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異世界のジョン・ドウ ~オールド・ハリー卿にかけて~  作者: ?がらくた
霊拝の地モルマスでの邂逅、SG8の刺客との激闘
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第15話 巡り合う強者たち、災い呼ぶ迷い人

万魔殿の恐るべき悪魔たち




ルシファー


MBTI:ENFP 


七つの大罪の傲慢を司る、地獄の三大悪魔の一角。

気さくで飄々としており、一見友好的な存在に思えるが、人間とは決して相容れない価値観の持ち主。

ベルゼブブとは神に反逆して堕天させられた頃からの親友で、彼に対しては裏表も損得もない友情を示す、仲間思いな一面も。




ベルゼブブ


MBTI:ISTJ


四枚の翅と髑髏が特徴的な、巨大な蠅の王。

暴食の大罪にして地獄の三大悪魔の一人、更には魔界の君主も兼任する超大物悪魔。

昔の名前に執着しており、自ら名乗る際は


「儂はバアル・ゼブル(高き館の主)」


と口上する。

ルシファーの気まぐれに振り回されつつも、それを楽しむ節が見受けられる。




アスタロト


MBTI:INTP


竜にまたがった天使のような姿で石動たちに接する、地獄の三大悪魔の一柱。

ものぐさな悪魔で、人間にも怠惰であるように勧めてくる。

あらゆる過去と未来に精通しており、召喚した者にはそれらの知識を授けるという。

毒の息を吐いてくるため、迂闊に近づけない。

価値観や思想の異なる配下のサルガタナス、ネビロスの考えを受け入れる度量の深い面を併せ持つ。

儂はヴォートゥミラ大陸の荒くれ者共を置き去りにして、一足先に最前線へと向かう。

まだまだ若い者たちには負けられぬ。

それに天涯孤独の儂よりも、未来ある若人が生き残るべきだろう。

老いぼれの意地が、儂を戦地に駆り立てた。


「ん、こんな場所に……人……ではないな」


老爺の視線の先に人影が見えた。

草原に佇む白髪の修道女は、いずれ溶けて消える雪の如き儚さすら感じる清楚で可憐な見た目とは裏腹に、おぞましいほどの実力を隠していた。

―――悪魔だ。

それもサタンに次ぐ魔界のNo2との呼び声高い、ルシファーに近しい力を持つ精鋭。

憎悪や妬みといった負の感情を隠し、気配を消し、溶け込むのが抜群に上手い。

目にも止まらぬ身のこなし。

吐き出した火炎の、肌を焼くような熱気。

泥の悪魔共の肉体をまとめて貫く、強靭な拳。

どれをとっても一級品だ。

フィリウス·ディネ王国の一個師団が束になっても、勝てるかどうかわからない。


(何故これほどの悪魔がモルマスに?)


