第75話 早速結界が割られた
冒険者の手助けをして特殊空間を出た後、ダイさんの小屋を訪れると……ダイさんは、驚きと困惑が混じったような表情で俺を出迎えた。
「ねえ、ユカタ……。今飛ばしてきてもらった魔道具、一機当たり最初のやつの六倍くらいの魔力を生成してる計算になるんだけど……何か心当たりある?」
どうしたのかと思っていると、ダイさんは若干早口になりながらそう質問してきた。
……ああ。
それなら心当たりがある……というか、目論見が成功した証拠そのものだな。
「せっかく物理的な距離とは無関係に魔力を転送できる魔道具ってことで、太陽よりエネルギーが高い星の周りを飛ばして来ました。俺が行ってきた星の表面温度、ちょうど太陽の六倍程度だったので……それが理由かと」
「……そういう発想かぁ……」
説明すると、ダイさんは額に手を当て、遠い目をした。
「確かにシンクロニシティの原理からすると、そういう話になるけど……ホント、よく思いついたね。それに思いついたところで、普通遠すぎて断念すると思うんだけど……実際にやっちゃうところがユカタらしいというか、常識外れというか。ていうか……シンプルに早くない? そんな遠出をした割にはまだ20分も経ってないよ!?」
「それはダイさんのおかげでもあるっすよ。……神剣が混沌剣に進化して、光速の一億倍の速さで動けたからこそ、今回のことが実現できたんですし」
「……そういえば、ユカタが最初に依頼に来た時持ってきたのが、【混沌剣への進化】の元になった妖大将の水晶玉なんだよね。思えばこの奇跡、あの時から始まってたのかな……」
そして……ダイさんは、初めて会ったときのことを懐かしみ始めた。
……まあほんと、混沌剣は色々と可能性を広げたよな。
俺も若干懐かしい気分になりつつ、地下への階段を降りた。
そして……受信魔道具の様子を、自分の目でも見てみることにした。
「これ……受信した魔力は、とりあえず全部結界に送るようにしてるんすか?」
「そうだよ。ただでさえ一機で六倍の魔力を供給する魔道具を、たくさん飛ばしたんだから……結界も、さっきとは比べ物にならないくらい強くなってるよ!」
「そうっすよね……」
そんな会話をしつつ、俺は受信魔道具を間近に眺めた。
……外部からは、さっきと全く変わらないように見えるな。
それだけ受信した魔力を漏らすことなく、完璧に結界に送り込めていることの裏返しか。
一通り様子が分かったところで、俺はダイさんに、一つ提案をしてみることにした。
「ところで……供給される魔力も増えたことですし。これ……太陽系全体を覆うくらいのサイズで、もう一重結界を張ることって可能ですかね? そっちは弱くてもいいので」
……実は俺には、さっきの恒星まで飛ぶ間の10分間で、考えていたことがある。
それは、「最小限の強度でもいいので、太陽系全体を覆う結界も張った方がいいんじゃないか」ということだ。
理由は一つ、もしこの太陽系に侵入者がきた場合は、いち早く察知できるようにするためだ。
結界が破られた記録が残るようにしたことで、この結界はある意味レーダーとしても使えるようになった。
ならば、あえて破られる前提で強度を弱くする代わりに、範囲を広げた結界を追加で張れば、探知能力をもフルに活かすことができるのではないか。
そんな仮説を、俺はその10分間で考えていたのである。
もちろん、「それだけ距離を広げると今でも魔力が足りない」とか、「そっちに大量に魔力を取られて、この惑星を覆う方の結界が脆弱になる」とかいう話なら考えものだが……ごく一部の魔力を割くだけで、そんな結界を追加できるとしたら。
それこそが、最適解のはずだ。
「十分できるよ! それくらいなら……割り振る魔力を最小にするとしたら、最初の魔道具分の魔力で事足りるはずだよ」
するとダイさんは、必要な魔力量について、そう答えてくれた。
……試作号を起動しに行く時は、「魔力が足りなければ展開できる最大サイズの結界を」と言い残したもんだが……あれ、完全に杞憂だったんだな。
強度を度外視すれば、あの時点で既に太陽系全体を覆えるレベルだったとは。
となると、必要な最小限度の魔力は本当にごく一部だし……二重結界の展開、やらない意味が無いな。
「じゃあ、お願いします」
「オッケー。ちょっと待ってね」
ダイさんはそう返事をすると、再び受信魔道具をいじり始めた。
そのまま待つこと、約二分。
「できたよー」
魔道具の改良はすぐ終わり……結界は、惑星を覆うものと太陽系を覆うもの、二つが展開されることとなった。
「ありがとうございます」
これでまた一仕事終わったなと思いつつ、俺は研究施設のソファーに腰かけた。
「これで終わりかー。結構大変だったけど……楽しかったな。……あ、これいる?」
そしてダイさんもそんなことを言いつつ、棚から出した菓子を出して俺にお裾分けした。
「……美味いっすね」
「そう? 良かった」
「……はい、プヨンもお疲れ様」
「おいしー!」
満足感に浸りながら、俺はみんなと一緒にお菓子を頬張った。
彗星竜の素材、今回は骨しか使ってないし……また残りの部分の使い道も、ボチボチ考えていきたい所だな。
そんなことを思っていると、貰ったお菓子を食べきってしまったので、俺はそろそろお暇することにしようかと思った。
だが……そんな時。
「……あれ、今なんか魔道具から記録する音が聞こえなかった?」
突然ウィーンという音が……受信魔道具の方から聞こえて来たのだ。
「……まさか?」
二人で受信魔道具を確認すると……そこには、太陽系全体を覆う方の結界が破られたとの記録が記されていた。
「「これは……」」
……まさか、張ったそばから結界が破られるとは。
「強度を度外視しすぎて、軽い天体の衝突でも割られるくらいになっていた」みたいなオチの可能性もゼロではないが……万が一UFO48関係だとマズいので、確認は必須だな。
「俺……ちょっと様子を見てくるっす」
前者だった場合は、魔力の割り振りの比率を調整して様子をみるだけだが……後者の場合は、事と次第によってはガッツリ戦闘になるかもしれない。
などと考えつつ、俺はダイさんにそう言い残して研究施設を後にした。





