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一歩進んで二歩下がる。
ふぅ。落ち着け。
なおの情報により彼女は文芸部だとわかった。
ここはストレートに仮入部するつもりだ。
ぶんげいぶって何だ。
本が好きなら大丈夫だって?
ダイジョウブ、タブン。
告白する訳でもないし
挙動不審だけど
話してみたかっただけだし。
彼女狙いの痛いヤツだって思われても良いし。
散々自分に言い訳して
帰宅部返上した。
「失礼しまーす」
「? 何ですか」
「仮入部の見学希望なんだけど」
ちょっと見覚えのある2年の女子が来た。
「B組の坂下くんでしょ、なおんとこの」
「なおの知り合い? 良かった~」
うんうんと頷いてはてな?と首を傾げる。
「何で今さら仮入部? 入試対策なん?」
「うう。本のこととかちょっと知りたくて」
「へぇ。本読むんだ。あたしはネットかなあ」
別の1年生の女子が中へ案内してくれて
仮入部の紙を持って来てくれた。
女子が多いけど男子も居て、
居心地悪くはなさそうだった。
部室は図書準備室を使っていて
隣の図書室は放課後解放されていたから
1冊本を借りてみる。
本を持ってカウンターにいったら
彼女が座っていた。
驚いて思わず口走ったのが
「え?図書委員の人?!」
これはない。
でも彼女は普通に答えた。
「ボランティア」
「図書委員は昼休みだけだから」
「文芸部が放課後手伝ってる」
箇条文がデフォルトなのか。
あああ~びっくりしたあ。
でも初めて正面から彼女の顔を見て
話ができるなんて思ってもみなかった。
文芸部、お買い得だ。
「これ貸し出しお願いします」
「はい」
手続きが終わると
彼女は手元の本に目を落とした。
長い髪が影になって表情が見えない。
話しかけるチャンスもなくて
もったいないけど諦めて準備室に戻った。
文芸部の活動は主に二つ。
図書室のボランティアと
年に一回発行する部誌に原稿を載せること。
原稿は本の紹介でも
自分の書いた文章でも可。
去年の部誌を見せてもらって
何気なく彼女の名前を捜そうとして
そのハードルの高さに
机にめり込みそうになったよ!
何だこれ。
本名じゃない。
それもそうだけど、でもさあ。
めちゃくちゃ難易度高すぎるでしょ。
彼女に手が届くまで
ムダに努力を強いるところ
恋愛ドラマの定番じゃん。
はああ
難攻不落。って落とそうとかしてないし。
ただお友達になりたいだけなのに。
仮入部届けを持って職員室に寄ると
担任にも首を傾げられた。
「坂下と文芸部。そのココロは?」
「はあ、妹離れとか?」
「ああ大森なおか、なおコンビもお年頃かあ」
「先生、それ何かチガウ」
「幼なじみもいいけどなあ」
「セクハラ」
周りがどう思おうと、母親達の仲が良かろうと
幼なじみはそんなものだ。
まして俺。
恋愛沙汰がうざくて仕方がない。
女子の恋バナは許せるが
男子の猥談は引く。
幼いころからの好悪の感情は
今もって引きずっているようだ。
いいやもう。
枯れ人生上等。
枯れた厨二?