9−1. 世界情勢
私がこの世界の神になる。
まるで厨二のような台詞で笑いたくなる。
馬車に揺られながら外を眺めればどこまでも続く平原と空、まだ辿り着けもしていないが、この世界にはいくつか国があると言う。
国が違えば文化も違う、まして種族が違えばその差は大きくなるばかり、お互い尊重しあって手を取り合って行きましょう。
なんて、そんな綺麗事言うつもりもなければ、実現できるとも思っていない。
元の世界での平和は本当の意味で平和だった事なんてないだろう。
生まれた国が違えば、自分の知り合いでもなければ、誰かが殺されようと、実の親に売られようと、食べるものが無く飢えて死のうと、全てはテレビの中の話だ。
大抵の人からすれば他人事、私もその1人だった。
私の目標としなければならない世界の救済、そして平和とはなんだろうか?私がなりたいと思う神は何だろう?この世界で必要とされる神とはどんなだろうか…と、その瞬間ザザッと目の前にノイズが入るような感覚に襲われる。
テレビの砂嵐のような中に…何か一瞬見えた気がした。
今のは一体…
少し疲れたんだろうか…疲れない、眠らない身体に、心身が付いて行っていないような、何とも言えない感覚になる。
深呼吸して気分を変えようと、再び青い空を見上げる。
森を出てから平原を直走り、エルフとドラゴノイドの森を目指しているが、当然ながら道は舗装されていないため、ガタガタと揺は酷いし床が板なのですぐにお尻が痛み始める。
こう言うところは人間の頃のままなのか、お尻痛い…
「お腹すいた…」
エルフの女の子がポツリと溢す。
「「僕もー」」
続けるようにドラゴノイドの双子も手を挙げると、アレイナにもたれかかる。
「森でお菓子とお茶をタキナ様から頂いたじゃない。
夕暮れには里に着くから、それまで頑張って」
空腹とは無縁の体になったから忘れていたけど、明け方からずっと逃げてきて、森で食べたクッキーとお茶だけじゃお腹空くよね。
気の回らない神で面目ない。
「リリーちゃん、何かすぐ食べられるものは用意できますか?」
困った時のリリーちゃん、何もかも頼ってすみませんと思いつつも、完全にド○えもーーーん状態です。
「この力はタキナ様だけの物ですが、飢える民に施しを与える。
あぁ、タキナ様は本当にお優しいです!!慈悲深いタキナ様にリリーは泣きそうです。
お前達!タキナ様のご慈悲に感謝して咽び泣くがいい!!」
そう言って皆んなにドヤると両手を交差させ、天井に向かって手を振ると、何もない所から見慣れた大量の惣菜パンと、お茶やらスポーツドリンクのペットボトル、中には菓子折りまで混ざっており、ドサドサっと落ちてくる。
何もないところから突然出てきたものだから、皆なが慄いて後ずさる。
どうして見慣れたメーカーのパンとペットボトルが!?
一体どう言う原理?
「リリーちゃん、前から気になっていたんですが、これは私の世界の食品と飲み物ですよね?
先ほどのクッキーや紅茶と言い、どうやって持ってきてるんですか?」
禁忌事項って事はないだろうと、リリーちゃんに恐る恐る聞いてみると
「これは奉納された品です。
お供物でも意味は通るようですが、タキナ様の国で神や仏に対して供えられた物をこちらに召喚しています。
全国各地で毎日大量に奉納された食料品は早々消費できません、有名なお社や寺をお持ちの方々ですと特に。
故に一箇所に集められて共有しております。
他の国の神も似たようなシステムが有るとか無いとか」
おぉ…日本の神と仏の世界でそんなシステム化が…流石は勿体無い精神の国って、神も仏も協力しあっているんですね。
神仏習合ってやつですか?
「あれっ、ですがホワイトボードとか寝袋は一体?」
「あれは、備品です」
備品!?会社の備品的な、そう言う意味合いの!?
何でもありですね…なんか急に組織感出てきたな、新人の神として諸先輩型に挨拶回りとか行った方が良いのかと考えてしまう。
私は差し詰め、入社直後に地方配属ならぬ海外配属された哀れな新人なのだろうか… 切ない…
涎を垂らしてパンをガン見している子供達を、これ以上待たせるわけにもいかないので、パンの袋の開け方を教えて中身だけを食べるように伝える。
味の想像ができないと思うので、刺激が強そうなカレーパンやチョリソーのパンは除ける
「美味しい!!!パンが柔らかい!!卵だけど味が違う!」
エルフの女の子が、卵パンを口いっぱいに頬張りながら一生懸命食べている。
ドラゴノイドの少年2人は粗挽きソーセージのパンを無心で頬張っていて、子供達があまりに美味しそうに食べているので、なぜだか私まで嬉しくなる。
エルフ達にはアップルパイやお饅頭が人気のようだ。
「神の世界というのは、こんなにも美味な物が沢山あるんですね。
この飲み物も先ほどの紅茶とはまた違う、さっぱりとした味わいで美味しいです。」
アレイナがごくごく飲んでいるのは緑茶で、とてもお気に召したようだ。
「正確に言うと神の世界の物と言うより、こちらとは別の世界の住人達が神へ捧げたお供物になります。」
私も先ほど聞いたばかりの情報ですけども…
「つまりコレは異世界の食べ物というわけですね。
とても文明が進んでいる世界なのでしょうか、ガラスでも無い不思議な入れ物に色鮮やかな絵も書き込まれているし」
驚くようにマジマジと緑茶のペットボトルを見つめるアレイナ、その横にいたエルフが質問を投げかけてきた。
「神様には、お供物をするのが常識なのでしょうか?」
「そうですね…私が知っているのはここと、そのパンのある世界しか知りませんが、そちらの世界では神や仏に食べ物やお酒などを、感謝や願いを込めてお供えする事はよく有りますよ」
「では、タキナ様への感謝を込めて我らもお供物をしなければ」
「良い心がけですエルフ」
何故かリリーちゃんがすかさずドヤる
やめなさい…。
お供えについてあれこれ議論し始めるエルフ達、アレイナまで「そうですね!」なんて言っている。
「いやいや、私にはいりませんよ!食事を必要としませんし、感謝のお気持ちだけで充分です」
慌てて止めるが会議は進む、いかん話を話をそらさねば!!!




