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第28話 己の信念、新たな不和

イザベラ・クレア


MBTI:ENFJ


愛らしい桃色の髪が特徴的な、糸のような細目の僧侶。

性格は清廉な見た目に違わず、温厚で真面目。

おっとりした口調だが、ふとした瞬間に攻撃的な一面が垣間見え、冒険者らから恐れられる。

信心深くヴォートゥミラ三神のイミタ、シグニフィカ、メタモルフォシスに祈るのが習慣。

たとえ魔物を前にしても。

ひとたび鉄球のついた武器フレイルを振り回せば、王国の魔物を軽く倒せる程度には、冒険者としても優秀。

冒険者一同は細長い木々が立ち並ぶ森へと、足を踏み入れた。

その光景はファンタジーの世界観で幾度も目にした、オークの木に酷似していた。

小説執筆の調べもので知ったが、森に木の実の落ちる季節にはイノブタ、現代の猪に近い生物の飼育に利用していたという。

めいっぱい息を吸い込むと、心の臓にまで清涼とした空気が染み渡り、生まれ変わった気分だ。


「カアーッ、カアーッ!」


侵入するとカラスが泣き喚き、森がざわめいた。

僕ら冒険者を歓迎しているのか。

或いは排除しようと、躍起に騒いでいるのか。

死の臭いを嗅ぎつけたのか。

どちらにせよ人間は、ただやりたいようにやるだけ。 

探索から数十分が経過した後、当然存在するはずもない卵について、不満の声が続々と漏れ始めた。


「It's inefficient to search the area with a bunch of people(大勢で捜索するのは非効率だ)」


ないものを探そうとしても、見つからないのは当たり前。

ただこうなるのは、あらかじめ予想済みだ。


「これからいう僕の言葉を翻訳してくれる?」

「ええ、わかったわ」

「これから幾つかのグループで捜索します。ですが夜間の森での探索は迷う危険がある。なので夕刻には合流し、夜間は共に過ごしましょう」


本当ならば少人数の行動も、避けたくはあった。

常に帯同し、危険を未然に防ぎたい。

悪魔も大勢の冒険者に、執念深く狙われるのは避けたいだろう。

だが策は幾つか用意してある。

悪魔を相手にするには、あまりに細く心許ない命綱だが。


「転移の羽根、これを使って集合してください」


一見ただの白い羽根なのだが、衣服に触れさせると、目的地にひとっ飛びの便利な魔法品。

森にはフィリウス・ディネ王国の管理区域があり、羽根を用い、そこにいくことが可能とのこと。

僕自身の冒険歴は浅いので伝聞だが、冒険者たちからの証言なので、間違いはないだろう。

納得した彼らは青年を案を受け入れると


「I don't want to work with him(アイツとは一緒に仕事したくねぇな)」


イーサンを一瞥した冒険者が吐き捨てた。

計8人づつ四手に別れたが、イーサン、ソフィと同行しようとする人々は現れず


「I knew the rumors were correct(やはり噂は正しかったな)」

「The murderer!(殺人鬼が!)」


憎々しげに声を荒げる冒険者の言葉を訳してもらうと、聞くに堪えない悪罵あくばが彼を襲った。

イーサンとソフィは魔毒竜の退治で、二人だけ生き残った。

そのせいで、ある噂が立っているのだ。

―――彼が名声を独り占めする為に、他の冒険者を殺害したと。

けれど、果たしてそれが真実なのか。

謂われなき中傷まで受け入れる必要などない。


「魔毒竜ではなく、この人が冒険者らを殺した……その発言は訂正してくれませんか? 皆さん」


不当な攻撃は見ていて気分のいいものではなく、青年はイーサンを庇う。


「Hey, are you defending this guy?(おい、コイツを擁護するのか?)」


冒険者らがユウを詰め寄る中


「Will you stop, it's disgraceful! All we have to do is destroy the eggs. No time to argue(やめないか、みっともない! 我々がやるべきは卵の破壊。言い争う暇はない)」

 

