20−2.己の行く末
「ラトリア、彼らについて提案があるのですが」
ラトリアは奴隷狩り達から目を外して、何でしょうか?と、こちらを見る。
「彼らをミッドラスに連れていきたいのです」
そう言葉を発すれば、エルフ達がざわめき始める
当然の反応…この後、奴隷狩達を処刑か拷問でもするつもりだったろう
「それは…理由をお聞きしても?」
流石は戦士長、頭ごなしに否定しない人格者
「彼等は聞く限り奴隷狩の中でも顔が効きそうですし、それを利用して奴隷商人に近づくのも容易でしょう。
それに、彼等の話ではミッドラスは帝国との軋轢で入国審査がが厳しくなっているようですが、彼等と共になら容易でしょう」
「まさか…タキナ様は檻に入って入国する気じゃ…」
頭と呼ばれていた男が驚いたように声を上げる
「それなら、道中も私は困る事なく旅ができるので」
そう言ってニッコリ笑えば
「なんてお人だよアンタ…いや、貴方様は…」
流石の奴隷狩の男も呆れている
見ればラトリアも呆れた顔をしている
おいおい、君までもそんな顔しないでよ、結構良いアイディアだと思ったんだけど
「タキナ様…貴方様は我らの恩人です
ドラゴンも制するお力を持つ貴方が…貴方様が檻に入れられ奴隷狩りと…最早、何とお止めすれば良いか言葉が…」
「えぇー良いじゃないー!
私もそうやって奴隷商人の所まで行ってやろうと思ってぇー
騙されたふりして捕まったんだしぃー、タキナ様の考えに賛成でーす」
「おい、バカッ!」
呑気に話すロメーヌをライハが慌てて止める
ロメーヌと同じ思考回路なのか私…いやーん
っと、色気も減ったくりもない声を脳内であげてみた。
すると、1人のエルフ戦士が
「ラトリア、良いのではないですか、我らは長い間狩られる同族を見捨ててきた。
少数を見捨てて大勢を守ってきたのです
ですが、その少数の者達は想像もつかないような苦しみを今も味わっている…
そいつらは殺してやりたいが、殺した所で別の奴隷狩りが来るだけだ。
これもある意味同じ事、そいつらを殺す事を諦めて大勢を救う」
奴隷狩りを根本的に根絶やしにしなければ、奴隷を救った所でイタチごっこ
完全に奴隷制度を壊さなければならない
時間はかかるかもしれないとは言ったが、できれば可能な限り時間はかけたくない。
どんな手段があるか思いついていないけど…
「確かに…そいつらを始末した所で、一瞬気分が晴れるだけで解決にはならない」
他のエルフもボソリと呟くと「確かに」、「確かにそうだ」と、他のエルフも口々に声を上げる。
「それに、先ほどタキナ様がコレでもかと言うほどコイツらを締め上げてくださった。
罰は受けているも同然、人間がみっともなく悲鳴を上げるのを見て心が晴れたのは間違いない」
オイオイ!なんてドSな発言!?エルフさん!あなた方はそう言う発言しないで!純真無垢であれエルフ!
ラトリアはまたも盛大なため息をついて、里長と話をして来ますと言って大樹の方に歩いて行った。
「タキナ様感謝します」
そう言って頭は頭を下げる
「勘違いしては困りますよ奴隷狩りさん、お会いした時にも言いましたが、正しき者には導きを、悪しき者には鉄槌を…
あなた方を救う為ではありません、ですがこれから正しき道を進むと言うならば、鉄槌はこれ以上はやめておきましょう」
そう言って笑えば、奴隷狩りのお頭が
「さっきは、死んだ方がマシかと思いましたよ…」
そうぼやきながら頭をガシガシ掻くと、急にキリッとした目つきに変わる
「私の名はオルハントと申します
エルフの許しが出た暁には、タキナ様に従います」
そう言って奴隷狩りの頭、オルハントは深々と頭を下げた。
後ろで子分達がおかしらぁ〜と情けない声を上げている
「オルハント、頭を上げなさい…対等した時から気になっていたのですが、貴方は盗賊のような格好をしていますが、どこか品がありますね」
そう、この男だけは他と雰囲気が違うのだ
慌てふためく他の者とは違い落ち着きはあるし、知的というか品があるというか?
