19−1.不穏
強い者と弱い者
持つ者と持たざる者
持たざる者の中でも底辺中の底辺が
奴隷
家畜と同列
もしくはそれ以下
どんな貧乏人もどんなに惨めな人間も
奴隷よりはマシだと
奴隷を見下し己はまだマシだと安堵する
初めて人を奴隷にした奴はどんな者だったのだろうか
奴隷がいるのが当たり前
当たり前だから疑問にも思わない
奴隷を哀れに思う?
奴隷に人の尊厳を?
馬鹿馬鹿しい
奴隷は何処まで行っても奴隷
そして、使い捨ての消耗品
さぁ、今日も進めようではないか
私はこの世界で最も賢い王なのだから
ハイランジアの執務室には、むせ返るほどの花が飾られている。
色とりどりの綺麗な花に彩られた豪華な部屋、謁見室には見劣りするが、要は仕事部屋なのだから致し方ない。
他の者達を部屋から追い出し、残した宰相と共にサージの国王から送られてきた封書に目を通す。
「万事順調に進んでいるか…」
書面を宰相にも無言で差し出す。
あの国の王は本当に救い用がないほど汚くできている
まぁ、扱いやすくて助かるが、問題は帝国
頬杖をついて考えにふける
帝国の次の標的は獣人の国ミッドラス、情報戦が功を奏したのかハイランジアの軍事力を大変警戒しているようだ。
帝国はハイランジアとサンタナムが蜜月の関係だと思っている。
その実、ただ単に金だけの関係だ。
ハイランジアが研究への寄付金として金を流しているだけ、実際戦争をしかけられたとしても、サンタナムの老害共はハイランジアの援軍になどよこしはしないだろう。
帝国が警戒している間に軍事強化が必須、ハイランジアの人間は帝国ほど血の気が多くないため兵の数が多くない。
優秀な指揮官も育てねばならないと言うのに、貴族の派閥がうるさくて仕方ない。
今の騎士団長は腕が立つだけでなく人望も厚いが、貴族階級が低いせいで何だかんだと、上の貴族が難癖をつけてくる。
噂では、その騎士団長を別の派閥の伯爵の息子が、追い落とさんと画策していると言う。
国を守る騎士が派閥争いなど聞いて呆れる
今はそれどころではないと言うのに愚かにも程がある
いっそ、国王権限で反発する貴族を消してしまおうか、どうせ私が国王なのだ。
しかし、そんな短絡的な考えを実行するほど愚かではないが、それができたらどんなに楽か…
面倒だ…何故私の代で戦など起こるのだ
趣味に興じ優雅に生活していたいだけだと言うのに、思わず頭を掻きむしりたくなる。
あぁ、早く帰って奴隷どもを痛ぶりたい。
なんて心地よい疼きだろうか、そうと決まればさっさと終わらせよう。
「ベルファ、いつまでそれを読んでいる
次の書類を持ってこい!さっさと片付けて私は地下へゆく」
「はい!!只今!!」
読みかけなのか何なのか、見ていた手紙を机に置くと、バタバタとしながら執務室の外に控えている者達を呼びに行く、宰相でありながら優雅さの足りない初老の男の背中を見送りつつ、机に頬杖をつく
あぁ…さっさと終わらせたいものだ
何もかも
「おはようございますロメーヌ、少し時間はありますか?」
エルフの長達との挨拶という名の会談?を終えた翌日、小屋から出てロメーヌを探しにいこうとしていた所、朝日に向かって大きく伸びをするロメーヌを小屋の下で見かけたので、ラッキー!と急いで声をかける。
「おはようございますぅータキナ様ー、勿論有りますよー
どうかなさいましたぁー?」
相変わらずの間延びした話し方、どうやって話を切り出そうかとか昨晩色々考えていたと言うのに、ロメーヌののほほーんとした返しに
、思わず肩の力が抜けてしまう。
近くに梯子がなかったので、お行儀が悪いがそのまま通路から飛び降りて地面に着地する。
人間のままなら両足の骨を折っている事だろう。
こう言う時だけだが、ありがたや神の体
タキナ様、すごーい!カッコイィー!とパチパチ拍手するロメーヌ、いや、昨日の貴方の方がよっぽど凄かったでしたでしょうよ
まぁ、お褒めの言葉は素直に受け取りましょう。
「ありがとうございます。
さて、少し歩きましょうか?
