113.大荒れ会議
サージの王宮にある大会議室、楕円形の茶色い木の長テーブルが部屋の中央に置かれ、その周りを取り囲むように控えめな刺繍の施された布製の椅子が置かれている。そこにはサージの今後を話し合うべく騎士達だけでなく、貴族や政務官、市民代表など様々な職務の者達が大勢集まっており、椅子に座り切れずに食堂から引っ張ってきた椅子に座る者、立っている者など60人以上は軽くいるだろう。しかし政権を奪還してからまだ2日、休まるどころか人手不足の激務により、皆一様に目の下にクマができ、やつれ、その顔にはありありと疲れが見える。
そんな疲れている皆の顔を眺めながら、テーブルの中央辺りに着席している私とリリーちゃんだが「皆が揃うまで少々お待ちください」と騎士の一人から言われて、その間皆からの視線が次々と刺さる為、なんとも落ち着かない気分である。
「チッ…タキナ様を待たせるとは何て手際の悪い…これだから人間は…」
苛立ち始めるリリーちゃんをなだめすかしつつ、15分ほど待っていると会議室に「お待たせして申し訳ない」と平謝りしながら、ロウレスが走りこんできた。そのまま、人をよけながら一番奥の席に腰かけ、テーブルに持っていた書類をバサリと置くと
「それでは、会議を始めましょう」
その一言と共に会議室の扉が閉められると、今後の方針の話し合いが開始される。まくしたてるように、話し続けるロウレスに次々と周りから意見や怒号が飛ぶ。私の居る意味ある…?と脳内で現実逃避をし始めたころにロウレスの話が一通り話し終わる。それと同時に貴族のまとめ役であるガレストが
「して、この国の最優先課題である食糧事情をタキナ殿はどう思われますか?」
「………えぇ―っと…」
半分も話聞いてませんでした。なんて言えるはずもなく…内心で冷や汗をかきながらも、努めて冷静に、あたりさわりのない言葉で回避しよう!
「市民代表の方の中には商人や冒険者もいらっしゃるわけですし、素人の私の意見よりも他国によく出入りしている方の意見を優先的に聞き入れた方が良い…と思うのですが…。」
そう伝えて、サージに店を構える商人の方を向くとウンウンと頷いている。
「流石、強大な力を持つ方は視野も広くいらっしゃる。
だから言っただろ!私にすべて任せろと!」
商人のふんぞり返った姿を見て、秒で自分の言った言葉を後悔する。あっ…任せちゃいけないタイプの商人だ…。まさか、このようなタイプの人間がこちら側にまだ残っているとは、誤算…。
皆の顔を見るのが怖いので、すぐさま口を開く
「食糧自給は現状では国策で進めなければならない事だとおもいますので、意見を聞く、という事ですのでお間違いなく。」
ニッコリ微笑めば、テーブルの上に置いていた商人の右手がプルプルと震え顔がみるみる赤くなる。ガタリと立ち上がった商人の顔はさながら般若の様だ。斜め後ろに控えていた商人の仲間が、座るように促している。
「私を誰だと思っている!!小娘!!!この国で最大の!大店の商人である私をコケにする気か!?」
「おい!!やめないか!!!タキナ様はこの国の恩人だぞ!!」
「座れオーゲン!」
近くにいた騎士が近寄り、座らせようとするがその腕を振り払っている。
「どいつもこいつも!私をコケにする気かぁ!!!!」
キレてる…。と、内心思いつつ、収まるまで笑顔で無言を貫こう。そう思ったが、いや駄目だ…キレる子がもう一人出てしまう。と思いなおした次の瞬間、隣でガタリとリリーちゃんが立ち上がり、流れるような動作で椅子の上に立つと、今度は片足をテーブルに乗せる。
思ったそばからぁぁぁぁぁ!!!リリーちゃぁぁぁぁぁぁん!!