約束の明日は悪役令嬢のトゥルーエンドとともに
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「レイラ。隣国に逃れる準備がもうすぐ整う。明日必ず助けに来るから」
「私は断罪された身。幼なじみだからといって、王太子の覚えめでたいカイルまで巻き込まれる必要はないわ?」
「そんなこと言わないで。俺はずっと。……でもそれを言うのは明日の約束にとっておくよ。レイラ、また明日?」
暗い地下牢まで、会いに来てくれた幼なじみに私は微笑んだ。でも、私は何故か知っている。『明日の約束』なんてものはフラグでしかなくて、明日では間に合わないのだと。
笑顔のまま、去っていく幼なじみの姿を見送った。たぶん最後に見るうしろ姿。もしも願いが叶うなら、約束の明日が来ればいいのに。
その僅か一時間後。私はアルベルト王太子の愛する光の巫女を貶めたという罪で処刑された。
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「…………えっ?」
暗転した世界がぐるりと反転したように感じて、目を開くとなぜかまだ幼い頃の婚約者がいた。
「だから、俺はお前との婚約など認めないと言ったんだ」
「はい?」
「……いつもの皮肉はどうした?熱でもあるのか?」
「いえ、もしも叶うなら私もこの婚約はお断りしたいです」
「は?お前が無理にと進めたんだろう?!」
気がつくと目の前には、私を断罪したアルベルト王太子がいた。相変わらず顔だけは超絶好みだ。顔だけは。
いわゆる一目惚れというやつだ。公爵令嬢として蝶よ花よと育てられた私は、顔が超絶好みだったアルベルト王太子と婚約したいと駄々を捏ねたのだ。
思えば私はバカだった。男は顔じゃないんだよ。今ならそれがわかるのに。
それでも、初恋の人とともにいたいがために、王妃教育も頑張った。才能はあったのだろう、努力に伴い完璧な王太子の婚約者という称号を得た。でもそこに愛はなかった。
ふと、たった今婚約が嫌だと直接言ってきたアルベルト王太子の横に、王太子の学友をしている幼ななじみカイルがいることに気づく。なんだか心配そうにこちらを見つめている。
この頃からこんなに心配させてたのに。もっと早く気づいていれば、違った運命がきっとあったのに。
「カイル、私はあなたと婚約したいわ」
どうせ死に際に見るという泡沫の夢ならば、最後に大好きだと気づいてしまった幼なじみに想いを伝えるのもいいと……
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……そう思っていた時期が、私にもありました。
「レイラ。さ、一緒に入学式に行こう?」
「カイル?!流石に初日からそれはどうかと思うわ?」
「ダメだよ。君の可愛らしさが俺のいない時に誰かの目に止まったらどうするんだ?」
王太子との婚約は、まだ打診しただけだったこともあり、何故か速攻で私の婚約者はラーディス侯爵家嫡男カイルに決まった。
その日から、幼なじみの溺愛は続いている。でも私は幼なじみに婚約者になって欲しいと告げたあの時思い出してしまったのだ。
この世界は、乙女ゲーム『君のいる世界に太陽は降り注ぐ』なのだと。
ちなみに『夜空に輝く星々と君に捧ぐ』というゲームの続編だ。前作に引き続き、相変わらず、魔王と戦う描写の凄惨さと、ミニゲームの過酷さには定評がある。
しかしこのシリーズが密かな人気を誇るのには裏の理由がある。前作の悪役令嬢、リーゼと幼なじみのルディの悲恋が話題になったのだ。
バッドエンドでルディがリーゼを抱きしめながら囁く『ともに堕ちよう?』には、全日本が涙した。そう、少なくとも前世にアオイという名前だった私はそう思っている。
本編ルートのバッドエンドなのに、それがトゥルーエンドなのだと言い切るリーゼ×ルディのコアなファンに支えられて続編も発売された。
そんな通称『せか太陽』
裏の主役たちと言われているのが悪役令嬢レイラと幼なじみのカイルなのだ。
