17−2.エルフの里
陽が傾き始めエルフの里がオレンジ色に染まる。
やっと里が落ち着き始めた所で、1人のエルフがいないことに気が付いたライハは、心当たりの場所へと足を向ける。
里から少し離れた場所に、森を切り開いた小さな広場がある。
そこには無数の石板が地面に突き刺さっており、石板の前には花が添えてあった。
夕焼けに染められたエルフの墓地、1枚の石板を見下ろす様に佇むロメーヌの姿、普段の能天気な雰囲気など微塵もなく儚げで、哀愁すら感じさせるようだった。
黙っていれば美人なんだがな…
「ここに居たのか、ロメーヌ」
エルフの寿命は永遠とも言われているが、不死身ではない。
病にもかかるし、大怪我をすれば命を落とす事もある
それが最愛の人であったなら、その悲しみを未来永劫抱えていかねばならない。
返事をしないロメーヌに再度声を掛けようかと迷い、開きかけた口が中途半端に開き出しかけた声を飲み込む
躊躇っている気配を感じたのかやっとロメーヌが口を開く
「いつまで引きずってるんだぁ〜って思ってるぅー?」
いつのもの間延びした話方をして笑っているのに、今にも泣きそうな顔をしているロメーヌ
思わず声が詰まる
「……思って…ない」
声を振り絞って反論してみたが、到底信じては貰えないだろう。
「ウフフ、嘘ばっかりぃー」
あっさりと嘘と見破られ、自重気味に笑うロメーヌ
夜の訪れが近いと知らせるように、冷たい風が通り抜けてサラサラとロメーヌの髪を揺らす。
「私ねぇ、時々…この永遠の寿命が嫌になるのぉ
もう、あの人は何処にも居ないのに…永遠に続くこの日々が辛くて仕方ない…」
エルフは自害しない自害できない
産まれてすぐに授けられる祝福、だが、ある者にとっては呪いに変わる。
一体誰が、何を思て最初に始めたのか、今なら分からなくもない…
昔からロメーヌは異端だった。
エルフにしては低い貞操観念に露出の高い装い。
いつも浮いていた彼女だが、誰よりも情に厚く困っている者がいれば、女も男も他種族ですら手を差し伸べていた。
しかし、種族問わずの男遊びにエルフの年長者達から小言を言われる日々、それをロメーヌはのらりくらりと交わしていた。
そんな彼女が落ち着きを見せたのは、エルフの中でも素朴な青年と恋仲になってからだ。
里の皆が驚いた
あのロメーヌが選んだ者が素朴な青年という事にも、そして、特定の男など作らないだろうと思っていたロメーヌが、思いもよらぬ程一途にその青年を愛した事を…。
仲睦まじく寄り添う姿を今でも覚えている。
青年から送られた木彫りの首飾りを、少女のような笑顔で受け取っていた事、幸せそうだった2人の姿を思い出す…
辛いのはお前だけじゃないなんて、そんな軽率な言葉を言えるわけもなく
「なぜ、タキナ様の旅に同行するつもりなんだ?」
出てきた言葉はあからさまに話を逸らす言葉、我ながら情けなくなるが発してしまった物は戻せない。
「もぉー、ライハずるいぃー
誤魔化すなら私も答えなぁーい」
突然いつもの調子を取り戻したロメーヌに、お互い様だろと言いたくなる。
お腹すいちゃったからぁー、里に戻りましょーと、鼻歌を歌いながら歩き出すロメーヌの背を見送りながら、タキナ様ならロメーヌを導いてくれるだろうかと思い浮かぶ…
あの日、ロメーヌは一筋の涙すらも流さず光を失った…あの瞳を鮮明に覚えている。
ロメーヌの目的はわからない
けれど、どうか…タキナ様と共にいる事で、哀れな我が友の心に再び光が灯らん事をと願わずには居られない。
先程までロメーヌが見ていた墓標に視線を落とす
「どうか見守ってやってください…兄さん…」
そう呟きロメーヌを追うため里の方に足を向けると、早く行けと言う様に森からの風が背を押した。
居るはずのない兄の存在を感じた気がして少し口角が上がる。
「まてロメーヌ!迎えにきた俺を置いていくな!」
そう叫んで駆け出した。




