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邪神ですか?いいえ、神です!  作者: 弥生菊美
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77.苦悩と苦悩



「オリエンテ様、サージの工作…いえ、調査員より調査報告書が届いております。」


  執務室に通された騎士が一礼する。それを一瞥すると手元にあった書類に目を戻し、こちらに持って来いと手を伸ばせば、騎士が傍にいた侍女に封書を渡し、侍女が足早にこちらにやってくる。


 雪崩の起きそうな書類の山の隙間から手を伸ばす。連日、奴隷解放に向けた法律の策定とその後の支援、そして反発する議員や貴族、大店の店主など、それらとの会議に追われ、ここ数日で一気に瘦せた気がする。まぁ、スリムな体系とは言えなかったので、まぁ、よし、そして何よりも、私が心の底か心酔している我が神の願いとあれば、苦労の内になどはいらない。むしろタキナ様から課された仕置きと考えれば…フッ…喜んで! 


 そんな事を思いながら侍女から書類を受け取ると、手早く封を切る。調査員の報告書は国王である自らが直接封を開いて目を通す。途中で誰かの改ざんを行われない為と、事実をねじ曲げて報告してくる愚か者がいるため、面倒ながらも自らが目を通している。


 以前、サージの国王自ら書状を貰った際は奴隷の生産計画の進捗の報告だったが、まだ収容所の建設には時間がかかるはず。あれから一度も連絡は来ていないので計画実行には時間がかかるだろう。我が神への忠誠をいかに示すかに心血を注ぎすぎて、私としたことがすっかりサージを忘れていた。


 あれが、実行に移されればタキナ様が危惧されている世界の終りへ駒が進むことに繋がってしまう。そう思いながら読み始めた報告書、数行読んだところで紙を握りつぶしたくなるのを堪え最後まで目を通す。


 読み終わると同時に、机にこぶしを叩きつけると書類の山がいくつも雪崩を起こし盛大な音を立てて床へと滑り落ちていく、ビクリと震えた侍女と、騎士を睨みつける。


「騎士団長を呼べ!それとベルもだ!サージに急ぎ遣いを出さねばならん旨を先に伝えておけ!行けっ!!」


そう怒鳴れば、脱兎のごとく走りだす騎士と侍女が部屋を慌ただしく出ていった。


 それを見送ると、脱力したように椅子の背もたれに全身を預ける。


「はぁ…。あの馬鹿がここまで馬鹿だったとは、未だ収容所が完成していないのにも関わらず、国民に計画を伝えて煽るなど馬鹿にもほどがあろう。大体なぜ国民に伝える必要があった?今まで通り、税を払えぬ者を奴隷として引っ立て収容所に入れればよかっただけだ。国民に伝えて何の得が?暴動が起きるのは目に見えているだろうに、愚かすぎる!!秘密裏に行えばよいものを、はぁーーーー。」


 報告書には暴動が国内各所で起きており、騎士と国民との衝突で国民の死者が増え続けている事、そして、国から脱出しようとする者を問答無用で奴隷落ちとしているとあった。


「はぁ…、タキナ様にも伝えねばなるまい。

タキナ様からは苦悩と苦痛を与えて頂きたいが、我が神であるタキナ様に苦悩を与える事など断じてしたくない。だが、言わぬわけにもいかぬ……はぁ゛ー、嫌だぁー、言いたくない………。」


頭を抱えながら机へと突っ伏した。







 宿屋の大部屋で頭を抱えてテーブルに突っ伏しているタキナの姿と、部屋の隅で体育座りをして「私は役立たずのゴミカス…」とブツブツと壁に向かって言い続けているリリー、その双方になんと言葉をかけようかと2人の男女がオロオロしていた。


ロメーヌはベッドの上でルカとルナに字の読み方を教えながら


「まぁーまぁー、アレイナちゃんもルークス君も落ち着いてぇー、私達が慌てても仕方ないわよぉー」


そう言ってにっこりと笑う。


 何をのんきな…と思いつつアレイナが溜息をつく、事の発端は1時間ほど前、地獄の訓練の翌日、宿屋の窓から飛び込んできたのは、見覚えのある赤い鳥、オウカからの連絡用の鳥だった。


