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異世界のジョン・ドウ ~オールド・ハリー卿にかけて~  作者: ?がらくた
霊拝の地モルマスでの邂逅、SG8の刺客との激闘
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第17話 偽りの英雄、直美の呪い

登場キャラのアライメント一覧と、彼らの言いそうな一言セリフ




【主人公勢】


石動祐 混沌·善 

「僕は助けたい人を助ける。助けるに値しない人間はどうだっていい。それだけだよ」


向川直美 秩序·悪

「この世界から脱出するためなら、何だってしてやるわ。もちろん法は守るけど」


七種英子 秩序·中庸

「私、独りで生きられるほど強くありません。だから本当は嫌だけど、組織の中で生きます」


オールド·ハリー 混沌·悪 

「秩序、法、常識。そんなもん守ってる悪魔なんざいねェだろ? オレサマの好きにさせてもらうぜ」




【サブキャラクター】


アシェル·F·フェアチャイルド 中立·善

「俺には小難しいことはわからねぇけど、人間が築いた法や秩序を軽んじるのは違うと思う。でも苦しむ人間がいるのも事実だ」


ウィッカ·ヴィッカーズ 中立·中庸

「私は善でも悪でもない、どっちつかずな妖精かも。ま、辛い場所からは逃げちゃえばいいしね~。そう思わない?」


ジュアン·オールディス 秩序·中庸

「秩序の中で生きるのが人の性。だが社会から爪弾きになったのなら、儂のもとに来なさい。弟子として歓迎しよう」




【地獄の三支配者と邪霊六座の悪魔、そしてアモン】


ルシファー 混沌·善

「俺は俺の正義を貫くからさ。嫌なら勝手に抵抗しなよ」


ベルゼブブ 秩序·悪

「我が野望のために、悪魔の軍勢を支配下に置き、厳密に管理する」


アスタロト 混沌·中庸

「秩序の維持にも、善悪にも興味はない。私が利用できるものを利用するだけ」


ルキフグス 中立·中庸

「小生はルシファーの意志そのもの。なればこそ、人と悪魔の新たな社会が必要だと万人に説く。賛同する者は歓迎しよう」


サタナキア 秩序·善

「吾輩は邪霊六座という組織維持のため、身を粉にして尽力致しましょう。全てはサタン様の為に」


アガリアレプト 中立·善

「万人を救うのは不可能で、非情に徹するだけでも駄目。いや~、組織の運営というのは難しいですな」


フルーレティ 混沌·中庸

「法も秩序も組織も、俺にとって足枷に過ぎないのなら、居場所はここでなくていい」


サルガタナス 秩序·中庸

「フルーレティの奴は不要だ! しかし他の悪魔たちの賛同が得られぬなら仕方ないか……」


ネビロス 中立·悪

「現状のシステムに問題がないとはいえない。徹底的に無駄は省きたいが、それは私が地位を確立してから考えても遅くないだろう」


アモン 混沌·善

「迷える衆生を救えるのなら、俺は悪でも構わない……!」




【フィリウス·ディネ王国の人々】


エイプリル 秩序·悪

「いや~、いろんな冒険者さんが来ますね~。毎日面白くて知的好奇心が満たされますよ~」


メラニー 中立·善

「冒険者の人の気持ちはわからないけど、思い詰める前にウチにご飯でも食べにきてよ!」

焼け野原と化し、剥き出しになった大地には、横たわった遺体だけが残されていた。

ヴォートゥミラ大陸は魔法のある世界。

まだ助かる見込みはある。

それに戦って散った高潔な魂を、野ざらしにするわけにはいかない。

青年は冷たい体を背負い、教会へと運んでいく。

運よく蘇生に成功した者。

魔法の失敗で灰になり、帰らぬ人間になった者。

それぞれに生と死の運命が下った。

戦いを終え、戦死した冒険者らに祈りを捧げていると、あっという間にモルマスに夜の帳が降りる。

英子は傷ついた人々の治療に当たり、直美は言語が通じない彼女の代わりに通訳を行っているようだ。

近くの宿で休息を取ろうと辺りを探していると、モルマスの冒険者らは、酒場でグラスを片手にどんちゃん騒ぎ。

共に戦った彼らは、ユウを頻りに誘った。


「Come here. Have a drink with me. (こっちへ来いよ。一緒に飲もうぜ)」

「Not without a monster-slaying hero.(化け物退治の英雄がいないとな)」


猿のように顔を真っ赤にしながら、ユウを手招きする。

酒飲みは嫌いだ。

無口になる分には無害だが多弁になるタイプだと、自分の吐いた暴言を覚えていないのが質が悪い。

なるべく相手をしないか、さっさと酔い潰れてもらうのが得策だ。

それに今は休ませてほしい。


「ハリー、なるべく角が立たないように断りを入れてくれないか?」

「The wound is not fully healed and requires rest. Another time. (傷が完治してねェから安静にしたいみてェだ。また今度な)」