金属で全身を覆う騎士の姿の男性が一喝した。

彼は実力者で、それなりに発言力があるのだろう。

罵詈雑言を浴びせた冒険者たちは、散り散りになっていく。


「どういうつもりだ。貴様。何故庇った、点数稼ぎのつもりか?」


イーサンは燃え立つような赤髪を揺らし、青年に問い詰める。


「イーサン、そんな言い方は……」

「僕は辛辣な態度を取る貴方が嫌いだ。けれど根拠のない言いがかりを看過できるほど大人でもない。誰が中傷されても助けますし、貴方を認めたと勘違いしないでもらいたい」


彼のため、というよりは自らの正義感がそうさせた。

偏見という色眼鏡を通しては、真実は見通せない。

だからこそ信念に従ったまで。

感謝されたいという下心なく、ただエゴを通したのだ。


「……フン、いけすかない男め」

「彼は素直でないから、私から礼をいう。ありがとう、ユウ」

「いいんですよ、では」


ソフィに感謝され、気恥ずかしい青年は仲間と共に歩み出す。


「ええと、はじめまして。お名前は?」

「はい〜、僧侶のイザベラ・クレアですの〜。皆さん、よろしくお願いしますわ〜。ヴォートゥミラ三神に代わって、魔毒竜の卵へ天誅! ですのよ〜」

「よ、よろしくお願いします」


桃色の頭髪の清廉な雰囲気のシスターが、僕へはにかむ。

出る所は出て引っ込む所は引っ込むスタイルが、ぴったりくっつく修道服で露わになり、視線のやり場に困った。

肉感溢れる体と余裕に満ちた大人の女性の色香に、胸の高鳴りが止まらない。

それよりも修道女に魂を見透かされたが、糸を思わせる目には、僕の魂はどう見えるのか。

……普通の人間と同じように映ると信じたいが。


「フハハハ、俺のアスカロンが必ずや悪を討つ!」

「皆様にヴォートゥミラ三神の加護あれ〜」


片や剣を天に掲げて、片や髪と鉄球を振り回し、並々ならぬ意欲を見せる。

戦いを避けたがるのも問題だが、ここまで好戦的なのも考えものだろう。

避けられる戦闘で深手を負い、悪魔に狙われでもしたら。

先が思いやられる。


「な、なかなか愉快な人たちだよな、ユウ」

「騒がしい人たちだね」

「おもしれー女……」


横並びの小中大の男たちは僧侶のイザベラに、素直な感想を述べていく。


「ま、足を引っ張らないのであれば、誰でも構わないけど」


直美はそう吐き捨て、森を注視した。

彼女は実利さえ得られればよいようだ。

成果さえあげれば誰でも受け入れるのは、ある意味懐が広いと言い換えもできよう。


「嬢ちゃんの言う通りだな。雑魚はいらねェ。オレらは馴れ合う間柄じゃねェからな」


悪魔の言い方はともかく、内容は一理ある。

それから同行したヒンメル、イザベラを含めた8人で、木々の合間を縫うように進むと、風を切るような音を耳にした。

―――次の瞬間!


「あ、痛っ! え、石ころ?」


何かが頭に当たり地面に視線を落とすと、そこにはピンポン玉サイズの石が。

続けざまに音がしたが、直美には通用しない。

咄嗟に刀を抜き、真っ二つにする。


「誰、姿を見せなさい!」


不意打ちを完全に対処した刹那、葉擦れの音が一段と大きくなった。

何かはわからないが、確実にこちらに敵意を向けたものが潜んでいる!


「魔物だッ! 気をつけろよ、テメーら!」


ハリーが声を張り上げると同時に、腰に蓑を巻いた緑肌の悪鬼、俗にいうゴブリンが姿を現し、一行を隙間なく取り囲む。

どうやら待ち伏せしていたようだ。

亜人だけあって狡賢く、悪知恵が働く。

ショートソード、バックラー、パチンコ。

手に持った武器や防具は様々だが、損傷が激しく劣化していた。

おそらくは冒険者から強奪したか、死体漁りで手に入れたのだろう。

枝から降りた悪鬼は、くの字に折り曲げた脚をバネに一斉に飛びかかった。


「ゴブリンめ、許すまじ! インセクトゥミレス!」


ヒンメルが声高に叫ぶと、背から堕天使の黒翼の如き四枚羽が生え、空高く飛翔する。


「な、何よ、その力は!」

「君もその力を?」

「話は後だ。樹上の魔物は俺が始末する! ミッシャは地上を任せたぞ」

「あ、ああ。ありがとう」


確かに彼の言う通りだ。

僕は背中の王笏を両手に握り締め、臨戦態勢に入る。


「おお、偉大なるヴォートゥミラ三神よ。何故私に地を削る腕を、空飛ぶ翼を、海を渡るえらを与えてくださらないのでしょうか。けれど私たちに授け給うた多くを決して忘れてはなりません」