幼なじみ2人が願う明日。本編である王太子ルートのトゥルーエンドでは、叶わなかった明日に絶望した王太子の学友カイルがラスボスになる。
アルベルト王太子トゥルーエンド直前にカイルを倒した時の「やっと約束の明日に君を迎えにいける」という台詞に、アオイも涙した。むしろその後のトゥルーエンドが、全く思い出せないほどに。
「でも、カイルがラスボスになるっていまいち腑に落ちないのよね?」
そもそもなぜ、主人公と共に戦う仲間にもなるカイルが闇堕ちするのかわからない。どんな経緯だったのか、そこだけがなぜか思い出せなかった。
「カイルはごく普通の人なのに?」
「また、変なこと考えてるのか。お前……」
「アルベルト殿下」
私は慌てて体に染み込む完璧な礼を取る。
「レイラは、いつ見てもそういうのは完璧なのにな」
「淑女にそういう態度は失礼ですよ。それに婚約者のいる女性を呼び捨てしてはなりません。アルベルト殿下」
婚約者であった時、アルベルト王太子には素晴らしい王になって貰おうと苦言を呈することもあった。
その結果、前の人生ではますます距離が離れていってしまったのに、今は何故か面白がられているようで、アルベルト王太子はいつも絡んでくる。
「そうそう、カイルが普通って言ったか」
「……聞いてたんですか?」
「聞こえてしまったんだよ。……あの、カイルが普通なわけないだろ。まあ、レイラも大概普通ではないが」
「え?」
確かにカイルは信じられないほど優秀だ。しかし『せか太陽』の世界でも学業も実技もいつも首位だった。
私は、今回は悪役令嬢転生チートで学業は首位だが、実技では敵わずいつも2位。総合順位はいつもカイルに負けてしまう。
そういえば、トゥルーエンドでラスボスのカイルを倒した後に、裏ルートで攻略最高難易度のカイルルートが解放されるのだった。
……何故、今までそのことを忘れていたんだろう。
「アルベルト殿下。こちらにおられましたか」
「ちっ。レイラと話していると100%の確率で来るなカイルは」
「アルベルト殿下、カイル。……申し訳ありませんが少し考えたいことがあるのでお先に失礼します」
「レイラ?」
カイルが心配そうにこちらを見つめたのが気になったが、背中に冷たい汗をかく私は2人の前から走りだした。
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「なんだか入学式のこと、よく思い出せないくらいの衝撃だったわ」
そういえば、アルベルト殿下と主人公とちゃんと出会いイベントを終えたのかしら。主人公はどのルートに入るのか気になる。
「でも今はそれより」
悪役令嬢らしく巻いてあるゴージャスな髪の毛を一つにきっちりとまとめる。アオイだった頃から、髪の毛はいつもひとつにまとめていた。
最高難易度のカイルルート。王子の学友であるカイルを闇墜ちから救ってハッピーエンドを目指すルートだ。
「バッドエンドとトゥルーエンド」
カイルルートのバッドエンドは、どうだっただろうか。超絶難易度の先に。まだ、頭の中に霞がかかっているようだ。
その時、部屋の扉をノックする音が聞こえて思考が中断された。
「お嬢様。カイル様がお見えになっています」
「え?先触れもなく珍しいわね。どうしたのかしら」
慌てていたので髪の毛を一つに縛ったままだったが、応接間に急いだ。
「カイル、ごめんなさい。さっき会った時何か用事があった?」
「いや……レイラの様子がおかしかったから心配で。それに明日の約束もしていなかったから」
「明日の……約束」
その時、ひどい頭痛が私を襲った。目の前が真っ赤になる。遠くに慌てたように私の名を呼ぶ幼なじみの声が聞こえたが、私の意識はそのまま途絶えてしまった。
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夢の中で見る幼なじみは、いつもの幸せそうな笑顔ではなかった。
『魔王に魅入られた哀れなレイラ。もう、君と明日の約束が出来ないのだとしても……俺だけはいつまでもそばにいてあげる』
……そうだ、王太子ルートのハッピーエンドでは処刑されるだけの悪役令嬢レイラは、王太子のトゥルーエンドとカイルルートでは魔王に魅入られてしまうんだった。