「Hahaha, I got dumped. (ハハハ、フラレちまった)」


青年には意味はわからないが、肩を竦めておどけた冒険者を見て安堵する。

じゃれあう彼らを遠巻きから眺めつつ、青年は微笑んだ。

人間というのは群れると碌なことをやらないが、目的さえ同じなら大事を為せるのだ。


「If you need help, feel free to rely on me.」

「ハリー、なんと言ってるのかわかる?」

「困ったことがあれば気軽に頼れ、だとよ」


皆は自分を褒め称えてくれるが、それも協力あってこそ。

更には泥の悪魔の大半を始末したのは、悪魔アモンとジュアンと名乗る老人。

本来なら英雄と讃えられるべきは、あの2人だろう。


「ハリー、君はどうするんだ?」

「オレサマはここで楽しむぜ。辛気臭ェテメーの顔を見てると酒が不味くなる。邪魔だから、さっさと消えな」


ハリーが吐き捨てると、石動は溜息を吐いた。


(嫌味な奴。見直した僕がバカだったな)


結局、彼は酒の席から抜け出す。

好意的に迎えてくれるのは嬉しいが、どうしたって人混みは苦手だ。

それにあの悪魔と、一緒の空間にいたくない。

少しだけ夜風で涼んでから、どこかで仮眠を取るとしよう。


「ユウ、ここにいたんだ」


酒場を後にすると、祐は直美とばったり出くわす。


「あ、治療はようやく終わったんだね。お疲れ様」

「お疲れ様。それよりすごいわね、ずいぶん人気者じゃない。あなたが昆虫の怪物を退けたんだって?」

「からかわないでよ。こっちに化け物が向かっていたけど、泥の昆虫に襲われなかった? 怪我はない?」


青年は何の気なしに彼女の顔を覗き込む。

すると直美はそっぽを向いた。


(せめて返事くらいしてくれればいいのに。感じ悪いなぁ)


