14−1.決意
リリーはタキナ様の忠実な僕、タキナ様のガイド役であり、盾であり矛でもある。
タキナ様はこの世界唯一神、この宇宙の神々の1人に名を連ねた方
タキナ様はリリーなんかよりもずっとずっとお強い…けれど、エンテイとの一戦は肝が冷えた。
タキナ様は時折、自分を顧みない時がある
自分を殺して見せろと公言し、他者を守る為に危険を顧みず自己を犠牲にすることも顧みない。
タキナ様を失いたくない
タキナ様のいない世界なんて考えられない
そんな世界に生きていたくもない
この命に変えても、例え何を犠牲にしてでもタキナ様をお守りする。
これは与えられた役目でなく、リリーの意思なのだから
「こうなるんじゃないかとリリーは思っておりました…分かっておりました…がっ!!
納得できるかどうかは別問題です!
このクソトカゲがぁぁぁぁぁぁぁ!!!
タキナ様の慈悲深いお心に付け込みやがってぇぇぇぇぇ!!!」
「黙れクソチビがぁぁぁぁぁぁ!!」
そう2人が叫ぶと同時に、グレンとリリーちゃんの掴み合いが始まる。
初っ端からこれとは白目を剥きたくなる…。
一夜明けてすっかり元気になったグレンと顔を合わせれば、その隣にはオウカの姿もあった。
グレンに手を差し伸べられないとか言ってた割には、完全に優しい父親の顔になっていた。
昨日、会って直ぐの時はグレンに対して冷ややかな目だったのに、今では別人のようだ。
お互いの胸の内を明かし、やっと本当の親子になれたのだと思う。
2人が来たのはリリーちゃんの髪を櫛で解いている最中だったのだが、先程までご機嫌だったリリーちゃんは威嚇モード、グレンを睨みつけている。
昨晩は結局、グレンを旅の仲間に加えることを言い出せずに、いつ切り出そうかと考えているうちに夜も明け、モタモタしている内に向こうから来てしまった…。
致し方ないとリリーちゃんに事の経緯を話し終えたところで、冒頭に戻る。
「こんな風に、はしゃぐグレンは初めて見ました」
そう言って嬉しそうに目を細めるオウカ
そうなんですね…いや…えっ!?
コレ、はしゃいでるの!?
2人とも殴りかかってますけど!?
多分本気で殴ろうとしてますよ!?
ドラゴンのはしゃぐレベル怖い!!
「おっ!?何じゃ!?喧嘩かっ!?」
直ぐに喧嘩を嗅ぎつけるエンテイ、見れば未だに人型のままだ。
私に気を遣っているのか何なのか、イケおじが意気揚々と2人の喧嘩に野次を飛ばす。
昨晩、私が戻ってからもエンテイや他のドラゴン達は浴びるように日本酒を飲み、朝方まで大騒ぎだったのだ。
少しは心配しなさいよ!あんたの孫だろが!とは思いつつも、よそのご家庭のことに首を突っ込むのはよろしくないので、昨晩は日本酒と共に飲み込んだ。
「良いぞグレン!!そこを右じゃ!!なんじゃ、人型の方が動きが良いではないかグレンよ!」
エンテイが誉めているのにグレンの耳には全く入っていないのか、顔色ひとつ変えずにリリーちゃんと殴り合い&罵り合い合戦の真っ最中
良いのか悪いのか…
ふと、喧嘩している2人を見て思い出した。
「オウカ、一つ確認してみてもらいたい事があるのですが」
目を細めて愛息子を眺めるオウカに話しかけるのは気が引けたが、今しかチャンスはない。
「何でしょうか?」
直ぐにこちらに向き直るオウカ
「昨晩、若いドラゴンが苛立ちやすいと言う話をしていましたが、それは他の魔獣と同様、魔石への影響が考えられる訳ですが、そこで、人型のまま過ごして様子をみる事はできないでしょうか?」
そう話すと思案するように腕を組み顎に手を当てるオウカ
なにやら、考え込んでいる
「それは、人型になると魔石への影響が少なくなると言う事ですか?
