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邪神ですか?いいえ、神です!  作者: 弥生菊美
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51.双子の進退


 宿屋の大部屋のテーブルを囲んで無心で食べ物を口に運ぶ、3名…。

言わずもがな、グレン、ルカ、ルナ…。


 グレンに関しては貴方いつも食べてるでしょ!

ご飯食べさせて無いみたいじゃないか!!と、言いたくなるほど炒飯を無心で掻っ込んでいる。


「そんなに慌てて食べなくても、誰も取りませんし足りなければ追加しますからゆっくり食べてください。」


 やれやれ、と思いつつもお財布事情が気になってしまう。

メイバーの大釜に魔獣の素材を置いてきたのだが、量が多すぎるので明日また受け取りに来てくれと言われてしまったのだ。

しかも、アレイナと店主のメイバーが話し込んでいるのだから、作業は進んでいないのではなかろうか…。


「ご馳走様でした。

お腹いっぱいご飯食べたのなんて、いつぶりだろ…。」


 ルナは食事が終わったのか、スプーンをテーブルに置くと、ほぉーっと満腹感からかため息をついて、ゆっくりと両手を膝の上に乗せると、こちらを見て頭を下げる。


「タキナ様、助けて頂いただけではなく、ご飯まで食べさせてくださって、本当に有難うございます。」


 ルナも良い子だな…なのに、どうしてこんな良い子が、あんな理不尽な目に遭わされなければならないのか…。

そして、現在進行形で辛い目に遭わされている人達が大勢いる。

暗くなる気持ちを振り払うように、ルナに笑いかける。


「気にしないでください。

私がしたくてやっている事ですから、落ち着いたら今後の事を話しましょう。」


「その事なんですが…。

私達、本当にお返しできるものがなくて…このご恩をお返しするためタキナ様にお仕えするか、何かお手伝いできることがあればと…」


ルナが言い終わると、水で食事を流し込んだルカがコップをテーブルに置くと、こちらを見て頷く


「どのみち俺達、戦争で親を亡くして親戚も皆んな生きてるか死んでるかもわからない。

行く宛なんてないんです。

奴隷を家畜程度にしか思ってない奴らに飼い殺されるくらいなら、タキナ様にお仕えしたいです。

助けてもらった上に厚かましいお願いとは分かっています…。

俺達、一度は死んだような身ですから、どんな仕事でも構いません。

お願いします。」


そう言い終えると、ルナとルカがテーブルに頭を付けるほど頭を下げる。


「2人とも頭を上げ出てください!

先程まで辛い思いをしてたのですから、色々疲れてるはずです。

そう言う大切な事はもう少し落ち着いてからゆっくり考えましょう。

今すぐ決める事では有りませんよ。

私達は暫くハイランジアに留まるつもりですから、その間に相談しましょう。」


 10代の子供に…いや18歳だけど…頭を下げらる大人の気持ちよ…非常に居心地が悪いというか、なんと言うか…。

オネガイ ヤメテ…とこっちが泣きそうになる。

お風呂も入って、一息ついたとは言え流石に今決める事柄ではないし、2人にも冷静になって考える時間が必要だ。


 私としては、何処か仕事を見つけてあげられなかと思っている。

とは言っても、伝がそんなに無いんだよね…。

神様なのに儘ならないにも程がある。

職業斡旋すらできない神ってどうなのよ?


「兎に角、今日はおなかいっぱい食べて、ゆっくり休んで下さい。

そうだ!たまには甘い物でも食べましょう!