「ええ。私の事より、傷だらけで帰ってきた貴方こそ大丈夫なの?」

「まともに戦ったのは初めてだけど、なんとかなるもんだね。迷い人の力のお陰かな」


何とか生き延びたが、目の前で死を見せつけられると、流石に堪えた。

僕がああならない保証はないのだ。

死を望んだはずなのに、間近に迫った時は惨めたらしく生きようとした。

彼女に心配をかけまいと、青年は努めて明るく振る舞うが、痩せ我慢を察してか


「英子ちゃんから言われた通り、安静にしてなさいよ。どこをほっつきあるくつもり?」


と、直美さんは僕に注意した。

口煩くも感じるが、彼女なりに心配してくれているのがわかって悪い気はしない。


「英子ちゃんは?」

「治療が終わったら、すぐ部屋で寝ちゃった。ゆっくり休ませてあげましょう。それより散歩に付き合ってもいい?」

「え、うん」 


こうして僕ら二人は、夜のモルマスへと繰り出した。

王国とは違って夜は人の姿はなく、冒険者の少ない時なら、ゆっくりとした時間を満喫できそうだ。

酒場から離れると、靴が石畳を踏み鳴らす音しか入らなくなり、不思議と気持ちが落ち着いた。

……カツカツカツ、カツカツカツ。

何を話すわけでもなく、無心で歩き続けていると


「え、あ、ど、どうしたの?」


突然に袖を掴まれて、祐は突拍子もない声を出す。


「ご、ごめんなさい。骸骨が怖くて、つい」


あちこちにあるランタンの灯りが、ぼんやりと彼女を照らす。

俯きがちに頬を緩め、照れと恥じらいの混じった彼女の顔には、少女らしからぬ色香が漂っていた。

胸の鼓動が早くなり、緊張した青年は普段以上に口数が減っていく。

話題に困って傷口を擦りながら直美を見遣ると、彼女は独り言のように小さく呟いた。


「私、陽を思い出して戦うどころじゃなかった。英子さんは必死に治療してたのに。何の役にも立てなかった」

「……」


ふと横顔を見ると口をぎゅっと閉じて、彼女は前を見据える。

直美の言葉に青年は黙って耳を傾けた。

相当参っている様子だが、他人の僕にやれることは限られている。

よく不幸は立て続けに起こると言われるが、それは不幸に見舞われた際、明るい気持ちになれないのも関係しているだろう。

難しいだろうが気さえ持ち直せれば、多少は気分が楽になる。


「普段から周りに言ってきた言葉に苦しめられるなんて、本当に滑稽よね」

「確かに直美さんからは、かなりキツイ台詞を言われた記憶があるね」

「そうね。周りから避けられるのも仕方ないわね」


正直な気持ちを吐露したつもりだが、それが刺さってしまったかもしれない。


「確かに直美さんを嫌う人は多いかもしれないけど。でも……でもさ」


僕は言葉に詰まった。


「でも何よ」

「でも僕はそれだけの理由で、直美さんと一緒にいるつもりはないよ。役に立つ立たないの二元論で人を語るほど、つまらないことはないし」


急かされた彼は頭の中で考えていたことを言い終えると、更に言葉を続ける。


「直美さんは自分に求める基準が高すぎるんじゃないの。それは苦しみしか産まないよ」 

「でも! あの娘の分まで私が頑張らないと!」


直美の叫びが静寂を破った。

老人ならいつ逝ってもおかしくはないが、同じ年齢の友達なら話は別。

彼女はどんな気持ちを抱えているのだろう。

とにかく迂闊に発言するのは悪手。

重苦しい雰囲気に気を紛らわせ、乗り切ることにした。


(彼女はマニーニ・ガメツイーナ。守銭奴の大学生。趣味は貯金とレアな硬貨を探すこと。あと水泳。あれ、水泳だけ普通じゃない?  水泳じゃなくて札束プールにしようかな? それっぽいし、ククッ……)


脳内で作り上げた自らの妄想に、思わず噴き出す。

次の瞬間、突き刺すような視線を感じて直美の方を確認すると、彼女は般若の如き形相をしていた。

本人にバレたらどうしよう。

どうやって誤魔化そうかと、頭を働かせていた矢先


「ちょっと、変なこと考えてたでしょ!」


激怒する直美に取り乱した石動は


「かかかかか、考えてないよ! マニー二・ガメツイーナさん! いや、直美さん!」


つい頭の中の妄想を言葉にしてしまう。

やばい!

どう取り繕うのが正解なんだろうか。


「誰よ、それ! 誰が金にがめついよ! あなたがだらしないから、私がお金を管理してるのよ!」

「許して! 珍しい硬貨、見つけたらあげるから!」

「そんなもの、いらな……プッ、アハハハ……ククッ……」


慌てた石動を見て、急に爆笑しだす。


「バカバカしくて怒る気もなくなっちゃった。マニー二・ガメツイーナって、好きなものが珍しい硬貨なの?」


先ほどの空気が、幾分か和やかになるのを感じた。

これなら普通に話しても大丈夫そうだ。


「直美さんの笑った顔、珍しいね。いつも険しい表情だから」

「自分では怒ってないつもりだけど、周りの人にはそう見えてたんだ。陽に恥じない人間になろうとしてたけれど、彼女の存在を呪いみたいに感じてたかも。本当にありがとう」

「現実ですれ違っても、僕らはお互い気にも止めなかったはずだ。けどヴォートゥミラで出逢って、こうして協力してるのは運命なんだと思うよ」

「随分ロマンチストね。他の娘にも言ってきたでしょ、その台詞」


確かに臭い台詞だったかもしれない。

口説いたつもりはないし、そもそも異性と付き合った経験すらないのだが。


(うわぁ、やっちゃったかな。変に受け取られたらどうしよう。彼女がいないと言葉がわからないし、警戒されて別々になったら困るなぁ)


「ちょっと楽になったかも。あなたに聞いてもらえてよかった」

「溜め込んで爆発しちゃうより、人に話した方がいいよ」

「脱出はいつになるかわからないしね。それまでは支え合いましょうね」


心にもない慰めに、彼女は無垢な幼女のようにはにかむ。

悩みを相談しない男が悩みを人に話せといっても、説得力などないのに。

この世界で英雄と慕われても、現実社会から存在を否定される人間である事実は変わりない。

向上心の塊のような彼女に本当の僕を知られたら、幻滅されてしまう。

青年は何気なく星々を見上げると、無数の天体が黒いラメみたいに光っていた。

人は亡くなったら星になると言われるが、僕が死んだら彼女は夜空のちっぽけな輝きに、僕を見出してくれるだろうか。

泣いてくれるだろうか。

もし僕に思いを馳せてくれるならば、彼女の為に死ぬのも悪くない。

微笑む彼女とは対照的に、心に暗い影を落とす男は口角を吊り上げて、真っ当な人間を演じてみせた。

石動祐のクリーチャー大全 「マニー二·ガメツイーナ」


アライメント 秩序·悪


迷い人で高い身体能力を有する、般若の面を被った怪物。

知能も非常に高く、日本語と英語の2ヶ国語を話すことが可能。

同行する冒険者らに借金をさせるなどして、冒険者を苦しませる。

一説では強欲な悪魔マモンの生まれ変わりではないかと囁かれている。

趣味は貯金、珍しい硬貨集め、札のプールで泳ぐこと。

最近では積み上げた札束を崩す、○撃の巨人の巨人ごっこを楽しむ生態が確認されている。

こんな文章を書いているのが、直美さんにバレないようにしないと……。


「ねぇ、また変なこと考えてたでしょ!」

「ち、ちちち違うよ、お札プールで水泳が趣味のガメツイーナさん!」

「こらぁ、この馬鹿男! 人を勝手にクリーチャーにするな!」

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