年齢は30代前半くらいだろうか?ごろつきとは思えない整った顔立ちだし
「流石はタキナ様…ですが、大した者ではございません。
帝国に敗れた国ではそこそこの地位におりましたが、土地も家も家族も無くし、頼った親族にも足蹴にされ…流れついたのが奴隷狩りです。
まったく、落魄れるにも程がございます。
お笑いください…ハハハ…」
力なく笑う男、成る程…敗戦国の者だったのか…
彼もまた、想像もつかないような苦しみの中に今も居るのだろう。
負の連鎖だな…
「オルハント…貴方の人生を笑いはしません、その苦しみを私には到底理解などできない。
その苦しみは味わっている本人にしか理解し得ない
苦しみを乗り越えろなどと、そんな無神経なことを言うつもりもありませんが…
存分に泣いて嘆いて、己をなじり憐れんで、落ちる所まで落ちたなら、今を変える奇跡を待つのでは無く、己の足で踏み出しなさい。
その時が来たのなら」
何を偉そうに…と、自分で言い切って思ってしまう。
まるで、地球にいた時の自分に言い聞かせるような気持ちになってしまった。
いや、オルハントの壮絶人生に比べれば、私なんて生ぬるいほどの緩い人生だったんだけれど…ごめんオルハントと思って見れば
「うっ…ぐっ…」
オルハントが手で目を押さえるように泣いている…見れば部下達も啜り泣いている。
まてまて!!!
なかなか、寒い話だったと思うよ!!
偉そうだったし、むしろごめんね!って思うレベルよ!!
「タキナ様のおっしゃる通り…私は自分を憐れんでばかりおりました。
哀れな自分はもう…ここから抜け出せないのだと、そう思っておりました…ですがっ!!タキナ様のお言葉で私は…私は…うぐっ…」
「そそそそそうですね!!
己を憐れみ、蔑んで、泣くだけ泣いて落ちる所まで落ちたなら、後は上がるしかないんです!
もう、底は見たのですから!」
何かで聞いたようなセリフだが、とりあえず大の男達よ泣き止んでくれ、エルフ達も驚いているし、何かライハまでもが目が潤んでるし!!
奴隷狩り達に泣かないで元気出して!って言うこの図はなんなんだ!!
「あのぉ…これはいったい…」
聞き覚えのある声に振り返れば、そこに居たのはエルフに案内されて入ってきたのであろう
1人のエルフと2人のドラゴノイド、1人は以前助けたアレイナだった。
もう1人はアレイナと顔立ちが似ているのでお兄さん?
「強強のアレイナちゃーん、久しぶりねぇー」
この微妙な空気をぶっ壊す呑気なロメーヌの声に、さらに動揺するドラゴノイドの2人、可哀想にこんな状況の中で…
奴隷狩り達は、さて置いて
「こんな状況でごめんなさいアレイナ、数日ぶりですが元気そうで何よりです」
まさか、エルフの里にいてドラゴノイドにも会えるとは、もしかしてロメーヌ辺りが呼んだのだろうか?
「はいっ!お陰様で大変元気です!
タキナ様、先日は本当に有難うございました。
こちらは、私の兄でドラゴノイドの長をしておりますクロイです」
そう言って兄の方を見れば、やはりアレイナの血縁かと思うほど顔立ちと髪色が同じだ。
「お初にお目にかかりますタキナ様、兄弟達を助けて頂き本当に有難うございました。
僅かばかりではございますが、タキナ様への感謝の印としてお持ち致しました。
どうぞ、お納め下さい」
そう言うと引いていた馬の背から、何かの干し肉や、色鮮やかな織物の布に銀細工のアクセサリーなど、2当分の馬の背に括られた大きいカバンから大量に取り出される。
「こんなに沢山!?そんな受け取れませんよ!」
慌てて断るが、アレイナから不要ならば売って旅の路銀にでも充ててくれと言われ、確かに…これから獣人の国や人間の国に行けば、その辺の道端に寝るわけにもいかないし、できればベッドで寝たい。
となれば、宿代が必要になる
自称召使から支給されている皮の鞄にお金は入っているけれど、これが尽きる可能性もあるわけで…ありがたく頂戴するか…神様と言うには程遠い行い…金勘定をせねばならんとは、なかなかに世知辛い…
神といえど先立つものが必要なのです私の場合ですけども
「では…お気持ち、ありがたく頂戴いたします」
そう言うと、アレイナもクロイもホッとしたような顔になる。
そんな事をしているうちに、ラトリアが里長を連れて戻ってきた。
さて、里長からの返事は良い返事だと良いのだけれど…今だに咽び泣く奴隷狩り達を見てため息をついた。




