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第87話 奥義解放

 もしこの空間がユーエフ王の言う通り、「次元的に隔絶された空間」に過ぎないとしたら……俺の場合は特殊空間を利用して、脱出することが可能なはずだ。

 ユーエフ王にも、次元妖のいる特殊空間に入るくらいのことはできるかもしれないが……そこから次元妖討伐後に別の場所に出るには、天文学的な確率でしか起こり得ない「他の交戦者とエンカウントする」というケースに遭遇する必要がある。

 そして、ユーエフ王が「戻る術は無い」と断言したのは……ユーエフ王は、そういうケースを意図的に引き起こす「次元の地図」的なスキルを習得していないということなのだろう。

 なら俺は、そこでユーエフ王を出し抜ける。

 そしてユーエフ王だけを、事実上の封印状態にしてしまうことができる。


 考えがまとまった以上、早速実行だな。

 そう思い、俺はいつも通り、混沌剣で鍵を開ける動作をやってみた。

 これで特殊空間に行ければ、作戦は八割がた成功だ。


 だが……転移の瞬間は、永遠にやってこなかった。

 何度鍵を回す動作をやっても……結果は同じ。


 ……いや、まだだ。まだ諦めるところじゃない。


「プヨン、次元の地図、使えるか?」


 混沌剣で移動できなくとも、次元の地図は健在の可能性がある。

 俺はそう思い、プヨンにそう聞いてみた。

 次元の地図っていうくらいだし……次元の横断能力は、混沌剣より上な気もするしな。


 そう思ったのだが……プヨンから帰ってきたのは、残念な結論だった。


「できないよー。なにかにじゃまされてるみたいー」


 この空間からは、混沌剣でも次元の地図でも、脱出できない。

 実験の結果分かったのは、そんな残酷な事実だった。


「何を試みているのか分からんが、ここから抜け出そうとする努力は無駄だ。自らの愚行を、ここで悔いるがいい」


 ユーエフ王は、諦観と嘲笑が混じったような声をかけてくる。

 そうは言うけど、この空間に関しちゃアンタが未完成の魔法を使ったせいだろ。

 どうしようもない状況に、俺はそう文句の一つも言いたくなった。



 ――だが、そんな時だった。

 俺は……混沌剣が微かに変な光を放ったのに気がついた。


「……何だ?」


 早速俺は、鑑定してみようと考える。

 鑑定、と念じると、プヨンが幻影色合わせゲームを投影する時のように、ホログラムみたいな画面に鑑定内容を表示させた。

 この空間で身体を動かしにくいのはプヨンも同じなのか、代替手段で結果を表示してくれたようだ。


 すると……鑑定の末尾には、こんな文字列が表示された。

「ユニークスキル奥義解禁」

 未覚醒効果が――ここへ来て、ようやく解放されたのだった。


「……奥義って、何だ?」


 未覚醒効果が覚醒したのは、確かに喜ばしいのだが……単に「奥義」と言われても、具体性に欠けるなあ。

 鑑定内容をみた時、俺はそんな感想を抱いた。

 だが……俺の独り言のような問いに対し、プヨンがこんな指示を出す。


「ぼくにふれてみてー」


 プヨンを手のひらに乗せると……まるで脳内にストンと情報が落ちるかのように、俺は奥義の内容を理解(・・)した。


 それは……「理論上最大値の連鎖を組み、連鎖が終わる瞬間にプヨンに手を添えると、共同の大技を放てる」というもの。


 そのことを知れた俺は、とりあえずその「理論上最大値の連鎖」とやらを組んでみることに決めた。



 この幻影色合わせゲーム……盤面の広さ的にも、日本にいた頃のパズルゲームと照らし合わせても、「理論上最大値の連鎖数」はおそらく19だろう。

 俺は19連鎖を発火し、プヨンに手を添えれば、その「共同の大技」とやらを使えるはずだ。

 もちろん19連鎖なんて、十数年のパズルゲーム歴がある俺でさえ一度しか経験がない程、奇跡の中の奇跡としか言いようがないくらいの超絶難易度の連鎖だ。