ちょっと、下に行って貰ってきますね」


「タキナ様は座っていてください。

リリーが行きます。」


冷ややかな目でグレンを見ていたリリーちゃんが、すかさず席を立とうとするのを手で制す。


「大丈夫ですよ、リリーちゃんはここで待っていてください。

すぐ戻ってきますから「ですが…」」


言い淀むリリーちゃんに「コレくらい大丈夫ですよー」と席を立って部屋を出る。


 私の付き人をしてくれているのは有難いが、子供に持って来させるのはやはり私的にはハードルが高い事柄である。

私もいずれはこう言うことに慣れて行って、子供でもアゴで使う様な者になって行ってしまうのだろうか…そんな大人にはなりたく無い…。

実るほど頭を垂れる稲穂かな、という人間でありたい。

そう思いながらフードを被り直し1階へと降りた。




「「「……………。」」」


1人食事を続けるグレンを横目に、3人になんとも言えぬ居心地の悪い沈黙が訪れる。


ルカとルナが目配せをして、互いに何か話題をフレと目で訴える。

その様子を見ていたリリーが口を開く


「先ほどのタキナ様に仕えたいと言う話ですが、お前達には無理です。

1人で魔物を倒せるくらいの実力、若しくはタキナ様に利のある有益な何かを提供できる。その何方も無いなら、ただの足手纏いのお荷物です。」


そう冷たく言い放つと、ルナが俯き「それは…確かに何も無いですけど…」と、小さく呟く


「確かに何も無いけど、俺達は死んだも同然なんだ。さっきも言った通りタキナ様に命じられるなら、死ぬかもしれない事でも何でもやってやる」


覚悟を滲ませるような低い声に、グレンがようやく顔をあげる。


「確かにタキナ様は凄い方だけど、なんでさっき会ったばかりのタキナ様に命賭けるとか、そんな事言えるんだ?

何か、タキナ様に付いて行きたい理由でもあるのか?」


グレンの言葉にリリーの瞳からスっと色が消え、獣のような瞳孔に変わる。

そして、双子を見るその顔は感情というものが抜け落ちていた。


「確かに…。

お前達はイレギュラー…タキナ様に仇なすのが目的なら…殺す。」


 幼い女児から発せられたとは思えぬ程、鳥肌の立つ様な声で思わず双子が息を飲み、「ヒッ…」と、小さく怯えた声を出したルナが縋るようにルカの腕に手を回し震えている。

ルカも、その殺気に息をすることも忘れて身動き一つとれず、冷や汗だけが吹き出していた。


「おいチビ!殺気を出すな!

タキナ様が気づく」


グレンの言葉を聞いた瞬間、氷水の中にでも放り込まれたかのように冷たかった空気が嘘の様に消える。


「おっ、俺達はただ…タキナ様が、奴隷落ちした俺達を人として扱ってくれた唯一の方だから…救ってくださった恩もあるし…。」


「ご恩ですか…なるほど、この世界の人間らしい言葉ですね。

タキナ様の優しさにつけ込み、面倒を見て貰おうと言う事ですね。」


「それはっ…だから、」


言い淀むルカを睨みつければ、ビクリと肩を揺らして視線が泳ぐ


「だから何です?

タキナ様はお優しい方です。

お前達が使い捨てにしてくれて構わないと言っても決してそんな事はしない。

だからこそ、お前達はタキナ様の足手纏いとなる。

言っている意味がわかりますか?」


冷たく言い放てば、返す言葉も出てこないのか黙こくり俯く双子、18歳と言えば人間では大人に近い年齢、生きてきた環境のせいなのか、頭の足らない…いや、卑しい考えの双子に苛立ちが隠せない。

タキナ様を利用しようとするその魂胆も、タキナ様の足手纏いを増やす事にも…。


「あんまり虐めるなよ、この人間はまだ18歳なんだぞ、そんな難しい事わかるわけないだろ」


「人間の18歳は大人の様なものですよクソトカゲ、飯でも食って黙ってろ」


「あ〝ぁぁ?

お前…あの騎士と会った後辺りから不機嫌だよな?

八つ当たりか?」


 グレンの言葉に、思わずピクリと眉が跳ねる。

このクソトカゲ、他人の機微には妙に勘が良い…何も知ら無いくせに…。

舌打ちをしてクソトカゲを睨みつければ、スプーンを片手に向こうも睨みつけてくる。

ガキがっ…イライラが募り双方が殺気立っていると、ダダダダダダッと凄勢いで階段を登ってくる音に、グレン共々一瞬で殺気を消すが、程なくしてバンッ!!と言う音を立てて部屋の扉が開く


「こらぁーー!!!

リリーちゃんとグレンですね!!

殺気立ってるのが下に居てもビリビリ伝わってきてましたからね!!

双子の前で喧嘩は禁止ですよ!」


「ですが!このクソトカゲが!」

「でも!このクソチビがっ!!」


「「あ〝ぁ?」」


「お黙り最強キッズ!」


「「………。」」


 大皿の上に乗った、パンケーキを揺らしながらタキナ様がため息をつきつつ部屋に入ってくる。

そのタキナの姿を見ながら、ザワザワとざわめき立つ様な言いしれぬ焦りを感じる。

今までもイレギュラーはあった。

しかし、今回はあまりに違いすぎる…この双子も…それにあの騎士は…。


天之御中主神が現れて世界に何かズレが生じたのだろうか、それとも私自身の行動が誤差を大きくして行っているのか…別の誰かが介入を?


例えどんな邪魔が入ろうと、どんなイレギュラーが起きようと、今度こそ本当の意味で終わらせる。





もう2度と奪わせはしない。









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