだろ…」
ゾアンの驚愕した様な呟きが耳に入る
俺も同じ感想だ…
木の高さほどあろうかと言うその巨体に、鋼鉄の鎧を纏ったかのような見た目の硬い皮膚、見間違うわけがない
「メタルベアーだ…」
メタルベアーはドラゴンの子供を襲い喰らうこともあるという。
ドラゴンに次ぐ魔獣、こんな平原に近い森で確認されるのも驚きだが、その鋼鉄の皮膚に鎖の跡のような模様が付いている。
この鎖…まさか…
ドラゴンを落とした時に黒髪の女が使っていたのと、同じ魔法なのではないか!?
思い出すのは荷馬車とすれ違った時のあの悪寒
まさか…まさか…まさかっ!!!!?
「すぐに戻るぞ!!!!」
そう叫ぶとカリナのいる森の外へと走り出す。
「何事ですか隊長!!」
叫ぶゾアンに慌てて走り始めるオーストン
「あの荷馬車に黒髪の女が乗ってやがったんだ!!」
ドラゴンを撃ち落とした黒髪の女の向かった先の森の方角は、この森とは繋がっていない。
おいそれと対峙する事もなかろうと油断していた。
チクショウ!!
心の中で叫ぶ、荷馬車の車輪の跡を追えばどこへ行ったか追跡できるはず。
荷馬車はどこに向かう気だ!?
あれほどの力を持った者がどこへ、わざわざ姿を隠していた。
間違いなく人目につくところに向かうつもりだ。
でなければわざわざ奴隷用の檻などに入るわけもないし、奴隷狩りまでもが目深にフードをかぶる必要もない。
クソっ!!俺の判断ミスだ!!
森の出口が見えてくる
「カリナ!!あの荷馬車を追うぞ!!」
慌てた様子のカリナが馬に乗り、こちらへ馬を引いてくる。
「隊長!騎士達はどうするんですか!?」
オーストンに言われて、そうだった…と、お荷物の一行を思い出す。
「オーストンはヨゼスにこの事を伝えてくれ、騎士共を連れて魔獣狩を続行する様にとな、騎士共にはくれぐれも聞かれるなよ!
でないと、お貴族騎士の事だ。
我々も黒髪を追うと、しゃしゃり出てくるに決まっている」
分かりましたと頷くオーストンと別れて、今度はカリナとゾアンの2人を引き連れて荷馬車を追う。
今日だけで何回寿命が縮まる思いをせねばならないのか!?
「隊長、黒髪とやり合う気ですか…」
恐る恐る聞いてくるゾアン
「んなわけあるか、どこに向かうか確認するだけだ。
ドラゴンど落としてメタルベアーを倒すような女だぞ、俺らなんて瞬殺だ。
追跡だけだ安心しろ」
そう言うとあからさまにホッとするゾアンにカリナ、あたりまえだろ俺だって命が惜しい。
黒髪の女がどの国に向かうか確認して、ギルドに報告する。
あとは国が判断するだろう。
俺らにはどうする事も出来やしない
馬に跨り直ぐに荷馬車の向かった方へ走り出す。
黒髪の女は何処に向かい
何をするつもりなのか…
またしばらく家に帰れそうもない…
馬を走らせながら大きなため息をついた。