 かつての俺なら、「こんな奥義、あって無いとうなものだ」と匙を投げたことだろう。


 だが……俺は神5との戦闘で、「次元に願いを」というスキルを手に入れた。

 あのスキルで、最後の詰めで意図的な幻影の配色を行えば、一発で19連鎖を組むことだって不可能じゃない。

 年に一度しか使えない制約はあるが……この状況で覚醒した効果を今使わないなら、いつ使うんだって話だしな。


 などと思いつつ、いつも通り冷静に連鎖を組んでいく。

 どうせユーエフ王も何もできないのだし、焦らなくていいと思うと……逆にするすると、16連鎖分くらいまで積み上げることができた。

 そして……あと何色がどこに来れば19連鎖になるのか慎重に見極めると、「次元に願いを」発動を念じる。

 すると……幻影色合わせゲームのウィンドウの上に、配色カスタマイズ画面が表示された。


 三秒しかないので急ぎつつも、冷静に慎重に配色を選び、既存の積み上げ分の上に乗せる。

 それが出来上がると……俺は、19連鎖を発火した。



 ……と、その時だった。


「と言うとでも思ったか!」


 ふとそんな叫び声が聞こえたので、ユーエフ王の方を見てみると……ユーエフ王は右手の掌の上に、青白いエネルギー弾を出現させた。


「確かに、理外現象中和魔法で次元的に隔絶されたのは事実。だがなあ、余が自分の魔法で永久に封印されるようなヘマをやらかすはずがない! 貴様など、この次元隔絶ごと消し飛ばしてやるまでなのだ!」


 なんと……ユーエフ王は悲しむ演技をして、初めから俺を騙すつもりだったのだ。


「もはや神5を殺ったかなどどうでもいい! いやむしろ、神5は命と引き換えに貴様という、理を外れた武器の持ち主を教えてくれた!」


 ユーエフ王はかつての仲間を使い捨ての道具かのように言いつつ、エネルギー弾圧縮させ、黒紫色に光らせていく。


「むしろ礼を言おう、今日からその武器は余の物だ! ……謝意代わりのエネルギー弾を受け取れ!」


 そしてユーエフ王は、もはや混沌剣しか眼中にないとでも言いたげな発言をし……エネルギー弾を放つ構えに入った。



 ……なんてやつだ。

 あんな全てを諦めるようなフリをして、着実に俺を倒す準備を進めていたとは。


 そう思ったが……幸いなことに、ユーエフ王が長々と喋っている間にこちらの19連鎖も消えきる寸前だった。

 まあ、これなら、あの不気味なエネルギー弾を奥義で弾きにいけるな。


 これでユーエフ王のエネルギー弾の方が強かったら、今度こそ終わりだが……このタイミングで覚醒した奥義、もう信じるしかない。

 俺がプヨンに手を添えると……プヨンはまるでプラズマタックルを発動する時のように、高速で回転しプラズマタックルを纏い始めた。


「奥義……プラズマエンハンス!」


 次の瞬間……俺の頭にそんなフレーズが浮かんだので、俺はそのまま詠唱してみた。

 おそらく、この詠唱が奥義発動のトリガーなのだろう。

 すると……プヨンはプラズマに同化しはじめ、周囲には様々な天体がプヨンに吸い込まれるようなエフェクトが発生した。


「「くらえ!」」


 俺はプラズマに同化したプヨンを、ユーエフ王は黒紫のエネルギー弾を、ほぼ同時に放つ。

 この二つが衝突した瞬間……俺の腕に、肩が外れそうな衝撃が走った。


「……!」


 それでも……俺はプヨンを信じ、何とかエネルギー弾を押し返すべく力を込める。

 すると、それが功を奏し。

 俺はユーエフ王のエネルギー弾を奥義で?み込み……その融合エネルギーを、ユーエフ王に直撃させることができた。


「グワアアアアァァァァア!」


 断末魔の叫びが聞こえると同時に、次元の隔絶に無数のヒビが入る。

<ハバ ユカタはレベルアップしました>

 そのヒビが繋がり、隔絶の空間から解放された瞬間……俺の脳内に、ユーエフ王の死を告げる音声が鳴り響いた。


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