 内容は…、要約すると白いサーベルウルフが現れて、ドラゴンでも苦戦したという内容、そしてサンタナムは魔獣の死体を集めているとい事だった。


 当初、リリーさんの話では第二段階に移行しつつある状況と言う話ではあったけれど、リリーさんの予想よりはるかに速かったようだ。そして、それを認識できてなかった私は役立たずです。と、リリーさんの今の落ち込みよう……。タキナ様はタキナ様で「分裂個体でドラゴンがやっと勝てるかどうか!?第四段階の特異個体、強化された魔獣が出てきたら私でも無理なんじゃ!?しかも、サンタナムが余計な仕事を…。サージの問題もまだ片付いてないのに!!」と、苦悶していてタキナ様はあの状態…。


 悩みごとのレベルが世界レベル過ぎて、私などが安易な言葉をかけるわけにもいかず。ミッドラスの時のように、頼ってくださいと言いたいがドラゴンが勝てるかどうかの魔獣に私達が挑んだところで、数秒の足止めもできないだろう。ドラゴノイドは人種最強と思っていたけれど、どれだけ自分は弱い存在なのかと思い知らされる。助けになりたいのに、慣れないと言うのはとても苦しい…。


 「タキナ様、父上達は白い魔獣対策で訓練すると言っています。

ドラゴンは今よりもっと強くなる。だから、戦うのはタキナ様一人じゃないです。

それに魔獣なんてドラゴンのエサだから心配いりません。

大きいサーベルウルフなら僕5頭は食べれると思います。白いの美味しいと良いなー」


 グレン君!感動して聞いていたのに、後半はそういう問題ではないですグレン君!と突っ込みを入れそうになる。しかし、突っ伏していたタキナ様の肩が震えている。


「フフッ、そうですね……。

グレンが5頭食べれるなら、大人のドラゴンなら10頭は食べちゃいそうですもんね。増える前に魔獣が絶滅しちゃうかもしれません。

ありがとうグレン、元気が出てきました。」


 そう言ってタキナ様が微笑み、グレン君の頭を撫でればグレン君も嬉しそうに微笑む、普段ならこの時点で突進してきそうなリリーさんは、相変わらず部屋の隅で壁を見つめている。


これは、重症……。


 するガタリと席を立ったタキナ様がリリーさんの横に座る。


「リリーちゃん、リリーちゃんは役立たずだったことなんて一度もありませんよ、ずっと私を助けてくれたじゃないですか、リリーちゃんは頼れる大事な私の相棒です。

リリーちゃんの予測を上回ったのは、私の仕事の進捗具合がよろしくない上に、呑気にしているから、創造主がせかしたとか?濡れ衣だったらごめんなさい…創造主様。」


 そうタキナ様が言い終わると同時に、ギリッとリリーさんの機嫌がMAX悪い時によく聞こえる音が部屋に響く


「リッ…リリーちゃん…?」


「申し訳ありませんでしたタキナ様、リリーは自分の与えられた知識を信じてここまで来ました。けれど、そがもはや当てにならないのであれば臨機応変に対応しなければなりません。リリーは今よりもっと優秀になります!タキナ様の頼れる可愛い相棒のリリーちゃんでいるために!!」


 フンス!と鼻息荒く立ち上がったリリーさんにタキナ様が呆気にとられつつも、すぐに微笑む


「流石私の頼れる可愛い相棒リリーちゃん!

これからもよろしくお願いします!あっ、大変な時は言ってくださいね。私もリリーちゃんの力になりたいんですから」


「タキナ様!!」「リリーちゃん!」


二人でひしりと抱き合っているのを、グレン君が冷ややかな視線を送っている。


まっ…まぁ、二人とも元気になってくれたなら良かった。


 そう思っているのもつかの間、宿屋の階段を誰かが駆け上ってくる音がする。

ルカとルナ以外が扉の方を一斉に見ると、ロメーヌとルークスが剣に手をける。


 ほどなくして、宿屋の扉が乱暴にノックされる。


「タキナ様!!ファグレスです!サージの件で至急お伝えしなければならないことがあると、陛下より伝言を賜っております!」


 サージと言えば、奴隷を生産すると言う人とは思えぬ事業をすると言っていた国ではないか!?驚いて、タキナ様を見ると顔は笑っているが、完全に微動だにせず固まっている。


 リリーさんが「タキナ様!?タキナ様!?お気を確かに!!」と、タキナ様の肩を焦った様子で揺すっていた。



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