15−3. 厄介ごと
「ねぇ、聞いた?黒髪の女の話」
そう話しながら女の頭についている。
犬のような耳がピクピクと前に後ろに動き、服の隙間から出ている髪色と同じ桜色の尻尾が楽しげに揺れる。
隣にいた男は双眼鏡を覗き込み物見櫓の上から、国境を守る壁に魔獣が近付いていないか、端から端まで確認する。
その男の青い尻尾は、さして興味がなさそうにだらりと垂れ下がっている。
「あぁ、この前来た冒険者が話してたドラゴンを撃ち落としたって言う話だろ、そんな話なんぞ信じるわけないだろ。
それに、ご親切に逃げてる荷馬車も助けたとか、弱者を助けるなんざ正気の沙汰じゃない」
そう言うと双眼鏡を下ろして腰に下げると女の方を振り返れば、女は塀に頬杖をついて暇そうに森を眺めている
「サボってないで仕事しろ、曲がりなりにも戦士だろ」
「酷いなー、曲がりなりにもって何よ!ちゃんと戦士だから!
それに、黒髪の女は実在するんだから!
一週間くらい前に魔獣狩に出てたカイルが森で、深緑色のローブを着た黒髪の女の子を見たらしいの、人間だったらまず気付かないような距離を取っていたのに、カイルに気づいて森の奥に逃げてったって言ってたわ」
むぅーと言って頬を膨らませるミリア、この可愛らしい容姿と所作、そしてその性格に一体何人の男が翻弄され弄ばれてきたことか…。
その事実を知っていなければ自分も籠絡していたに違いない
ダマサレテハイケナイ…己に言い聞かせて、ため息を一つつくと視線を逸らす。
「黒髪ね…深淵の化身か何かか?
ばーさんから聞いた御伽噺でそんな様なのを聞いたな、黒は原初の色とかそう言う話をさ」
「あった、あった!私も聞いたことがあるよ、世界の始まりは闇、闇は黒、黒は始まりの色って」
ミリアは思い出した事が嬉しいのか手を叩いて、見るからにテンションが上がる。
「ねぇ!ルークスも聞いたことあるよね!」
そう言って振り返るミリアの後ろから、交代のために階段を登ってきたルークスの灰色の耳と頭が見えた。
獣人は耳が非常に良い櫓の下にいても、上の話し声は大体聞こえている。
「えぇ、俺も小さい頃に祖母から話をよく聞かされましたよ」
そう返すと同時にヒョロリとしたルークスが、最後の階段を上がりこちらに向かってくる。
獣人は大抵の者は分厚い身体でガタイが良く筋肉質なのだが、ルークスはどんなに身体を鍛えてもヒョロヒョロなのだ。
その上、人の良い優男のような顔をしているので、誰が見ても戦士には見えない。
だが、人当たりが良いためルークスを悪く言うものは居ない。
「やっぱり、みんな子供の頃に聞かされるのねーでも、何で闇が人助けするのかしら?
何んの特にもならないどころか、自分に危険が及ぶかもしれないのに不思議よねー」
首を傾げて不思議がるミリアに、だから見間違いだろと否定するガイル
それを見て口を噤むルークス
突然、数百メートル先の櫓からカンカンカン!!と鐘が3度鳴らされる。
魔獣が近いている時の警報だ
「また魔獣!?半年に一頭くらいしか出てこなかったのが、何でこんな数日のうちに何度も!?」
叫ぶようなミリアの言葉は最もだ
何かがおかしくなってきている…
「ミリア!お前はここに残って見張ってろ、サボるなよ!
ルークスは俺と来い!」
その言葉に頷き、集中しなければとルークスは剣の柄を強く握りしめた。