老爺は頭を働かせた。

しかし考えても答えはでてこない。

ジュアンは眉間に皺を深く刻み、警戒しつつ近寄っていく。


「驚いた。悪魔が人を守る為に戦うとは。何が目的なのだ」


悪魔に訊ねると


「俺はアモン。訳あって今は修道女をやらせてもらってるよ」

「先に名乗られてしまったか。悪魔相手といえど礼節を重んじるのが儂の流儀。儂の名は……」

「言わなくてもわかるよ。どうせだから言い当ててやる。アンタはジュアン神父だろう。またの名を―――悪魔狩りの悪魔」


何らかの能力を用いたのか、悪魔はニヤリと笑い、名をピタリと言い当てる。

噓をついても見抜かれてしまう、この悪魔には―――老爺は戦慄した。

しかし動揺していては、悪魔の思う壺。

幸いなことにアモンは、泥の怪物に手一杯の様子だ。

老爺は深呼吸して、静かに精神を統一させた。


「数多の同胞を殺され、恨んでおるのか。それも当然」

「……どうだろうな。ここに来たのは有り難いお説教をするためじゃないだろう。手を貸しな」

「いいだろう」


人手が多いに越したことはない。

マントを脱ぐと握り拳を作り、腰を落として右手を突き出して構える。

ジュアンが泥の虫をジッと見据えていると命亡き器に囚われた、無数の昆虫たちの魂の悲鳴なき叫びに、心を痛めた。

どうやら何者かに操られているらしい。

死の安寧を妨げられ、意思なく暴れるよう指示された、心なき怪物。

魂を弄ばれた彼らをここで殺してやるのが、せめてもの慈悲。

瞼を数刻閉じた後ゆっくり息を吐き出すと、老爺の体から白い光の球が、沸騰した水の泡のよう無数に放出される。

聖なる光に纏われたジュアンはアモンを睨み、彼に返事した。


「モルマス、ひいてはヴォートゥミラの平和のため、貴殿に協力はする。しかし返答如何で容赦はできぬ。肝に命じておけ」

「ま、戦ってくれるなら何でもいいや。俺の邪魔をするなら亡骸が1つ増える。それだけの話さ」

「随分血の気が多い小童だのう。もう儂はみだりに戦うほど、若くはないというのに」

「アンタより遥かに長生きしてる俺をガキ扱いとはねぇ。本当に今日はおかしな奴ばかりと会うな」


アモンは苦々しく微笑み、余裕綽々の態度を崩さない。

やはり魔界でも上位に君臨する悪魔は、凡百の悪魔とは一味違う。


「貴殿といい、悪魔の魂を持つ青年といい、立て続けに悪魔に会うとは。不幸の予兆なのかもしれん」

「ユウと巡り合ったらしいな。あいつの頼みで、俺はここにいる」

「随分あの青年に従順なようだな。単純な好意か。それとも何かの企みに彼を利用しようというのか?」


悪魔をねめつけて、一挙手一投足から不審な動きを探ろうと、老爺は目を細める。

だが悪魔の眉はピクリとも動かない。


(この程度の脅しに屈するほど弱くはない、か……)


「ご想像にお任せするよ。仮に神父様の考えが正しく、世界にとって最善の未来を選ぼうとも、俺の求める結果は変わらないからな」

「―――未来視の能力。どこまで予測できるというのだ」

「ゆりかごから棺に収まるまでの過去と未来さ。ちなみに、ここでアンタは死ぬよ」

「だとしても、儂のやることは変わらん。為すべき使命を果たせば本望。死は新たな始まり、未練はあるが寂しくはない」


老い先短い命だ。

せめて後進の捨て石となれれば。

とうの昔に覚悟を決めていた老爺は、悪魔に吐き捨てると、アモンは腹を抱えて笑う。


(……儂に敵意がないのをいいことに舐め腐りおって)


嘲笑する悪魔に不快感を覚えながらも唇を噛み締めて、怒りを抑え込む。

昔なら即座に手が出て、一瞬でアモンに焼かれていたかもしれない。

そうせずに済んだのは年の功。


「動じないか、流石にこの程度の揺さぶりでは。歴戦の悪魔狩りというだけのことはある。人間相手とはいえ、猛者には素直を敬意を払うよ」

「儂はもう悪魔狩りでも神父でもない。流浪の旅芸人。それ以上でもそれ以下でもない」

「ほぅ、アンタも迷い人とは。奴と会ったのにも合点がいった」

「……なるほど」


迷い人という台詞を耳にして、老爺は確信する。


「異世界より招かれし者。悪魔を引き連れ、大陸を混沌と破壊をもたらすであろう」


ある占い師が儂にそう言った。

当初は異世界というのは、渡来してきた常世人を指す言葉だと老爺は考えていた。

しかし各地を放浪する中で、ジュアンはまったく時代も文明も異なる人間が、意図せずヴォートゥミラに訪れる事例が報告されていると耳にする。

にわかに信じ難いが、実際に迷い人らと会って話を聞いてみると、噓をついているようには見えない。

異世界からの来訪者に、ヴォートゥミラが滅ぼされる。


(あの予言が本当ならば、儂はあの男を倒さねばならん。しかし自分より他人を案ずる青年が、それほど危険だとは思えん―――見定めねば、彼の魂が本当に悪に染まっているのかを)


「チィ! 鬱陶しい!」


思案していると機織虫が飛びかかってきて、彼は咄嗟に拳で反撃する。

未来の事は未来に考えればいい。

でなければ拳に迷いが生じてしまう。


「爺さん、耄碌もうろくしてるのか?」

「減らず口の悪魔が」


アモンに言い返すと、ジュアンは自分を取り戻す。

目の前の相手を倒すのみ。


「小賢しい虫けら共が鬱陶しいな。鏖殺おうさつするとしようか」

「右に同じく」


黒の修道服の背中の辺りから出た炎が、狼煙の如く天高く舞い上がる。

それと同時に青々としていた空は、夕闇を彷彿とする赤と黒に塗り潰されていく。

細長い炎はやがて蛇のような形へと変貌し、次々に空と陸でのさばる泥の虫けらを喰い殺していった。

空中から落下する溶岩の如き物体が、全て死骸とは。


「俺の炎は太陽の温度に等しい。まともに喰らえば―――塵も残らない」


宣言通り大量に化け物を殺す悪魔の御業に、老爺は苦虫を嚙み潰したように顔を歪める。


(おっかねぇ悪魔だな。敵に回したら人間如きじゃどうしようもねぇ)