それはどう言った理由で?」
くっ…そう来ますよね
普通にそこ気になりますよね
「正直な所、確証があるわけではありません、ドラゴンは魔石持ちですが魔獣とは違う。
人型になれるし、意思疎通ができる
この世界が平和であるためには、人種が手を取り合わねばならない
私をここに導いいた別の神が、そう言っていたのです
その手が、あなた方ドラゴンにも…人の姿なら握れる手がある
思いつきの世迷言と思われても仕方ありませんが、試してみる価値はあると思うのです。」
ドラゴンが分裂して凶暴化とか、まさに世紀末…
彼らの分裂からの特異固体の出現こそが、この世界を終わらせるための最強カードだと言う可能性も大いに有り得る。
そうなる前に、出来れば手を尽くしたい。
「確かに…魔石持ちは即ち魔獣とされていますが我々はドラゴン、魔獣とは一括りにされておりませんし、我々自身も己を魔獣と思ったことなどありません。
ですが、昨晩の話を聞く限り魔石がこのまま負のエネルギーを吸い続け、分裂し凶暴化など考えたくもない…
それこそ、その辺の魔獣と変わらなくなってしまう。
我々は気高きドラゴンで有り続けたい
そして、里を…子供達を守りたい
可能性が少しでもあるのなら試してみる価値は大いに有ります」
そう力強く同意してくれたオウカの顔は、先程までの優しい父親の顔ではなく長としての決意に満ちた顔だった。
守りたい者がある人は強いかっ…ふと、そんな言葉が頭をよぎった。
アニメや漫画で散々聞いてきたセリフだ
「まずは、若いドラゴン達には人の姿で過ごすよう伝えます
大人達は少々時間が必要かもしれませんが、きっと、父上が協力してくれるでしょう」
そう言って、未だにグレンが戦っているのを横から、嬉しそうに「そこだー!」とか言いながら叫んでいるエンテイを見やる。
気づけば、リリーちゃんとグレンの喧嘩を見るため、周りに人型のドラゴンやドラゴンのままの姿の者が、次々と集まり始めて闘技場の観戦状態だ。
グレンとリリーちゃんは殴り合いから、先日見た光景と同様、互いの両手を掴み力比べの押し合いをしている。
余りの力に、互いの地面が足形に数センチ陥没している
なんて力…
「エンテイは、もしや人の姿を気に入っているのですか?」
若い頃は人の姿になっていたと言っていたし、抵抗が無さそうに見えた。
「えぇ、気に入っているようです。
人型になるなど意味はない
弱くなる、人は卑しい生き物だと散々言っていたのに、昨晩からずっと人型のままでおります。
嫌なら是が非でも行動を曲げないのが我が父、タキナ様に言われたとはいえ、気に入っていなければとっくにドラゴンの姿に戻っているでしょう」
そんなエンテイの子供じみた行動が面白かったのか、オウカがフフッと少し笑う
「父上は何だかんだと人間を非難しておりますが、本心では人間達を気に入っている。
いや、嫌いになれないのでしょう
そうでなければ、人間の国など、とっくに我らで滅ぼせておりますよ」
恐ろしいことをサラッとおっしゃますねオウカさん…
まぁ、確かに100頭近いドラゴンがその気になれば、人間の国どころか世界征服も容易だろう。
エンテイが若い頃に過ごした人種達との思い出が、心のどこかに残っているのかもしれない。
心の底から楽しかった思い出は、何十年経ってもその時の気持ちを、記憶を、懐かしめるものだ。
私も思わず微笑んでしまいそうになる
「エンテイが若い頃、人と酒盛りしていてくれて助かりました
そうでなければ、私が来る前にとっくにこの世界が終焉を迎えていたところです」
堪えきれずに私が笑うと、オウカも釣られて笑い出す
「フフッ…確かに、そうですね
我が父が大酒飲みの騒ぎ好きで助かりました」
そう言うと2人で顔を見合って笑い出す
とても穏やかな気持ちだ
裏などなく自分の気持ちを話し、伝えて、そして理解し合う。
こんな簡単なことが如何して人は当たり前にできないのだろうか、いや…今、この状況がうまく行きすぎているだけ、トントンで話が進み過ぎているだけ、分かっているけれど今はこの余韻に浸ろう。
傍目から見れば人間とドラゴンが隣り合い
グレン達の喧嘩にお祭り騒ぎをしている様だ
いつか…そこに、獣人、ドラゴノイド、エルフも加わって、そんな光景を目にできる日ができるように私の全てを尽くそう。
そう、心の底から思った。
これは、与えられた役目だからではない。
私自身の願いなのだから




