第90話 国王の計画
「おかえり! ……どうだった?」
小屋に着くと、ダイさんがそう言って出迎えてくれた。
「無事勝ちましたよ」
「……それはもちろんおめでとうなんだけど、そうじゃなくて。見てたから分かるし。ウチが聞きたかったのは……結局、相手は誰だったの?」
「ああ、そっちっすか。ユーエフ王でしたよ」
そんな風に答えると……ダイさんの表情が、さらに明るくなった。
「……てことは! もう最大の脅威はなくなったってことじゃん! やったね!」
「そうっすね……」
確かに……勝った後の事後報告であれば、相手がユーエフ王であったって方が朗報だよな。
そんなことを考えつつ、俺たちは地下に移動した。
「そっちはどうでした?」
「何ともなかったよ。一応、重力波には備えてたけど……結局何も来なかったし!」
「重力波に関しては、ユーエフ王が例の技を妨害したからっすね。……俺としては、戦いの最後の技と技のぶつかり合いの余波の方を心配したんですが、それも問題無かったってことっすね?」
「ああ……あの二人がブラックボックスから出てくるときのアレね。……おそらくだけど、アレ両者ともかなり収束度の高い技だったから、そもそもそんなに余波が撒き散らされてなかったと思うよ!」
地下に着くと、俺はまず結界や地上が無事だったか聞いてみたのだが……ダイさんは、そちらは全く問題無かったと説明してくれた。
……そもそも余波が小さかったなら、それはそれでオーライだな。
てか、あの次元の隔絶……ディバインスコープからは、ブラックボックスとして見えてたのか。
俺はソファーに座り……またプヨンにマッサージしてもらいながら、ここでもう少し喋っていくことにした。
「そういえばさ……。ユカタのステータス、今どんな感じになってるの? 精鋭部隊にユーエフ王なんてのと立て続けに戦ってたら、とんでもないことになってそうだけど……」
「レベルは999になりましたよ。あと……なんかユーエフ王を倒したら、『革命家』って称号がつきました」
「999はヤバいね。三桁行ってるだけでも、歴史上に数人しかいないくらいなのに……。てか、革命家?」
「まあ、曲がりなりにもユーエフ『王』ですしね」
「た、確かに……。でも、ステータスの項目に『称号』なんてのがあるの、初耳だな。……ユーエフ王、ステータスからも嫌われるような奴だったのかな?」
「でしょうね」
そんな談笑をしつつ……しばらく俺たちは、勝利の余韻に浸った。
そして10分くらいして、今度は俺は王宮に行くことにした。
◇
王宮に着くと、またもや俺は最優先で謁見の間に通された。
なんかそこまでしてもらうと少し申し訳ない気もするが……それだけ国王も、あの魔道具の記録を気にかけていたということだろうか。
「結論から言いますと……侵略者は、ユーエフ王本人でした。この通り、無事倒してきたのでご安心ください」
そんな予測を立てた俺は、軽く挨拶を済ませると、魔道具の反応の正体及び事の顛末を説明した。
証拠として、自分用特殊空間特殊空間からユーエフ王の死体を取り出しつつ、だ。
「な……ユーエフ王本人が、わざわざ報復にやってきたじゃと!?」
すると国王は、椅子から転げ落ちそうになりながらそう叫んだ。
「……して、その死体がそのユーエフ王じゃと?」
「そうです」
「そ、そうか……。いやその、証拠を見せようという心構えはありがたいのじゃが、何分余とて面識が無いものでな……」
「……あ」
よく考えたら、それもそうか。
取り出したのあんま意味なかったなと思いつつ、俺はユーエフ王の死体を自分用特殊空間にしまった。
それから少しだけ、沈黙が続いた。
そして国王が落ち着きを取り戻すと……国王はしみじみと、こう語り始めた。
「しかし……最初にそなたがユーエフ王の配下を撃退した時は、とんでもない奇跡の英雄に立ち会えたと思ったもんじゃったが。まさかそこから数か月のうちに、ユーエフ王そのものまで討伐してしまうとはのう……。ユカタ殿よ、この国に生まれてきてくれて、本当にありがとう」
