13−1.ドラゴンの子
「グレンをタキナ様の旅に同行させてはもらえませんでしょうか?」
何かを決意したような、そんな眼差しをしたオウカの申し出に思わず答えに詰まる。
オウカはどう言うつもりでグレンを私に預けようと言うのか、事と次第によってはグレンの人生を左右する。
「オウカそれは、どう…「グスッ…僕が弱いから…いらない子供だから…」」」
私の話を遮るようにグレンが嗚咽混じりに答えると、そのまま外へと駆け出していく
「「グレン!!」」
私とオウカの声が被る。
やれやれ…と言わんばかりの顔をしているエンテイと他のドラゴン達、その中で1人悲痛な顔をしているオウカ、心配しているのはオウカと私くらいか…
オウカはちゃんとグレンを心配しているようだ。
そのことに安堵すると、直ぐに立ち上がる
きっとグレンは勘違いしている。
グレンが思っているよりも、ずっと君の父親は君のことを気にかけている。
この誤解を解かなければ
「オウカ、私はグレンを追います
少し経ったら来て頂けますか?」
そう言うとオウカは何かを察したのか静かに頷く
「リリーちゃん少し出てきますね」
ムゥと拗ねた顔をするリリちゃん、だけれど直ぐにキリッとした顔つきになる。
切り替えの速さは私と同じらしい
「タキナ様はあのトカゲに甘すぎです
けれど、リリーはデキる僕なので我儘は言いません!何かあればいつでもお呼びください」
本当にリリーちゃんはいい子、タキナ泣きそう
「いつもありがとうございます。リリーちゃん!」
リリーちゃんにお礼を伝えると、急いでグレンの後を追う
外は暗いので見失わないか心配したが、人型のまま山肌を降って行くグレンの小さな背中が月明かりに照らされていた。
走りながらも涙が止まらない。
ドラゴンのクセにと、また皆んなに罵られる
どうして僕はこんなに弱い
どうして僕はこんなに泣き虫なんだ
どうして僕がドラゴン最強の孫なんだ
どうして思うようにできないのか
どうしてこんなに劣っているのか
どうして親にすら必要とされない僕は産まれた?
どうして、どうして、どうして
誰か…誰か教えて…
最強のドラゴンの孫、最年少で里の長になったドラゴンの息子、物心ついた時には周りからいつも特別扱いされていた。
いつも和の中心にいて毎日が楽しかった
けれど
次第にそれは変わってく…同い年のドラゴンより小さく、飛べるようになるのも遅かった。
吐き出す炎も弱い。
その上、手合わせした年下のドラゴンにも負けた
そんな僕を祖父が放っておくわけもなく、毎日嫌だと泣いても立ち上がれない程、ボロボロになるまで戦いの訓練をさせられた。
泣いて縋りたい母は僕を産んですぐに亡くなっていて、唯一頼れた父も次第に僕と距離を取るようになった。
自分の子じゃないと思いたいみたいだった。
どうして必要とされないに僕は産まれたの?
どうして皆んなは…世界はこんなにも残酷なの?
誰の期待にも応えられない不甲斐なさ、必要とされない自分、何もかもが嫌になり里を飛び出した。
もう、ここには戻りたくない。
世界は弱い生き物で溢れてる
他のドラゴンと会いさえしなければ1人でだって生きていける
いざ飛び出してしまえば世界はとても広くて、羽ばたく空から世界を見渡せば、僕はもう自由なんだと思わせてくれる。
とにかく里から離れたくて平原をひたすら飛び続ける
平原に迷い出ていた魔物を狩って腹を満たす
ふと視線を感じて顔を向ければ僕の姿を見て慌てて逃げていく人の姿、獣人か人間か僕には見分けがつかない。
僕のことが怖いんだ
恐れられる事に初めて嬉しいと思った。
逃げる人の後を追うと家畜の群れと複数の人の姿、悲鳴をあげて家畜共々逃げ惑う。
興味本位で付いて来ただけだったけど、もっと恐ればいい。
僕はお前らなんかより強い存在なんだ。
人や家畜を炎で焼き払う
簡単に黒焦げになり焼け落ちる弱い生き物達、ここなら僕は強いドラゴンでいられる。
そう思ってからは人も家畜も魔物も関係なく追いかけ回して、人の住む村も焼いて周った。
楽しい!
面白い!
