第84話 国王への説明途中に……
屋敷に帰ると、俺は真っ先にリトアさんの執務室に寄った。
「あ、ユカタ様お帰りなさい。今日はどちらへ?」
執務室のドアを開けると、リトアさんは書類整理の手を一旦止め、そう聞いてきた。
「ダイさんの研究施設新魔道具を開発しに行って……魔道具作成の過程で、宇宙空間を飛び回りましたね。あと最後にUFO48が五人組の精鋭部隊を派遣してきてたので、そいつらを壊滅させました」
「ああ、前仰ってた彗星竜の素材での魔道具開発ですね。お疲れ様です。……ん?」
聞かれたことに答えると、リトアさんは納得して書類整理をに戻ろうとしたが……その直前。
急に眉を顰めて、その場で固まった。
「……あのー。私の聞き間違えかもしれませんが……最後、何と仰いました?」
「UFO48の精鋭部隊の襲来を、撃退してきました」
ありのままの事実を繰り返すと、一瞬、沈黙が流れる。
かと思うと……リトアさんはこれ以上ないくらいに目を丸くして、こう叫んだ。
「ちょ、あ、あの、事後報告の規模がおかしくないですか!? ていうか私たち、実はちょっと前に絶滅の危機に瀕してたという……?」
「事後報告なのは仕方ないんですよ。新魔道具の開発の直後に、その魔道具が襲来の兆候を捉えたんですから……。大変でしたけど、逃亡者は一人も出さずに全滅させてきたっすよ」
「いやその、報告がどうとかは別にいいんですが……。よくご無事でいらっしゃいました……」
リトアさんは、心ここにあらずといった感じでそう言った。
これで後は……この事を言わないといけない相手がいるとしたら、残りは国王くらいだろうな。
まあ今日はもう遅いし、今から王宮に行く気力も無いので、それはまた後日ということで。
伝えるべきことは全部伝えたので、俺はリトアさんの執務室を出ようとした、
が……ドアを閉めようとした直前、リトアさんは急に我に返って俺を引き留めた。
「……じゃない。そういえば今日、ユカタ様に渡さないといけないものが届いたんです」
リトアさんは一枚の書簡を片手に、ダッシュで走り寄ってきた。
「国王から、呼び出しがかかっています。『ここ数日はいつでも対応できるので、都合のいい日に寄ってくれ』とのことで……」
「……呼び出し?」
まさか……国王、神5との戦いのことを何らかの方法で知ったとか?
いやしかし、そんな手段があるとは到底……。
「はい。おそらく、年間生産量60トンのエリクサーに関係してじゃないでしょうか?」
「なるほど……」
……あ、そっちか。
よく考えたら、国王が俺に会いたがる要素、そんなのもあったな。
……なんかもう感覚としては、遠い過去の出来事みたいだが。
「……明日行ってみます」
俺は明日、王宮を訪ねてみることに決めた。
◇
王宮に着くと、俺はすぐさま謁見の間に通された。
「おお、よく来たのう、ユカタ殿。今回呼んだのは……そなたの大公への陞爵が決まったことを、伝えるためなのじゃ」
そして……いきなり、思ってもいない衝撃の事実を告げられた。
「た……大公!? え、えーとそれ……確か、公爵より上の爵位だったっすよね」
「左様じゃ。ユカタ殿の功績は、一つ一つがことごとく常軌を逸しとるからのう……臣下の多少の反発がありはしたが、強引に決めてやったわい」
そして国王は、更にとんでもない発言を続け……ガッハッハと笑いだした。
「反発を強引にって……。いや、陞爵自体はありがたいんすけど、そこまでとなるとマズいことになったりしませんかね……」
「なあに、そうは言ってものう……。ユカタ殿の功績に対してはこれくらいせんと、逆に王国の面子が保てんのじゃ。意地の悪い奴とて、『エリクサーをお前の地域にだけ供給しない』とか言えばちょっかいかけられんじゃろうし。安心して爵位を受け取ってくれい」
「はあ……」
……なんか、国王もいろいろ大変なんだな。
あまりの衝撃にいろんな感情が混ざり過ぎて、結局最初に心に浮かんだのは、そんな思いとなってしまった。
