第77話 二人の戦い
「ダイさん、さっきの破壊記録、やっぱりUFO48の宇宙船の衝突でした」
帰るや否や、俺はまず現状を報告した。
「船員は『神5』と名乗る軍の精鋭部隊五名。結界との衝突を宣戦布告とみなし、こちらに向かうと決めたようでした。このままでは……戦闘は免れられないでしょう」
「せ、精鋭部隊五人? よりによって何でそんな奴らが……。ていうか、それかなりのピンチじゃ!?」
俺が報告を終えると、ダイさんは慌てた表情でそう聞いてきた。
「そうっすね。それでアイツら、放っとくとプライドに賭けて全力で結界を破壊しにかかってくるでしょうし……ただ待つよりは、俺が戦った方が良いかと思ってまして。そこでなんすけど、近い方の結界、戦闘の余波からここと太陽を守るため、こんな形に変形することってできますか?」
俺は自分が考えた方針を、この惑星と太陽をすっぽり覆う楕円形結界を図に描きながらそう伝えた。
「……分かった。やってみる」
するとダイさんは、深刻な表情をしつつも、了承して作業に取り掛かってくれた。
敵の進軍状況が気になるのもあって、作業が終わるまでの時間が途方もなく長く感じる。
せめて、ここからアイツらの動向をチェックする方法があればいいのだが。
「……あ、そうだ」
そんなことを考えていると……俺は、打ってつけの魔道具の存在を思い出した。
「ダイさん、アレ貸してもらえませんか? あの……ディバインスコープとかいうやつ」
ダイさんが俺とザネットの戦いを観戦するのに使ったという、あの望遠魔道具があるじゃないか。
「……精鋭部隊の動きを見るんだね。いいよ。ウチとしても、改良作業が間に合いそうか知りたいし。……あっちの棚にしまってる」
聞いてみると、即座にOKがもらえて在り処も教えてくれたので、俺は棚からディバインスコープを取り出し、神5と遭遇したあたりを観測し始めた。
そして……実際に彼らの様子が観測できると、俺は少し安心できた。
「……作業は十分間に合いますね。全然ゆっくりなので、落ち着いてやってください」
というのも……彼らの移動速度、せいぜい光速の半分くらいでしかなかったのだ。
いやまあ十分早いのだが、仮に作業に一時間かかったとしても道中を六分の一しか進んでこないと思うと、割と心に余裕ができないこともない。
なので俺は、ダイさんを落ち着かせるためにも「ゆっくりだ」と伝えることにした。
「あと十二分くらいかかりそうだけど……それでも大丈夫?」
「それならかなり余裕っすね。……あ、でも、脳の回転強化は無いよりはあった方がいいでしょうか?」
「……事態が重すぎてその存在忘れてた。お願い」
とまあ、そういうわけで、間に合うという事実は脳の回転強化を使わない理由にはならないので、俺はその魔法をダイさんにかけることにした。
それから、待つこと約六分。
「できたぁー」
ダイさんは大きくため息をつきながら、無事終わったことを伝えてくれた。
「太陽を守備範囲に入れたのはもちろんだけど……時間的には余裕があるって話だったから、結界の強度分布を手動で調整できる機能も追加することにしたよ」
「強度分布の……調整?」
「うん。ユカタがとんでもない強敵と戦ってくれるって分かってながら、ウチだけ指を咥えて眺めているわけにはいかないし。かといって、ウチなんか戦闘には絶対ついていけないから……ここで人類と太陽への被害を少しでも減らすため、結界の強度分布の最適化に専念するって決めたんだ」
そしてダイさんは、注文したの以外にも更に一つ機能を追加したことを説明しつつ……そんな決意を口にした。
「これは、ウチらの戦いだよ。こっちの事は一ミリも心配しなくていいから……手加減無しで、全力を出しておいで」
「……了解っす。絶対全員倒してくるんで」
ダイさんに力強く見送られ、俺は混沌剣飛行で移動中の神5の元へ飛び立った。
結界を通過したところで、形状が実際に楕円球状になっているのを肉眼で確認する。
「一ミリも心配しなくていいから……手加減無しで、全力を出しておいで」
そんなダイさんの言葉を反芻しつつ……俺は初手不意打ちをかけるために、もう一度隠密魔法を発動した。
更にまた15連鎖くらいを組み上げつつ、連鎖終了時にちょうど神5と対峙するくらいのペースまで混沌剣飛行で加速する。
そして、15連鎖分のスライムの幻影がちょうど消え終わったところで……俺はその魔力を斬撃強化に全て注ぎ込み、移動中の神5めがけて飛ばした。