「敬愛するイミタ、シグニフィカ、メタモルフォシスの御名の元に、私の隣人を救うと誓いましょう」


状況を理解しているのだろうか。

イザベラは呑気に神々へと祈る。

それを見た一行が、さっさと戦闘に移るよう囃し立てると


「すいません〜。メタモルフォシス神の破壊と混沌の力を借り、迅速に排除いたしますわ〜。オラァ、死に晒せ!」


間延びした口調とは想像つかない、殺意を剥き出しにした台詞に、青年は肝を冷やした。

鉄球が地面を掠めると、土が天から降り注ぐ。

抉れた場所には、クレーターを彷彿とさせる巨大な穴ができあがっていた。

実力といい、先ほどの僧侶らしからぬ発言といい、怒らせたら駄目な女性だ。


「一網打尽にするわ! 水の精霊ウンディーネ。大いなる御力によって、我にニンフの加護を施したまえ―――ヌプタ!」 


魔法を唱え刀で空を切ると、円のゴブリンをたちまち凍てつかせる。

相も変わらず神速の一太刀は、どんな技なのかすら、まともに視認できない。

しかし一瞬ではあるが、彼女の体の隅々を水のベールが覆ったように見えたのは、僕の気のせいだろうか。

地上の悪鬼は全滅させたが


「まだまだいるぞ! 気を抜くな!」


ヒンメルの叫びと共に、ゴブリンが次々落下してきた。

少年の強襲に受け身も取れなかったのか、仰向けの悪鬼は体を頻りに揺らし、脚をバタバタさせた。

隙だらけの今なら、御しやすい。


「ハハ、小細工をしようが無駄だァ!」


寝転ぶゴブリンへ、ハリーが斧を振り下ろす。

すかさず盾をかざすが、巨大な鉄塊はそれを物ともせず、悪鬼の細腕をあらぬ方向へ、ひしゃげさせた。

肉を切らせて骨を断つという諺があるが、破壊者の名を冠した斧は―――肉も骨も断つが相応しい。


「知ってるか。猫脚族フェレペスは―――音をも殺すんだ」


アシェルは指の間にナイフを挟むや否や、毛むくじゃらの足裏で音も立てず、ゴブリンを引き裂く。

猫に引っ掻かれたような、三本線の傷痕が痛々しい。

息も絶え絶えにした悪鬼には、もう抵抗する気力も残されていない。

彼もそれ以上、追い打ちをしなかった。


「ケキャキャ!」


眼前のゴブリンは背丈に見合わない、人間用のショートソードを、嬉々として振り回す。

それは技というよりも、ただただ子供が玩具の玩具で、遊ぶかのように映る。

仮にも人型の魔物。

背丈を考えれば、子供に対して暴力を振るうようなものだ。

それを容赦なく殺すのが、普通の冒険者だというなら―――僕は生涯普通にはなれないだろう。

王笏の柄で手を強打し、ゴブリンが握った剣を落とすと、すぐさま放り投げた。


「ギャハ、ギャハハ!」


やはり数が多い分、気が抜けない。

錆びついたトンカチを手にした悪鬼は、同じ身長のアシェルへ忍び寄る。

弱さを自覚しているが故に、確実に致命傷を与える部位ばかり狙うのが嫌らしい。

生かしておけば仲間が傷つく。

けれど魔物を痛めつけるのは、許されるのか?