「視力も衰え、一匹づつ始末するのは面倒になってきた所だ。儂も力を解放させてもらうとしよう!」


悪魔に負けじと叫ぶと彼の足元から、光の柱のようなものが顕現する。

ヴォートゥミラも近年は近代化が著しく、神を信じる行為そのものに疑問を持つ者も少なくない。

しかしヴォートゥミラ三神は、必ずや信徒の願いに応えてくれる。

彼自身が信仰の生き証人そのものであった。

悪魔と元神父の老爺が文字通り化け物を一掃するが、生き残った数匹の飛蝗が、モルマスへと飛んでいく。

まるで大いなる意思に導かれるように。


「打ち漏らした敵はユウたちに任せよう。あいつらにも強くなってもらわないと困るからな。俺は一足先にモルマスへと帰らせてもらうよ」

「技の連発は老体に堪える。あとは若いもん次第だ」


静かに息を吐き、老爺は瞳を閉じる。

かつて神父だった職業病で、悪魔には市井の人間より慣れているつもりだった。

だが今までの悪魔とは、あまりに力の差がありすぎる。

この場に留まり彼と同行するだけでも、肌がヒリヒリと痺れ、脳が悪事を働くことに侵食されていく。


「おっと、その前にやることがあったな」


アモンは振り返ると燃えたぎる泥の亡骸に、手を合わせる。

老爺は我が目を疑い、何度も瞬きを繰り返した。


「悪魔が亡き者の為に祈るとは」

「何かおかしいかい? 今の俺は敬虔けいけんでか弱い、ヴォートゥミラ三神の信徒なのだから」

「神に逆らう悪魔が抜かしよるわ。胡散臭い」


老爺は冗談なのか本心なのかもわからない、アモンの発言の噓臭さに苦言を呈する。

呆れたジュアンは八の字に眉を顰め、肩を竦める。


「だが礼をいう。あの哀れな魂たちを救うには、これしか方法がなかったのだ。おぬしがいなければ、人と泥の昆虫、双方に甚大な犠牲が出ていた」

「悪魔に感謝とは、とんだお人好しだ。アンタはあいつと……ユウとよく似てるな」

「なんだ、感謝されるのは苦手か? 案外憂い所があるじゃないか、アモン。ハハハハハハ!」

「このジジイ、いい性格してやがるな。アンタと話してると疲れるよ」


立ち去るアモンを見届けて、ジュアンは満面の笑顔で微笑んだ。

善行は悪人や悪魔がやろうが善行。


「アモン、ユウに伝えておけ。お節介なジジイが君を心配しているとな」

「へいへい、わかったよ」


(迷える者ユウ、間違った道を進んでもいい。儂と共に迷おう。二人で迷えば一人では見えない景色が見えてくるはずだ)


ジュアンは心の中で青年に思いを馳せつつ外套を拾うと、また放浪の旅へと出るのだった。

邪霊六座 宰相ルキフグス


MBTI:INFJ


ルシファーの命で世界の富を管理する悪魔。

自らの言葉をルシファーの意志と称する、ルシファーの片割れの1柱。

語源の通り光を避けて闇を好む悪魔であるせいか、日中の行動は他の悪魔や直属の部下バエル、アガレス、マルバスのいずれかに任せている。

実力は魔界でも突出しているものの謎が多いので、同じ邪霊六座の悪魔からも若干距離を置かれ、周囲から浮いている。

だが本人はあまり気にしていない様子。

いわばルシファーの負の側面を凝縮したような存在。




邪霊六座 大将サタナキナ


MBTI:ESTJ


同族から一目置かれる悪魔の大将で、人心掌握に長けており、悪魔の軍勢を統率する役割を果たす存在。

類まれな人たらしの能力を活用した大陸の女性を操る能力を用い、日々悪事を働いている。

戦わない将軍では部下に示しがつかないと考えていて、事あるごとに戦場の最前線へと赴くが、その度にアモンやバルバトスらから注意されたり、呆れられている模様。




邪霊六座 司令官アガリアレプト


MBTI:ISFP


機密を暴く能力を持ち、敵の弱みを的確に突くのが得意な悪魔。

邪霊六座においては参謀の役割を担い、作戦の立案を任される重要な存在。

数々の戦場を共に戦い抜いたサタナキナとは、深い絆で結ばれている。

無謀な戦いを繰り返すサタナキナのストッパーとして、常に彼の動向に気を揉んでいる。




邪霊六座 旅団長サルガタナス


MBTI:ESTP


旅団を率いる悪魔。

謎多きルキフグスや大将サタナキナ、指揮官のアガリアレプトや情報収集役のネビロスと比較して、邪霊六座内での発言力がないのが悩みの種。

目の上のたんこぶのフルーレティに反感を抱き、アスタロトの直属の部下である者同士、ネビロスとは馬が合うようだ。

鍵開けの能力を使えるので、厳重に管理された財宝の開錠目的に、ルキフグスと同行する機会が多い。




邪霊六座 少将ネビロス


MBTI:INTJ


死霊術を得意とする冷酷な悪魔。

人々へ苦痛を与えるのを愉悦とし、配下のアイペロス、ナベルス、グラシャラボラスに対しても辛辣な態度で接するため、同じ悪魔にとっても恐怖の対象。

だが奔放で自由を好む悪魔たちを1つに束ねる優れた手腕は、仲間や邪霊六座の面々から信頼されているようだ。

ヴォートゥミラ大陸の監視をする役割を負い、悪魔にとって最大の利益を生み出せるよう、日夜思案している。

唐突に失踪した、無責任かつ奔放なフルーレティには嫌悪感を抱いているが、あまり口には出さない。

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