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邪神ですか?いいえ、神です!  作者: 弥生菊美
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94.砲台死守戦


 「「「うおぉぉぉぉぉ!!」」」


 突如として響いた男達の雄たけびに、弓を弾いていたロメーヌが驚いてそちらに目を向けると同時に、自分の背丈とそう変わらない斧が回転しながらこちらに勢いよく迫ってくる。


 避ければ砲台に当たる。しかし受けて止めることは…、と思考している間に目の前に迫った斧に反射的に手を伸ばそうとした瞬間、横から飛び出てきた少年が斧へと飛び蹴りを入れ、いとも簡単にその斧を吹っ飛ばした小柄なローブ姿の少年、蹴られた斧は隣の建物の屋根にドゴォン!と大きな音を立てて、突き刺さった。建物から上がる土煙を唖然として眺めつつも、すぐに目の前の少年に視線を戻す。


「グレンくぅぅぅぅ~ん!!ありがとぉー!助かったわぁー!

後でお姉さんが沢山イイ事してあげるわねぇー!!」


 歓喜のあまりグレンに抱き着こうとすればスルリと避けられ、グレンはまるで犬が後ろ足砂でもかけるような動作で、梯子の引っ掛かり部分を後ろ足で蹴ると、梯子を登ってきていた兵士達は悲鳴諸共中庭へと落ちて行った。


「あのくらい避けろよ、エルフだろ」


めんどくさいと言う顔をしたグレンの顔をに、あらあらー不機嫌なお顔も可愛い♡と思いつつ


「グレン君、砲台を壊しちゃいけないこと忘れてなぁーい?」


「……忘れてない」


 忘れてたのねーと思いつつも仏頂面の少年にニコニコと笑いかけながら「それならよかったわぁー」と、答える。


 先程よりも戦闘の激しくなった下を見下ろせば、斧を投げたであろう男が先ほどと同じくらいの斧を軽々片手で持って、こちらに何事か怒鳴っているが喧騒が酷過ぎてまるで聞こえない。そしてその男の後ろを兵士とは違った風貌の男達が走り抜けていく、あれは例の冒険者上がりの…そう考えているとグレンがいかにもめんどくさそうな声を出す。


「あの肉だるま…また斧投げてくるのか?」


「それはないんじゃないかしら、丸腰になっちゃうものー。

大方、そこに行くから待ってろー、ってところじゃないかしらぁー?」


「ふーん、あんなデカいのがこんな狭いところに来たら邪魔」


 そう言ってグレンがその男の方に向かって手を伸ばせば、美しい青白い魔方陣が浮かび上がり、そこから数本の槍が飛び出した。あまりに早すぎてエルフの動体視力ですら数えられなかった。


 下を再度見れば先程叫んでいた男の両肩とつま先に青い槍が刺さっている。青い槍は高温だ。刺さっただけでなく肉の焼ける痛みに「ギャァァァァァ!!」とものすごい野太い悲鳴を上げた男が、仰向けにひっくり返って火だるまになる。


「あいつ、なんかよく燃えるな…なんで?」


 可愛らしく首をかしげているグレンに、相変わらず多種族に対して容赦がない…と冷や汗をかく、魔方陣を消せば槍も消える。今回は不運にも防具の毛皮に燃え移ったのかなんなのか、全身火に包まれているが、炎の槍の攻撃だけならば出血することもないから失血死は免れるが、内側から焼ける痛みは考えただけでも身の毛がよだつ、流石に背筋が寒くなった。


 それにしても、やり方がグレン君らしくないわぁー?殴りかかっていきそうなのに?ふと思って、グレンの顔を見れば未だに不機嫌な顔


「グレン君、何か気になる事でもあるのかしらぁー?」


 階段下に新手が到着したらしく、戦闘の激しさが増す。自分だけでも下に加勢に行くかと思いつつも、グレンの普段と違う様子に気になり疑問を解消しようと問いかけたのだが、口をつぐんだままグレンがしゃがみ込む。


「グレン君?」


「……なんで、お前とぺアーなんだよ…」


そっ、それはちょっとショックな…思いもよらぬ回答だわぁー…軽いめまいを覚えつつ


「グッ…グレン君そ「何でいつもタキナ様は僕を選んでくれないんだ!いつもいつも、戦いの時、僕はタキナ様じゃない誰かと組まされる!!!タキナ様は僕を避けてる!!」」


 そう言って目に涙を溜め始めるドラゴンの少年に母性本能をくすぐられつつ、あぁー、そういう事なのねぇー。ほぉ…っとため息をついてグレンを抱きしめようと手を伸ばそうとすれば、割と本気で手を叩き落され、痛む手を苦笑いしながら摩りつつ、泣きながらこちらを睨み上げるグレンに目を向ける。 


「グレン君、それは真逆だわー。

グレン君が強くて頼りになるから、弱い私と組むようにしてくれているのよー

ほら、今回なんて特にそうじゃない?