暴力と理性がせめぎあった。


「や、やめろ! アシェルくん、後ろだ!」


青年が注意し、アシェルは振り向きざまに裏拳を喰らわせる。

倒れたゴブリンは、陸に打ち上げられた魚が如く跳ねていた。

悪魔は伸びた悪鬼の首根っこを掴むと、木へ投げ飛ばし


「お前にゃ魔物殺しは無理だろう。後はオレサマがやる」

「もういいだろう。実力差は見せつけた。襲う気もないだろうから」

「ったく、甘ちゃんのせいでオレサマまで殺意が失せてくらぁ」

「ギャ、ギャギャ……」


まだ残党がいたのか。

そう思い声の方へと目を凝らすと、悪鬼はどこからともなく出現させた中型犬大の宝箱を置き、一目散に逃走した。

木製で壊せば、中の物は容易に手に入りそうだ。

悪魔が欲望を隠そうともせず近寄ると


「待て、罠があれば解錠の前に外す必要がある。だったよね、アシェルくん」

「よ〜し、俺の出番だな。腕前、見せてやるよ。さっさと中の物をふんだくるぜ」


そういって宝箱を揺らし、耳をくっつけた。

中身を音で確かめ、罠の目星をつける作業中、お調子者の彼は鳴りをひそめ、経験豊富な冒険者の顔つきに変貌した。


「この地域でメデューサの魔眼はないし、この罠はあれで確定かな」


アシェルはカバンから無色透明の液体が入った瓶を取り出すと、寝かせた宝箱の鍵穴に流し込む。

いったい、この液体は。

好奇心が抑えきれず、青年は訊ねた。


「アシェルくん。それは何?」

「ああ、宝箱の罠に施された毒を中和するための液体だ。確かトリカブトの根を水に浸したもの、だったか」


毒で毒を中和する。

この解決は魔術的でもあり、科学的でもある。

現代では錬金術は今日の科学の礎になったのは、周知の事実。

僕はちょうど魔術と科学の変換期を、観測しているのやもしれない。


「これで大丈夫だ。安全の為に数刻の間、待ってくれ」

「ほぅ、案外やるじゃねェか。チビガキ」


身長に触れると激昂する、癖のある人物だが、盗賊としての技量は確かだ。

同行してもらい正解だった。

一行が束の間の安息に酔いしれる中


「オレらが闘ってる間に呑気に傍観者を気取りやがって。いい気なもんだな、妖精さんよォ」

「うぐっ。し、しょうがないじゃん! 私は武器も持てないし、魔法だって使うとヘロヘロになっちゃうし!」

 

ウィッカが何もせずにいたのを、ハリーの気に障ったようだ。

確かに戦闘要員としては計算できず、意見自体はごく自然なものだろう。

悪魔の文句を皮切りに、仲間たちは不満をこぼしだした。


「少数とはいえ組織として行動する以上、何らかの形で役に立ってもらわないと困るわ。周囲に負担がかかるもの」


最も彼女に突き刺さったのは、合理性と組織を重んじた直美の一言であろう。

ハリーのような感情論ではなく、淡々と事実を告げる。

―――それはウィッカ自身が、嫌というほど感じていることだ。


「ちょっと冷静になって。ウィッカちゃんだって、好きで闘えないわけじゃないよ。それに僕だって、あんまり役には……」

「さっきからゴタゴタうるせぇ! 役に立たないのが事実だからなんだ。俺にはウィッカが必要なんだよ。これ以上俺の友達を愚弄すんなら、俺はお前らとは一緒に冒険なんかしねぇ!」


小人はわなわなと体を震わせ、歯と歯の隙間から荒い息を漏らす。

親友を思い遣る台詞に、妖精は顔を掌で覆い隠すのだった。

石動祐のクリーチャー大全 「ゴブリン」


種族·妖精

アライメント 中立·中庸


全身が緑肌でぎょろぎょろとした大きな眼の、子供のような背丈の悪鬼。

大陸全土に生息するほど順応性が高く、土地ごとに様々な文化や文明を築く。

とはいえ大半のゴブリンは人から奪ったり、拾った武器や防具を用い、群れで冒険者を襲い、あっけなく返り討ちにあうようだ。

どちらかといえば、洒落にならない悪戯に注意を払う方が無難だろう。

魔物として広く名が知られるが、特別凶暴というわけでもない。

人と距離感を保てば、争いにもならず、生活できるはずだ。


「どこにでもいる魔物だけど、油断ならないよ」

「ゴブリンが多い土地ほど、魔物は巨大化する傾向にあるらしいわ」

「彼らが海洋の生態系における、プランクトンの役割を果たしているのかもしれないね」

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