もっと僕を恐れて逃げ惑えばいい
そんな楽しい日々が続いたある日、平原の真ん中で集まる人を見つけた。
まだ日が登り始めたばかり、きっと奴ら寝ぼけている。
そこに突然僕が現れたら、さぞや驚いて無様に逃げ惑うに違いない。
クツクツと笑いを殺して、陽を背にして人共の集まる場所を目指す。
まだ僕に気づかない呑気な人を驚かせるために、大きな咆哮を上げる。
飛び起きて逃げ惑う人間が面白くて仕方ない
ほら、強い僕から逃げろ逃げろ〜、横目にエルフが走っているのが見えた。
エルフ?人間よりも強いけど僕には敵わない
さて、どうしよっかなぁ〜機嫌よく逃げ惑う人間を見ていると、人にしては大型の奴が僕に向かって咆えながら武器を投げてきた。
しかし、そんな物じゃ僕の体に傷はつかない
案の定、それは鱗に弾かれるとあさっての方向に飛んでいく
はい、残念でしたー
投げてきた奴も燃やしてしまう
僕に楯突いたんだ全部燃やすまで止めてやらない
無理だとわかっているだだろうに魔法攻撃を仕掛けてくる人間達、バカだな〜人間若きが僕に叶うわけないじゃないか、この鱗は武器だけじゃない魔法をも弾く、僕に攻撃を与えたければ僕の防御を超えるほどの魔力を込めなければ意味がない。
でも鬱陶しいな、魔術師達を次々と灰に変えてやる。
僕の炎なんかで灰になっちゃなんて、大人のドラゴンだったらコイツら灰も残らない。
アハハ!可哀想な奴ら、逃走した人間は荷馬車に乗り込みここから逃げようと必死だ。
ダメダメ!逃がさない!でも、燃やすのは飽きた。
荷馬車を鉤爪で掴んで空へと持ち上げ、地面へと落とすと盛大な音を立てて木っ端微塵になる。
そこから飛び出る人間達、アハハハ!腹を抱えて笑いたくなる。
地面に降りたつと、息絶えた人間には目をくれず馬を数頭食らって腹を満たす。
さて、ここに居た人間は粗方燃やした
残る荷馬車は後一つ、いつの間にか薄暗かった空には日が昇りすっかり明るくなってる。
空に勢いよく飛び上がると、遠くに走る荷馬車を見つけて鼻歌でも歌いながらその後を追うように、バサリと翼をはためかせる。
急がずジワジワと距離を詰めていく
荷馬車の中から顔を覗かせているのはエルフと……ドラゴノイド?
ドラゴノイドはエルフよりちょっと強いんだっけ?
人間よりもエルフ、エルフよりもドラゴノイド、ドラゴノイドよりもドラゴン
そう!僕が1番強いんだ!
僕は強い!里から出て何度も何度も繰り返して来た言葉
だけどそれは、突然終わりを告げる
急に馬車が方向転換して森へと向かい始める
急になんだ?
退いた馬車の端から一瞬で視界に入る黒髪の人の姿に、ゾワリと全身の鱗が逆立つような感覚に襲われる。
何…!?
関わりたくないと荷馬車の後を追うと突然、頭上から感じたことのない気配、反応する間もなく全身が何かに貫かれる。
痛いっ!!!
うまく飛べずに地面に叩きつけられる。
それと同時にフラッシュバックする祖父との辛い訓練、自分が誰よりも弱い事を思い知らされ、泣いて逃げたしたくなる感覚
嫌だ…嫌だぁ…僕は強いのに…
痛む体をもがく様に無理やり起こし、直ぐ様空へと飛び上がる
幸にして翼に細かい穴は空いているが飛べない程ではない
ここから逃げたい!この人から早く逃げたい!
自由な空へ戻った瞬間、今度は何かが身体に巻きつき地面へと引きづり戻され、再び強い衝撃が全身に走る。
目を開けば邪悪な笑みを浮かべた黒髪の人の姿、魔力を一切感じない…
お祖父様や同胞と戦っていた時とは違う恐怖、こっちに来るなと必死に炎を吐き牽制するも、まるで意に返さず歩みを進めてくる
殺される…こんな事なら里にいればよかた
こんな事ならもっと真面目に戦いの訓練をしておけばよかった
何で小さいくせに黒髪はそんなに強い?
なんで、人間なのにドラゴンを超える力を持つ?
僕と同じで小さいくせに、なのに…僕と違う…なんで…なんで…こんなに小さい人間が強いという事実
小さいのに強い…羨ましい…
多分、並大抵のドラゴンじゃ敵わない
散々自分なんかと、自分はなぜ産まれたのかと罵ってきたのに
なのに…
黒髪の人が目の前まで迫るとニタリと笑う
死にたくない
まだ死にたくない
弱い僕だけど、必要とされない僕だけど……
まだ死にたくない!!!!




