21−1.遠征
何処まで続くんだと思うほど広い平原
ガタガタ揺れる荷馬車の音に混じり、金属製の防具や腰の刀がガチャガチャと響き耳障りで仕方ない。
煩いし、尻は痛いし、男臭い…何でこんな事に…とマルフィスはため息を吐いた。
騎士団に入ってから、持ち前の運動神経の良さで、訓練もそつなくこなせてきたと思う。
がっ…毎度、指導役には調子に乗るな思い上がるなと、怒鳴られてきた。
お貴族様だと言うのに品が無い事だ。
与えられる仕事は何時もパシリのような仕事ばかり、上官相手どころかお貴族様相手にそんな意見など、出来るはずもなく歯噛みするような日々を送ってきたが、ようやく自分の腕前が試せる機会が来た。
しかし、相手は魔獣…
魔獣が平原に度々現れるようになったとは聞いていたけど、一体森で何が起きているというのか?
戦争の準備をしているのに、魔獣を相手にしている場合ではない。
コレではまるで、冒険者と変わらないじゃないか、騎士に憧れてせっかく騎士団に入ったというのに、周りは高飛車なお貴族様ばかりだし
居心地が悪い事この上ない。
しかしながら、町で働くよりは給金が良いから辞めるわけにもいかないし、何よりも騎士をしているだけで女子にモテる!
コレ重要!!!
騎士様ぁ〜と女性達から黄色い声をあげられるのは、大変に気分が良い
「んふふ…ぐふふ」
「なんて気持ち悪い笑い方してんだあの騎士…これから、命懸けの魔獣狩って分かってんのかねー?
まったく…」
荷馬車が数台連なるように平原を走る。
最後尾の荷馬車の中に十数名の騎士が詰め込まれるように座っていおり、その後ろを馬に乗って走る冒険者の1人が、隣の馬に乗る同僚の冒険者に呆れ顔で声をかける。
「お気楽なもんだぜまったく、聞けば入団したばかりの下っ端騎士に兵士ばかりらしいぜ。
ただの足手纏いにしかならんだろ」
話しかけられた冒険者がため息混じりに答える
「大方、戦争前の鍛錬くらいに思われてるんだろうよ
まったく、人間相手なんかより魔獣のがよっぽど強えってのに、舐めてくれたもんだぜ」
「第1王子のリンデバルト様は冒険者ギルドには、目をかけてくださってるが…
まぁ、所詮は安全な部屋の中で知った気になって、現場を知らねぇーってこった」
「おい!!口が過ぎるぞ!」
「なんだよ、お前が先に愚痴り出したんじゃねぇーか」
「お前ら煩いぞ!!」
リーダーに怒鳴られて慌てて口をつぐんで正面を向く、そんな2人を見てこの隊をギルド長から任されたコールズはため息を吐いた。
先日のドラゴン追跡の際もその隊におり、やっと戻ってきたと思ったら今度は騎士達のお守りをしながらの魔獣討伐、これは何かのペナルティーなんだろうかと思いたくなる。
先月2人目の娘が産まれたというのに、このままでは子供達に父親の顔を忘れられてしまう。
さっさと仕事を終わらせて帰りたいが、正面を見れば目に入る新米の騎士と兵士達、冒険者の中でも上位の者達は手分けして班を組み魔獣討伐で各地に遠征に出ている。
苦渋の決断でギルド長が国へ手を貸して欲しいと頼んだところ、すんなりと騎士団と兵士を貸してくれてと思ったらこれだ。
ギルド長は「魔獣を誘き寄せる餌にでも使え、王子からも許可が出ている。」
と言っていたが、そんなわけにも行かんだろ、騎士と言ってもお貴族様だ。
どんな仕返しをされるか考えただけでも悪寒が走る
そんな事を考えていると斥候に出していた冒険者のゾアンが、こちらに向かってくるのが見えた。
馬の速度を合わせて、隣に付けるゾアンの顔色がよろしくない。
嫌な予感がする…。
「どうしたゾアン、何があった」
「魔獣が…既に魔獣が平原に出てやがる。
しかも一頭や二頭じゃない。
サーベルウフルが8頭、おそらく群れだ。
しかも怯えるように、森の方を見ながら何かを警戒してるようにウロウロしてやがる」
それはつまり…サーベルウルフの群れですら怯える何かが森の中にいると言うこと、サーベルウフル3頭程度ならベテランと中堅含めた冒険者10人に足手纏いではあるが、見習いの騎士と兵士総出で掛かれば、仕留められなくは無いだろうが死傷者は必ず出るだろう。
それが8頭と言うだけでも想定外だと言うのに、それらが怯える何かとは…メタルベアーもしくはドラゴン…
「魔獣狩に来たとは言え、一度に相手をするには多すぎる。
それにサーベルウルフが警戒する相手だろ、その時点で俺らじゃ手に余るぞ」
今度は自分の顔色も悪くなる
だが、危ないから今日の所は止めておこう。
などと言って帰る訳にもいかない。
せめてサーベルウルフが怯える何かを確認する必要もある
例の黒髪の女と何か関係があるかもしれないし、このまま進めば半刻ほどで森に着いてしまう。
「仕方ない…お貴族騎士をいきなりそんな所に連れて行く訳にはいかない」
彼らの安全を考えねばならんとは、これではまるで騎士の遠足だ…
「荷馬車を止めろ!!!
カリナ!オーストン!こっちに来てくれ!
ゾアン、2人を連れてサーベルウルフの見張りを頼む、何かあれば鷹を飛ばしてくれ、引き際を見誤るなよ!
自分の命を最優先しろ」
「犬死にはゴメンですからね
そこは弁えてますよ」
急いでやってきたカリナとオーストン
「2人はゾアンに付いて行ってくれ、状況説明は道中でゾアンに聞いてくれ」
頷く2人の肩を叩いて、勢いよく馬で駆け出す3人を送り出す。
すぐに他の冒険者を呼び寄せて状況を説明するが、皆も似たように不安げな顔になる。
当然だろう…頻出していた魔獣はフレイムボアやロックディア、その程度を想定していたと言うのに…
「何があった。
状況を説明しろ」
荷馬車から降り甲冑を鳴らしながら1人の騎士が、こちらに高圧的な物言いで近づいて来る。
年齢は18、9と言ったところか…絵物語に出てくるような金髪碧眼の青年は、黙っていれば道ゆく女がこぞって黄色い声でも上げそうな見た目だが、睨みつける鋭い眼光に上からの高圧的な物言いは如何なものか…
まったく、これだからお貴族様は…
「待てルイス!
その様に冒険者の方に突っかかるなと、団長からもキツく言われているだろ!」
ルイスと呼ばれた高圧的な騎士を追うように、同じ年くらいの青年も慌てて荷馬車を降り小走りでやってくる。
その青年も金髪に碧眼、顔立ちも少し似ている
兄弟か何かだろうか
「心配せずとも今から説明しますよ騎士殿、全員荷馬車から降りろ」
そう叫ぶと何事かと騎士や兵士達が、億劫そうに荷馬車から降り始める。
そのトロくさい動きにため息をついていると、辺りが一瞬真っ白になり
ズドドドォーン!!!
という雷鳴のような連続した音が響き、馬達が驚いて嗎き立ち上がる。
「今光ったのか!?」
「なんだ!?」
「なんだ今の音!?」
誰しもが驚いて音の方向に目をやる
ゾアン達が向かった森の方角…




