115.会議中断
「くはぁーーー!!!久しぶりに飲む炭酸は美味い!!」
そう言いながら二杯目を注ぎ始める。本当はビールが良いが、リリーちゃんと一緒に飲むのだから酒というわけにはいかない。グラスを持ったまま動かないリリーちゃんを横目に、2杯目に口を付けて飲み込むと小さく息を吐いた。
「リリーちゃん、私はこれで良いと思っています。」
私の言葉に、リリーちゃんが顔を上げたのが視界の端に映る。
「神様って本来どうあるべきものなのか、元が人間の私にはわかりません。
けれど、私の元居た世界でもここと変わらないんです。困った時の神頼み…普段は神社なんて近寄りもしないくせに、困った時だけ神様にお願いごとをして絵馬書いたり、おみくじひいたりして神様にすがるんです。
願いが叶ったところで、お礼に行かない人の方が大半だと思いますし。感謝を伝える人すら少ないと思うんです。人間にとって、神様は都合の良い存在なんだと思います…。すがる存在が有る事のありがたさすら気づかない。」
言葉にしていくと、人間って本当に自分勝手な生き物だなと改めて思う。そんな人間を何百年、何千年と見守ってきた神様の器は人間の身では計り知れない。
「身勝手な人間の事を、神様達がどう思っているのか私などにはわかりません…。怒っているのか、呆れているのか、既に見放されているのか、人間はとはそんな者と計り知れない大きな器で見つめてくださっているのか…。
そもそも、人間である私たちが神様に対してどう接するのが正解なのか、何なら私が今、神様の事を代弁することすら不敬な事なのかもしれない。って、話がそれちゃいました…あはは…。」
そう言って軽く笑い結露し始めたグラスの雫を撫ぜる。
「その…私が何が言いたいかというと…サージの方々が私を頼ってくれることは、私の中で失礼な事とは思っていないんです。ミッドラスの時もそうでしたけど、むしろ……新米神様の私にとっては第一歩というか修行の一環?というか、他から見たら都合の良いように使われているだけに見えると言うのも、自分ではわかっています。
けれど、私の思う神様の在り方からは外れていないかなって、そう思っているんです。」
困ったようにヘラりと笑ってリリーちゃんの方を見れば、リリーちゃんは唇を噛みしめ俯いている。いつも私の事を一番に考えてくれるリリーちゃんの事を否定してばかりな自分、また私はリリーちゃんの心を傷つけてしまったのかもしれない。
「リリーちゃん…ゴッうぇぇぇぇ!?」
謝罪しようとした瞬間、リリーちゃんがグラスのコーラを一気に煽って、カンッ!!とすがすがしほどの良い音を立ててグラスをテーブルへと置く
「はぁ゛ーーーー」
リリーちゃんが腹の底から出したようなため息に、思わず後ずさりそうになる。あっ、あれ…怒りのボルテージむしろ上がってらっしゃる!?
「リリーの知る神とは!!」
「ヒャイッ!!!」
がばっと顔を上げ、座った目でこちらを見上げるリリーちゃんの迫力に、悲鳴のような返事をして今度こそ後ずさる。
「自分勝手で!傲慢で!!薄情で!無慈悲で!心という物を持ち合わせない!娯楽感覚で人の命を弄ぶ存在ですっ!!」
リリーちゃんの口から出てくる言葉をまとめると、それは神ではなく魔王か何かなのでは…と口をはさみそうになるが何とか飲み込む。
「ですがっ!タキナ様の世界の神々は皆、それとは真逆の存在です!
数多いる人間のたった一人の人間にすら心を砕く、そんな方々です…。
優しい方々なんです…ぐすっ…」
ポロポロと涙を流し始めるリリーちゃんが手でその涙をぬぐう。
「タキナ様はその方々の創られた人間です。
優しくないはずがないんです…私からみれば、もうタキナ様は十分すぎるほど神としての仕事をされています。
なのに、それをぶち壊す奴が…その優しさにつけ込んで消費する奴が許せないんです…。
あいつらは地べたに頭こすりつけてタキナ様に感謝すべきなんですぅーわぁぁぁぁぁぁーーん」
ついに声を上げ始めて泣き出したリリーちゃんに驚きつつも、その小さな体をそっと抱きしめる。
「ありがとうリリーちゃん、いつも私を思ってくれて、助けてくれて本当にありがとうございます。
リリーちゃんが居てくれて私は本当に心強いです。」
リリーちゃんの背中をポンポンと叩きながら伝えると、私の胸の中でリリーちゃんが頭を振る。
「ぐずっ…助けれてません…リリィーは…いつもいつもいつも…タキナ様を助けられなくてっ…役立たずでっ…」
「そんな事ありません。今こうして、この世界の…いえ宇宙イチ私に寄り添って、私を励まし助けてくれてますよ。リリーちゃんには感謝してもしきれません。だから、泣かないで、リリーちゃん」
そう言ってリリーちゃんの頭をなぜれば
「うっ…うぇぇぇぇーーーん!!!」
と、泣きじゃくるリリーちゃんに苦笑いしつつも、ヨシヨシとリリーちゃんを宥める。この腕の中にあるぬくもりに、少しばかりの安堵と何処か懐かしさを感じながらそっと目を閉じた。