「私がカイルの闇堕ちの元凶」
アルベルト王太子への恋が叶わず、聖女に暗い憎悪を持った結果、悪役令嬢レイラは魔王に魅入られてしまう。
「レイラ……」
瞳を開けると心配そうな顔をした幼なじみに手を握られていた。レイラの家族は良くも悪くも公爵家の人間で、あまり末娘のレイラに関心がない。
カイルだけが、いつも太陽のように暖かくレイラのそばにいてくれた。
――――魔王になんて魅入られてたまるか。カイルとともに幸せになるんだ。
「レイラ、何を悩んでいるの」
「うん。今、その悩みが目標になった」
「その目標は、俺も力になれるものかな」
「うん。これからもそばにいて?」
「あたりまえだよ」
心配した表情を残して微笑む幼なじみに私は心の中で誓った。
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その日から、悪役令嬢チートを駆使して復活する魔王を倒すため王立学園の3年間を過ごすことに決めた。
資金源のための商会の立ち上げに、裏の情報を手に入れるための情報網の構築。実技もカイルに負けていられない。たまにカイルに勝つことができる日も出てきた。次の時には絶対負けたけど。
幸いというか、闇魔法も使うことができる悪役令嬢レイラはチートともいえる能力を持っていた。
「ふふ。待っていなさいよ、魔王」
光魔法の特待枠で入った主人公のリリーベルが、まったく誰のルートにも入らず、光の巫女として覚醒もしないことが唯一気になったが、学園生活は順調に進んでいった。
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「最近話題に登っているレーゼ商会だが」
夜も更けた学園の生徒会室には、未だ明かりがついていた。そこには、生徒会長であるアルベルト王太子とその学友のカイルが真剣な表情で向き合っている。
「公爵家の息がかかっているという噂だが、それにしては説明がつかない部分が多すぎる」
「ええ、俺も情報は掴んでいます。裏社会にも情報網を構築しているらしいですね」
「それでカイルはどう考える?」
「…………犯人はレイラですね」
「ああ、レイラだな」
悪役令嬢として平和的に暗躍しているレイラは、まさか2人にバレているなんて気づいていない。実は幼さななじみと王太子が、彼女の不始末を裏で揉み消していてくれていることも。
「君はいったい何をしたいんだ。レイラ」
「お前ら俺を巻き込むな」
悪役令嬢と幼なじみと2人に巻き込まれた王太子のため息が、静かな生徒会に響いた。
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王立学園3年生の冬。復活した魔王と光の巫女不在のせいで王国と魔王軍の戦いは泥沼化していた。
「ひとつ問題があるわ。魔王を封印できるのは光の巫女だけってことよ」
このままでは、私が魔王に魅入られるとか以前に王国が滅んでしまう。
「そんなのバッドエンドにもほどがあるわ」
アルベルト王太子と主人公のリリーベルがまったく進展しないのが問題なのだ。
「私の邪魔が入らないと進展しない恋っていったいなんなのよ」
「おい。お前がリリーベルをいじめていると噂になっているぞ」
アルベルト王太子がため息をつきながら話しかけてきた。いじめているわけではない。光の巫女として覚醒してもらうために鍛えているだけだ。
そこに現れたリリーベルは、光の巫女に相応しい礼儀と立居振る舞いを身につけている。あとは、光の巫女として覚醒すれば完璧だ。
「御言葉ですが、アルベルト王太子殿下。お姉さまは私のことをいじめてなどいませんわ」
鍛えたり指導した結果、嫌われるどころかなぜか懐かれてしまいお姉さまと呼ばれているだけだ。
リリーベルは平民出身だが、ゲームの後半で実は王家の血を引いていることが判明する。お約束だが、そうなれば王太子妃として十分な身分となるのだ。
卒業も近づく今、すでにゲームで言えば終盤だ。もちろんリリーベルの生い立ちも判明している。