タキナ様とルークス君、リリーさんとアレイナちゃん、グレン君と私でしょぉー、ほら強い人と弱い人のペアーじゃないタキナ様はグレン君を信頼してるからこそ、私の面倒を見てくれるようにって、ペアーを組ませてくれたんだと思うわぁー、グレン君はそうは思わない?」


「………ズビッツ…言われてみれば、ぞうがもっ…ズビッ…」


 グレンはポケットから取り出した、タキナ様愛用のポケットティッシュなるもので鼻をかむと、それを炎で燃やして消した。


「タキナ様は僕を信頼してる?」


「絶対信頼してるわぁー!」


「タキナ様は僕が強いから他の奴と組ませてる?」


「その通りよぉー、あとはグレン君が弱い者と組みながら戦う事によって、成長できるように、もっと強くなれるようにって言うタキナ様の配慮もあるんじゃないかしら?」


「僕がもっと強くなるため…。」


「グレン君凄いわぁー!グレン君は優秀だからタキナ様にとーっても期待されてるのねぇー!流石は最強のドラゴン!凄いわぁー」


グレン君すごーい!と拍手すれば、みるみる嬉しそうな顔になっていくグレンの頬が赤く染まる。


「僕、タキナ様に期待されてる!」


ウンウンと頷けば、すくりと立ち上がったグレンがこぶしを握り締める。


「僕タキナ様の期待に応える為にもっと頑張る!!」


「その調子よグレン君!

押し寄せる兵士を制圧して、タキナ様にご報告しましょうねぇー」


「ウン!!」


 コロリと機嫌を直して力強くうなずくグレンを見てあまりの可愛さに体が疼く、グレン君やっぱり可愛いわぁー♡顔も整ってるし将来有望間違いなし!しかも押せばイケル系…ドラゴンとなんて絶対凄いに決まってるわ!!!思わずドロッとした視線でグレンを見下ろせば、すかさずグレンがブルリと体を震わせて此方を見上げる。


「なっ…なんだよ急に…お前、気持ち悪い…」


「グレン君酷いっ!!」


 イケナイ、イケナイ、私としたことがぁ~!子供にこんな感情を向けるのは、流石の私でもダメな事は理解している。理解はしているけれど、数十年後かぁ~楽しみだわぁ~と思いをはせるのだった。


「エルフ キモチワルイ」


 片言で話しながら、ゴミを見るような目で見上げるグレン君に、そんな目で見ちゃいやぁ~ん♡と体をくねらせていると、下から騎士の一人が大声で叫ぶ


「新手により下が突破されそうです!!お力添えを!!」


その声にすかさず振り返る。


「グレン君、お願いできるかしらぁー?」


「フンッ!当然だ!!人間なんか一瞬でこ「ろしちゃだめよぉ~タキナ様に言われた通りに、できる限り殺さないことぉー。それと、グレン君…味方の兵士に攻撃しないようにねぇ?

敵と味方の違いは、わかるかしら?」」


「………。わっ…わかる。」


「お姉さん急に心配になってきたわぁ…」


「お早くぅぅぅぅぅ!!!!」


 騎士の必死な叫びに、我に返る。

一抹の不安はあれど、おそらく新手は話に聞いていた冒険者上がりの腕の立つ兵士達だ。サンタナムの魔石の武器を使われれば、ドラゴノイドのアレイナちゃんが負けたのなら、エルフの私では役には立たないのは明白…って、言い訳っぽくて嫌になるわぁ…。


 適材適所、グレン君はドラゴンと言うのは十二分に理解しているけど、大人として子供を戦闘に送り出すのはやっぱり気が引けるわねぇ…。こちらの心配などよそに、一足飛びに階段下へ飛び降りるグレンを見送っていると、ガシャン!!と梯子の鉤爪が引っかかる音がして振り返る。


「あらあら、懲りないわねぇー」


 梯子を上ってくる兵士を射かけていると、グレンが下りて行った階段下の声がいつの間にか怒声から悲鳴に代わっていることに気づき


「味方が無事だと良いんだけれどぉ、心配だわぁ~」


とため息を漏らしたのだった。




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