第72話 試運転
「じゃあ、まずは太陽の近くを飛ばす衛星の方ですが……」
俺はそう言って、まずは魔力を生成する側の衛星の構造について、どう作って欲しいかを話し始めた。
俺がダイさんに盛り込んで欲しいと思っている衛星の機能は三つ。
ソーラーパネルの役割を担う結界の展開・維持の機能と、結界の面向きの制御機能、そして魔力を地上の魔道具に転送する機能だ。
ソーラーパネルの役割を担う結界は、アダマンタイトを製錬する炉の動力源に使っているのと同じ、二枚の対物理結界でオリハルコン触媒を挟んだアレと同じものだ。
恒星の周囲を至近距離で周回する以上、生半可な物質でパネルを作るとすぐ壊れそうなので、永続結界が適任だと思ったのである。
アダマンタイトの炉のアレよりは強度を上げてもらうつもりだが、まあ原理は同じものなので、ここで困難にぶち当たることはまずないだろう。
結界の向きの制御機能は、結界が常に光源と対面するよう、動きを自動制御するものを作ってもらうつもりである。
せっかく強力な光源と広大なソーラーパネルなあっても、パネルが明後日の方向を向いていては碌に魔力が生成されなくなってしまうからな。
常に安定して最大効率を維持できるよう、そんな仕組みも取り入れてもらおうと思っているのである。
そして最後は、今回の目玉の魔力転送機能。
これについては、さっき話し合った通りである。
結界の維持と制御には、多少は魔力を消費するだろうが……まあ生成されるであろう魔力の膨大さからすれば、そんなのは誤差の範疇だろうからな。
生成された魔力の一部で衛星の機能を維持し、残りの大部分の魔力を地上に転送する仕組みにすれば、半永久的に使える魔道具になるはずだ。
一通り作ってほしい魔道具についての要望を伝えると……ダイさんは何やら図を描きながら少し悩み、それからこう言った。
「……分かった。色々難しそうだけど、特に無理っぽそうなのは無いかな」
「ほんとですか?」
俺の要望が、ダイさんから見ても実現可能そうだと知り……俺は少し安堵した。
「じゃあ、よろしくお願いします。……あ、そういえば、またオリハルコン触媒足りなくなるかもしれませんし、天災の滴の欠片回収しといた方がいいっすかね?」
「あ、アレそんなにポンポン見つかるもんなの? あるに越したことはないと思うけど……その前に、例の頭の回転強化、かけてから行ってもらってもいいかな?」
「もちろん」
……天災の滴の欠片に関しては、ポンポン見つかるというよりは、同じ氷滴から適宜適量を削り取って来ていると言った方が正確だが。
などと考えつつ、俺は6連鎖でダイさんに頭の回転強化魔法をかけ、小屋を飛び出した。
……そして、天災の滴の欠片をまた一定量持ち帰り、地下の研究施設を覗いてみると。
「ちょうどできたよー!」
なんと……この間で既に、ダイさんは魔道具を完成させていた。
なんか今回は周回軌道上の天災の滴を見つけるのに少し時間がかかったので、往復に30分くらいは経っているようだが……たったそれだけの間で、もう新魔道具を開発できたというのか。
「早かったっすね。結構色々新機能を実装する必要があった割には……」
「だよねー。ウチも5時間くらいは経ったかなーって思ったんだけど、にしてはユカタ帰って来ないし……時計を見たら30分しか経ってなくて、びっくりしちゃった。それだけユカタの脳の回転強化がえげつないって事じゃないかな」
と思っていると、どうやらダイさん自身も同じくらい驚いていたみたいだった。
……そういえば、オープンカー量産の時は5連鎖だったしな。
1連鎖違うと、何度も脳の回転強化込みで作業してきたダイさんでも、体感と実時間がそこまでズレるということなのか。
「じゃあ……とりあえず、せっかくなんで早速試運転してきますね」
「うん! あ、もし転送が上手く行った際の魔力の使い道だけど……とりあえず何がいいかな? 普通だとありえない量の魔力が流れてくるだろうから、垂れ流しいするのはマズいと思うし……」
「それなら、この惑星全体を覆う結界でも展開しておいてください。魔力が足りなかったら、展開できる最大サイズの結界を張る感じで」
「な、なるほど……。うん、じゃあそうするね!」
惑星全体を覆う結界、対宇宙の防衛設備として考えているものの一つでもあるしな。
どうせなら、試運転の段階から、当初の目的に沿った運用をしてみるのが一番良いだろう。
魔力の送受信機構には、非常時には転送をストップする安全装置も着けるよう設計したし……地上が魔力でとんでもないことになってしまう事態は、まず起こらないはずだ。
ちなみにオリハルコン触媒、現在余ってる分でもこの試作号の結界分くらいはあるはずだからな。
衛星魔道具、この試作号が成功すれば後に量産してもらおう思っているが……取ってきた天災の滴での触媒増産は、その時にするつもりだ。
俺は混沌剣飛行で太陽から1500万㎞くらいの地点に移動し、そこで魔道具を起動することにした。
魔力の生成が始まるまでは自力で動力を補給できないので、最初だけ俺が魔力を流す。
結界二枚が展開されると、俺はその間にオリハルコン触媒を流し……結界同士の間の幅を狭めて、表面張力で面全体に触媒を行き渡らせた。
そしてその魔道具を、太陽の周囲を円軌道で回れる程度まで加速させてやると。
「お……ちゃんとパネルが太陽の方を向いたな」
俺は、魔道具がちゃんと稼働しだしたのを確認できた。
後は……受信した側がどうなっているかだな。
俺は混沌剣飛行でダイさんの施設に戻り、様子を聞いてみることにした。
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