102.城壁炎上4
「………はぁーーーーー。」
数秒で覆される二人への信頼、蟀谷を押さえながら思わず深いため息が漏れる。もうなるようになれだ。気を取り直し、無表情で屋上に積んであったレンガを一個手に取ると、渾身の力を込めて真紅のドラゴンめがけて投げ飛ばし、ルークスの方を振り返る。怒りに任せて投げたので、当たったかどうかはわからない。
「私は二人を止めに行ってきます。
ルークスは自警団の皆さんと合流してください。」
「えっ!?あっ!!はい!!」
慌てるルークスの返事を聞いて直ぐさま飛びあがると、街を一気に飛び越え城壁の淵に着地する。着地した瞬間、あれだけ燃え盛っていた炎が一瞬で鎮火する。自分でも無意識のうちに力が放出されていたのかもしれない。
気を抑えろー、相手は子供だー。と思っているが、怒りで口の端が痙攣しているのが自分でもわかる。
「君達はー、何を―、やっているのかなー?」
笑顔で、努めて冷静な声を出したつもりだったが、思ったよりも冷たい声に自分でも不味いと思う。ピタリと動きを止めた1人と1頭の目が動揺しているのが見て取れた。何も言わず見つめていると、ぎこちない動きでリリーちゃんとグレンが此方を向くので再度問いかける。
「それで?二人は何をしていたのかな?」
「それは…そのっ…」
珍しく目を白黒させて焦るリリーちゃん、グレンはと言うとドラゴンの姿から人の姿に戻ったと思えば、お手本のようなきれいな土下座、そして
「申し訳ございませんでした!!」
本当にお手本のような日本式の謝罪…初めてあった日を思い出すようだよグレン君…。
やれやれ…と思っているとリリーちゃんもそれに倣う様に土下座の謝罪…。
己のやるべきことを見失って、いたずらに人を傷つけようとしていたのだから反省は必要だ。しかし、いかんせん画ずらが悪い。
子供に土下座させる大人…相変わらず体面を気にしてしまうのは悪い癖だな、それに今はそれどころじゃない。怒るのは後回しにして、現状把握に努めよう。
はぁーーーっと、溜息を吐いて怒りを逃がす。
「二人とも、後でみっちりお説教です。
ところで、アレイナとロメーヌは無事ですか?」
その言葉に、思い出したかのようにバッと顔をあげたグレンが
「エルフが大怪我をして人間の手当てを受けています。」
「「えっ!?」」
リリーちゃんも初耳だったのか、グレンの方を見て驚いている。一刻も早くロメーヌのけがの手当てをしなければ…怖い…失いたくない…。全身の血が冷たくなったと錯覚しそうになる。
「グレン!ロメーヌのところに案内してください!」
私の慌てた声に追い立てられるようにグレンが立ち上がると「こちらです!」と言って、すぐさま城壁から飛び降りた。リリーちゃんに4人の後始末を任せて、グレンの後を追うように城壁から飛び降りた。
中庭はまだ火がそこかしこに残っているが、地面がびしゃびしゃに濡れているのでほどなく鎮火するだろう。兵士たちが必死に消火活動をしたのが功を奏したのだろう。兵士たちが消火の手を止め、グレンを見て慌てて壁際へと非難する。おそらくグレンがドラゴンになるところを目撃した者達なのだろう。
グレンが中庭を横断して反対側の建物の中へと入っていく、観音扉式の扉は開け放たれており中に入ると薬品と血の匂いが充満している。どうやら負傷した兵士や騎士が中に運び込まれ治療を受ける場所となっているようだ。床に布を敷いただけの野戦病院のような場所に所狭しと怪我人が寝かされている。
その部屋を通り過ぎ廊下にでれば、そこにも怪我人が何人もおり壁に背を預けて痛みに耐えるように俯いている。負傷者は多数出るだろうとは思っていたが、これだけの人数を見てしまうと本当に自分の立ち回りはこれで良かったのかと疑問を抱かずにはいられない。
ロメーヌは、ロメーヌの怪我の具合はどれほどなのか…命に係わるほどだったら…。不安に駆られながらグレンの後を追った。