「ありがとうございます」
まあ、こう言うしかないよな。
意地悪な奴には取引制限で応酬してしまえとか、割と物騒だなと思わなくもないが……まあ、ツッコんだところで決定事項は覆らないだろうし。
俺はいろいろ言いたいことを飲み込んで、簡潔にそう返事することにした。
そのあとは、束の間の静寂が訪れた。
俺としては、神5を退治したことの報告も兼ねて来ているのだが……そもそも俺はこういう場にあまり慣れていないので、こちらから話題を変えて良いものか躊躇してしまったからだ。
だが……国王はそんな様子を察したのか、こう質問してくれた。
「流石のユカタ殿とはいえ……エリクサー量産という史上最大の偉業を成し遂げたばかりじゃしのう。ここ最近は、少しゆっくりしたりしておったのか?」
そんな風に、他愛もないことを聞くかのように話の流れを変えてくれたのだ。
「いえ、実は……」
俺は「今こそその時」と思い、報告をすることにした。
「……昨日、UFO48の精鋭部隊を名乗る『神5』という集団の襲撃がありまして。無事、壊滅させてきました」
そして俺は、手短に事の顛末だけをそう話した。
「……今なんと?」
「UFO48の精鋭部隊、通称『神5』を撃退してきました」
報告すると、国王は信じられないと言わんばかりの様子で聞き返してきたので、俺はそう繰り返した。
……デジャヴかな?
「せ、精鋭部隊……。まさか……ザネットを倒したから、その報復に!?」
「いえ。当初は調査目的だったみたいですし……昨日の時点では、ザネットの死はバレていなかったのかと。……そんな奴らが来ているとは知らず、開発したての新魔道具を起動したら奴らの宇宙船を破壊してしまったので、そのまま交戦になりましたがね」
「……そうか。というか、今しれっと宇宙船を破壊する魔道具が出てきたのう。ユカタ殿にとっては、魔道具開発など新陳代謝みたいなものなのかのう……?」
そして国王は目を白黒させつつ、そんなよく分からない比喩を口にした。
「何というか……もはや何が褒美として足るのか想像もつかず、ふがいないばかりじゃわい……」
続けて国王は、頭を抱えた。
……別にあの結界、宇宙船を破壊するのは主目的じゃないんだがな。
というか魔道具開発に関して言えば、俺は原案と材料を用意してるだけで、実装はほぼダイさんの手柄だし。
何を褒美にするか悩むくらいなら……ダイさんにも、国王から何か用意してあげて欲しいものだな。
とはいえダイさん、権力欲とかとは対極の位置にいそうだし……何が褒美として適切かは、それはそれで迷うだろうが。
……どうせならついでに、そのことも進言してみるか?
子機も貰っていることだし……まずはそれを見せつつ、魔道具の解説から入るとして。
そう思い、俺は受信魔道具の子機と化した、彗星竜の小骨を自分用特殊空間から取り出した。
「ちなみにその魔道具、宇宙船を破壊するためのもんじゃないっすよ。俺とダイさんで作ったのは、この惑星全体及び太陽系全体を覆う、二重の結界の魔道具っす。神5の宇宙船を破壊することになったのは、単に結界展開が奴らの宇宙船の通過直前だったからでして……。あと、魔道具の本体はダイさんの研究施設にあるんっすけど、結界が破られたりした際はこの子機の魔道具にも通知が来るっす」
「ほう……」
説明の後、子機の魔道具を国王に手渡してみると……国王はそれを、色んな角度から眺めまわしだした。
「そしてこれ、案と素材は確かに俺が用意したんすけど、組み立てはほぼほぼダイさん任せでして。なので良かったら、ダイさんにもなにか褒b――」
──そして俺は、そう続けようとした。
だが……そこで俺は予期せぬものをめにしてしまい、次の言葉が出なくなった。
というのも……この子機が、新たな記録を記し始めたのだ。
……おいおい、嘘だろ。
このタイミングで結界が破れるって……まさか、そういう事態ってことはないよな?