あとは妃教育と光の巫女としての覚醒。それだけ揃えば、王太子と主人公はハッピーエンドを迎えられるはず。
「お姉さまのおそばにいられるように。私、一生懸命がんばります!」
「あれぇ……。あなたは光の巫女として王太子妃になるのよ?」
「それがお姉さまのそばにいるのに必要ならがんばります!」
「ひどいな俺の扱い!?」
しかし、リリーベルの努力虚しく光の巫女としての覚醒が起こることはないまま、私たちは魔王と立ち向かうことになった。
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「あの、アルベルト殿下は王太子なのに参加していいんですか?光の巫女なしにはハッキリ言って負け戦だと思いますよ」
「王族が参加しなければ示しがつかない。それに、魔力も戦闘力も俺が一番高いからな。ま、ダメでも弟が王位を継ぐから平気だ」
こういう時に漢気を見せるアルベルト王太子は、本当にかっこいいと思う。早くリリーベルを落としてくれればいいのに。
「一応、聖剣も手に入れたけど……」
「え?台座から抜けなかった聖剣をどうやって」
「え?普通に抜けたけど。はい、リリーベル持っていて?」
「光の巫女にしか抜けないはずなのに」
アルベルト王太子は首を捻っていたが、抜けてしまったものは仕方ない。
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出発の朝レイラの元にカイルが訪れた。
「レイラ、今回の戦いに本当に参加するのか?」
「学園の上位5人が選ばれたのよ。私にも行く権利があるわ」
というより、私にとってカイルの闇堕ちを防ぐためには避けては通れない戦なのだ。
「じゃあ、明日もし2人とも生きていたら、俺と結婚してほしい」
「……カイルってフラグ立てるの好きだよね。決戦前の明日の約束って大体……」
カイルがレイラにそれ以上言わせないとでもいうように唇を塞いだ。ほんの一瞬だったけど。
「――――?!」
「じゃあ、今すぐ結婚しよう。今のが誓いの口づけ。好きだ。レイラのことずっと好きだった」
ポキンとフラグが折れる音がした気がした。
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なんだか成り行きで結婚してしまった?いや、婚約者だから構わない?いやいや。
魔王との戦いの最中も、時々そんなことを思ってしまって何度ヒヤリとしたことか。こんな情けない理由で負けたらどうしてくれるの。
なんて思っていたけれど、やはり光の巫女なしには負け戦でした。
「あとはお前たち2人だけだな。2人とも闇の魔力持ちか。我が軍門に下るなら命は助けてやるぞ?」
「ことわ……」
「俺は戦わせてもらう。だがレイラはただの令嬢だ。見逃してもらえるか」
「ふん、面白いから構わないぞ」
カイルが剣を持ち、魔王に斬りかかる。
カイルは強い。多分この国の誰よりも強いんじゃないだろうか。でも、それでも。
カイルの息が上がっていく。やはり魔王を光の巫女なしに倒すことはできないのだ。ゲームの設定そのままに。
カイルの胸が貫かれる。それでも諦めきれない私は、倒れ込んでいるリリーベルから聖剣をもぎ取った。
「カイル、カイル。約束を守ってよ。結婚式もしないで未亡人なんて」
聖剣が光を帯びて輝いた。
「光の……巫女」
魔王は封印される。いつのまに私は悪役令嬢ではなくなっていたのだろうか。
光の巫女の力をどう使えばいいか私は自然と理解できた。カイルの傷が塞がっていく。
「カイル。約束の明日は、あったんだね」
「……レイラ、可哀想に」
「え?」
「もう、決して離さないよ?俺だけがそばにいてあげる。」
なんだかバッドエンドに近い感じの台詞なのにその意味がかなり変わってしまっている。
「まさか、これがカイル×レイラのトゥルーエンド?!」
レイラの叫びは魔王城に響き渡る。それでも2人は幸せに暮らしました。
✳︎ true end ✳︎
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