里の周りも見てみたいのです」
「良いですよぉー、朝のお散歩一緒にしましょう」
ニッコリ笑いすんなりと受け入れるロメーヌ、ここではできない話と察しているのやもしれない。
ロメーヌからミッドラスがどう言う処なのか話を聴きながら、しばらく歩いていると次第に水の音がしはじめ、程なくして川が見えてきた。
上流の方を見れば水車小屋がある
昨夜、話していた鉄砲水にあった水車小屋だろうか、中々言い出せずにここまで来たが、はぐらかされるかもしれないが聞かねばならない!
直球で勝負!と意を決す。
「ロメーヌ、貴方は私の旅に同行したいと言いましたね。
理由は世界中の良い男に会いたいとか言っていましたけど、本当はどう言った理由なのでしょうか?」
そう問い私はその場で立ち止まる
しかしロメーヌは川縁まで歩いて行き、それからゆっくりと振り返る
いつもと変わらぬ表情に見えるが、ぎこちなさと言うか…何処か違和感を覚えた。
「本当も何もー、世界中のいい男とイイコト沢山したいじゃないですかー
世界が滅びるかも知れないなら尚の事、人生をめいいっぱい楽しまないと損ですもーん」
そう言って笑う彼女の瞳には光が無いように感じた。
私を見て微笑んでいるのに、どことも言えない遠くを見つめているようで、ここに確かにいるのに、何処にもいない…。
少し…私に似ているかもしれないと思った。
私の場合は大切な人を失った訳じゃないけれど、生きているのに生きていない。
私は確かにここに居るのに、別の誰かの人生を生きてるような、そんな感覚…。
そんな事を思って、大きくため息をついた。
ロメーヌを問いただすつもりはなかったし、はぐらかされるだろうと思っていた。
彼女が答えたくないと言うのなら、これ以上聞くつもりもない。
心の底から誰かを愛したことなどない私には、彼女の悲しみも絶望も到底は量り知ることなっできないのだから…。
本当に…私が神など名ばかりだ…
「そうですか…ならば仕方ありませんね。
そう言う事にしておきましょう
まぁ、私の旅に同行するのであれば、存分に役立って頂きますけどね
んふふふふふ」
怪しげな笑いをすれば、それに乗っかるロメーヌ
「いやぁーん♡
タキナ様に私も押し倒されちゃうー」
「オイ!その言い方ヤメロ!」
えへへーっと笑うロメーヌの瞳は、いつもの光を取り戻していた。
本当に、どこまでも本心を隠すのが上手いことだ。
彼女の目的は分からないが、なんとなく…前向きなものでは無いのだろうなと感じた。
この先、どんな旅になるかは私にも分からない
けれど、彼女が変われる何かが見つかるように、神として彼女の拠り所になれるように、私なりに寄り添っていこうと、そう思った。
誰かと関わるほどに私の願いも目標も増えていく、永遠に積み重なって行くだろうその先で、私は一体どんな神になっているのだろうか…
ふと、何かに見られているような気配を感じる
魔獣ではない…この気配は人…
リリーちゃんと森篭りの修行中にも似たような事があった。
敵意がないと直ぐ気づけないんだよね…それにしても油断したな…ローブを着てくるのを忘れた。
「ロメーヌ、何者かが川向こうに」
そう言うと、先程までののほほん顔からキリッとした顔つきに変わり、川向こうに向かって素早く弓を構えるロメーヌ
「流石タキナ様ー
私にはまだ気配がどのあたりか探りきれませーん」
正面から視線を外さず問うてくる辺り、流石は歴戦の戦士
「魔獣ではなく人の様です
草木が邪魔で視認はできていませんが、この岩の直線上に複数人いるかと」
気配はするが距離はそこそこ有る
木や草が邪魔で直線上では見えない
「人が複数でこちらの様子を遠くから伺うとなるとぉー
思いつくのは魔獣狩か奴隷狩ってところですねぇー」
昨日は魔獣で今日は人、このエルフの里は決して平原に近い訳ではない。
結構な深い森だ。
森で迷った線も捨てきれないが、迂闊に攻撃をするわけにも行かない。
「とにかく確かめる必要がありそうですね。
ロメーヌは里の方面の警戒を、正面の者達は私が対処しましょう。
少しは体を動かさないと鈍ってしまいますから」
そう言って右肩を回す
先日、エンテイと戦ったばかりだが、毎日体を動かさないと動きが錆びついてしまうのではないかと、些か不安なのだ。
「んふふー、運のない方々ですねぇー
タキナ様ー奴隷狩りでしたら聞き出したいことが沢山有るのでぇー、話せる程度に生かしてもらえると助かりますぅー」
奴隷狩に聞きたい事か、まぁ、それは一つしかないだろう。
奴隷なんてものを無くしたい私としても、色々と話を聞きたい。
「承りました。
では、行ってきます!」
そう言って、力強く地面蹴った。