「……いえいえ、そんな」
……厳密には台パンの結果この世界に転移させられたので、この国に生まれてはいないのだが。
そこを指摘する雰囲気ではなかったので、特に否定はしなかった。
「これで今回こそ、全ての脅威が完全に去ったというわけなのじゃのう……」
そう言う国王の表情はしみじみとしていたが、なんとなく嬉しそうなのも伝わってきた。
……確かに、もう全部終わったようなもんだよな。
まああちら側に「ワームホール」なんて魔道具がある以上、残党が報復に来る可能性は0ではないが……仮にそんなのが来ても、少なくとも神5よりは弱いはずなので、もはや大した脅威じゃないし。
当面は、宇宙の相手のことは気にかけなくてよくなったかもな。
……そんなことをのんびりと考えていると。
国王は……いきなりとんでもないことを言いだした。
「……というわけでじゃ。ユカタ殿、さっきの死体、もう一度よく見せてくれはせんかの? 余としては、『ユーエフ王を討伐したユカタ殿の像』を全国に立てたいと思ってのう」
「……はい!?」
国王の爆弾発言に、俺は思わず声が裏返ってしまった。
「い、いやその……どこがどう、『というわけで』なんっすか?」
「ユーエフ王の配下を退けた功績を、敢えて公表しておらんかったのは、国民にUFO48の報復の心配をさせんことが目的じゃったがのう。ユーエフ王自体の討伐が済み、全ての脅威が去った今となっては、その必要がなくなった。じゃから像を作って、讃えようというわけなのじゃわい」
聞き返すと、国王は笑みを浮かべながらそう答えた。
……いやまあ、「というわけで」の意味は分かったよ。
そして像を作られるというのも、ちょっと恥ずかしい気もするが、同時に見てみたい・ワクワクする気持ちが全く無いわけではない。
だが……ユーエフ王の死体を像作りの参考にするって、それって……。
「あの、像を作ってくれるっていうのは正直、面白そうだなとは思うんすけど……『ユーエフ王の首を取ったぞ!』みたいな恰好の像にするのは、流石に趣味悪くないかなと思いまして……」
ある意味俺は、歴史上そういう風習のあった地域から転移してきてはいるけども。
それとこれは別として、普通に素朴に「立ってるだけ+簡易な説明文」くらいが一番嬉しいというか……。
というわけで、俺はそう提案した。
「……ただ純粋に検死したいとか、研究目的で死体を使いたいとかなら、貸すのは構わないっすけどね」
そして一応、そう付け加えておいた。
変な使い道でなければ、貸し渋る理由は特に無いからな。
「……まあ、ユカタ殿がそう言うなら、それでいいわい」
国王はすんなりと、俺の提案を受け入れてくれた。
「しかし……余も頭が固くてのう。像や爵位なんかでは明らかに釣り合っていないのは分かっていても、釣り合う報酬が何も思いつかんもんで……。ここまでの働きをしてくれたのにこの程度しかできず、すまんと思っている」
「いいんですよ、そんな」
今度は国王は、申し訳なさそうに頭を下げたが……俺はそれに対し、ただ一言そう言った。
なんか俺からしても、魔法で何でもできすぎて欲しい物が特に無くて、栄誉だけで満足かなって気分だし。
……あ、でも今って、アレを言うチャンスでは?
「……強いて言うなら、ダイさんにも何か報酬を考えてあげてください。何が適切かは、なかなか思いつきにくいかもしれませんが……思いついたらでもいいので。……もしかしたら研究施設の拡張の手伝いとかなら、喜ばれるかもしれませんよ」
俺は最後に、ダイさんのことについても触れておいた。
……研究施設の拡充は、今俺が咄嗟に思いついた案でしかないが。
「……そうじゃな。考えてみるわい」
国王は「それもそうだ」と言わんばかりに手をポンと叩き、そう了承してくれた。
後は特に話すこともないと思ったので、俺はこれにて謁見の間を後にした。





