88.劣勢
「………わかりました。
タキナ様のご助力のお話、ありがたくお受けいたします。」
「おい!!」
「正気か!!」
「信じるのか!?」
騒ぎ始める者達が複数人いたが、最初の頃よりその人数は半分以下と減っていた。大半は、まぁ、背に腹は代えられぬ。ってところかな?と見守ていると、ロウレスが拳を振り降ろしダンッという大きな音を立てて周りを黙らせる。
「皆の不安は最も、しかし我らは劣勢だ。
今はタキナ様のお力を借りるほか、選択肢はない。」
劣勢と言う言葉がよほど効いたのか、騒ぎ立てていた者達が唇を噛みしめ黙り込む。それを見回すとロウレスが此方をむく
「タキナ様とお連れの方々にも我々の現状をお伝えいたします。
現在、信用出来る者はここにいる者と、外に出ている者とを合わせても、100人に満たない人数です。我々が動き出せば、賛同し追随してくる騎士や兵士がいるかもしれませんが、王宮に詰めている500人を超える騎士と兵士、外に出ている兵士達を呼び戻されれば2000は軽く超えます。我らとしては、速やかに王と宰相を確保して事を収めるつもりではおりますが、危惧している事がございます。陛下直属の魔導士部隊、そして同じく直属の護衛兵、元は冒険者で腕の立つ者も多いようです。そして、この王宮の上階には防衛するための魔法弾の砲台が設置されています。」
「砲台?」
ロウレスの言葉に思わずオウム返ししてしまう。砲台って大砲の!?しかも魔法弾って言った!?そんな物があるの!?
「半年ほど前にサンタナムから購入したのですが…これか結構な威力でして、サーベルウルフがミンチになるほどです。これが、街に向けられ民を人質に取られればなすすべもありません…」
まてまて、私が出ずして本当に騎士達の戦力で行ける!?不安しか残らん劣勢ぶりじゃないですかっ!!!それゆえ、速やかに確保をとは言っていたけど、魔導士と騎士が戦った場合の勝率ってどうなんだろうか…?と言うかここにもサンタナム…どこまでも余計なことを!!!!おおれえぇぇぇぇぇ…と心の中でサンタナムを呪いつつも、俯いて眉間を押さえる。平常心だタキナ…と深呼吸をして前を向く
「不測の事態で手を貸すとは言いましたが、聞く限りどこもかしこも不測の事態が起きそうでは?最も私が手を貸した方が良い部分は何処でしょうか?」
「タキナ様にはここに居る街の役人達と共に街に下りて頂き、国民の避難誘導と万が一砲台を使われた際、民をその魔弾から民を街を守っていただきたいのです。」
ロウレスがその言葉を発した瞬間、横に座っていたリリーちゃんから殺気が漂い始める。
危険な気配を察知、しかし私が声をあげるよりも先に後ろからアレイナの声が上がる。
「サージの民でもないタキナ様を一番危険な場所に配置する事に異議を申し立てます!!
砲台を壊す方が先決です!」
「私もそう思うわぁ~、いくらタキナ様がお強いからって、その危険な魔弾に対処しろなんて、砲台は壊さず取っておきたいって事かしらぁー?ずいぶんこの国の騎士様は男らしくないのねぇー」
二人の言葉にリリーちゃんの殺気が引っ込み、私も思わず驚いてリリーちゃんと共に後ろを振り返る。私としては、砲台対応が妥当かなと暢気に思っていたので二人の言葉に確かに壊した方が安全じゃん!と、今更ながら思う。
ロウレスが深い溜息を吐くと
「無礼なこととは重々承知しております。
そして、仰る通り…砲台は今後の国土防衛の為にもできる限り残しておきたいのです。
我が国は他の列強国からは相手にされないような貧弱な土地の弱小国、しかし増えつつある魔獣から国を守るためにも砲台は必要だと考えております。例え、我々の命が危険にさらされたとしても覚悟の上です。」
その言葉に、アレイナは言葉に詰まる。しかし珍しくロメーヌが噛みつく
「現状をどうにかできない貴方達が、この先をずいぶんと考えているのね。
身命を賭して民を救おうとする姿は勇敢だわ…けれど結局その民が危険にさらされるのをわかっていて、砲台を優先する。それって、国民よりも砲台を優先してるって事じゃない?
あなた方が優先すべきは今いる国民と、貴方達自身の命を守る事だわ、先導する貴方達が生きていなければ誰がこの国を導くと言うのかしら?」
いつのも間延びした話し方はどうしたのか、と、思わず思ってしまうほどのハキハキと、そして、怒りを含んだ声色、本当にロメーヌですか?と、思わず確認してしまいたくなる。ロメーヌの逆鱗に一体何が触れただろうか…。確かに私を盾代わりにするのは…まぁ、仕方ないとしても、ロメーヌの怒りの根本は今を優先しない事らしい。まぁ、最もか……。
そもそも論として、騎士達が反旗を翻すにしてはお粗末な戦力と言えざる負えない状況だ。しかし、ここで戦わなければ奴隷生産国として、民は家畜のように扱われる。たとえ勝算が少なくとも立ち上がらざるを得なえなかった。のではないかと私は思う。例え自分達が道半ばで散ったとて、後続に続く者達が事をなしてくれるという…希望的観測ではあるけれど、そして、生き残った者達の為にも戦える力を残しておきたい。と思っているんじゃないか?私の勝手な推測だけど…。