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第71話 彗星竜の素材で新たな道具を

 その頃、ユカタは……領民や王宮が大騒ぎになっていることなど露知らず、ダイさんと共に新しい魔道具の発明に明け暮れていた。


 ◇


「ダイさん。彗星竜の素材ですが……早速ちょっと、面白そうな使い道を思いつきましたよ」


 俺はそう話しつつ……彗星竜の骨の一部及びあらかじめプヨンと一緒に印刷してきた資料を、自分用特殊空間から取り出した。


「この骨の主成分――リン酸シンクロニウムが、どうやらちょっと面白い性質をもってるんっす。良かったら読んでみてください」


「リン酸……シンクロニウム?」


 ダイさんは資料を受け取りつつ、怪訝な声でそう聞き返した。


「はい。この惑星には存在しない物質らしいんすけど……俺が読み取った限りだと、この骨を使った物質同士の間では自由に魔力を行き来させられるらしくて。ちょっとその辺、俺が正しく解釈できてるか見てもらっていいっすか?」


 俺に理解可能な範疇で言うと……鑑定にはだいたい、こんなことが書かれていた。


 シンクロニウムは重力と魔力濃度が非常に大きい星でしかできない希少金属で、反応性が低く、滅多なことでは合金にならない。

 ただし流星魔獣クラスの生命力がある魔物はこれを身体を構成する元素として取り込むことができ、その場合は魔物の体内にシンクロニウムの化合物が蓄積される。

 シンクロニウムの化合物には、シンクロニシティにまつわる現象を起こす特性があり、うまく利用すれば物理的距離を問わず全くのロス無しで魔力の送受信などもできる、等。


 何かを読み落としたり、あるいは間違って理解していることがなければ……だいたいこんな解釈で合っているはずだ。

 特に大事なのは、最後の「うまく利用すれば物理的距離を問わず全くのロス無しで魔力の送受信などもできる」というところであり……その「上手く利用する」アイデアと技術のために、ダイさんのところへ来たというわけである。

 まあまずは、俺の解釈が合ってないと話にならないのだが。


 などと考えつつ、ダイさんが目を通し終わるのを待っていると……ダイさんは目を上げ、こう結論を出した。


「確かに、そんな感じの物質だって書いてあるね。まあウチが読んだ限りだと、この物質の使い道はもうちょっと自由度が高そうだけど。……もしかして、もう何か作りたいものが決まってたりする?」


 どうやら俺の解釈は、おおむね間違ってはいなかったようだ。

 そこで根本的に間違ってたら頭に浮かべていたアイデアが白紙に戻るところだったので、まずはなによりである。


 じゃあ……ちょっと考えてたことを話すとするか。


「俺……これとオリハルコンの触媒を使って、膨大な魔力の魔力源を作れないかって考えてまして。……プヨン、前説明した立体図に変形してくれるか?」


「いーよー」


 俺はそう言って……プヨンに太陽、人工衛星、地上の魔力受信機を表す立体の図へと変形してもらった。


「たとえば太陽の近くを周回する衛星に触媒を塗っておいて、衛星で生成された魔力をこの骨の欠片に集めるじゃないっすか。それで、骨の欠片に集まった魔力を地上に置いてる別の欠片に転送したら……地上で大量の魔力が手に入る、的な。そんな事ってできないでしょうか?」


 立体図に変形したプヨンの該当箇所を指で指しながら、ダイさんにそう説明する。

 すると……ダイさんは図を見て頷きながら、こう答えた。


「それくらいならお安い御用かな。シンクロニシティなら……ウチもつい最近、取り扱った技術だし」


「え、そうなんすか?」


 ダイさんから意外な答えを聞いて……思わず俺は、気の抜けた声でそう聞き返してしまった。

 シンクロニシティの技術を用いた魔道具……そんなのあったっけな?


「うん。ほら……前ウチがユカタにあげた、納品可能通知の魔道具あるでしょ? あれがシンクロニシティを応用した魔道具だよ。魔道具同士で通信をするなら、どうしても距離でタイムラグができたり、特殊空間内に届かなかったりするけど……シンクロニシティは同期技術だからそんな障害も無いし、採用したんだ」


 疑問に思っていると、ダイさんは何にその技術を使ったか説明してくれた。

 ああ……俺が特殊空間の中にいようと消灯・点灯がダイさんのものと瞬時に連動する、あのボタンか。

 そう言われると、確かに似たような技術な気がするな。


 俺はそう納得したが……同時に、こんな疑問も思い浮かべてしまった。

 あれ、じゃあもしかして……彗星竜の素材なんかなくても、俺が欲しいものって作れてしまうのでは?


「まあ、普通の物質じゃあシンクロニシティでできることなんてその程度なんだけどね。でも……この物質は、シンクロニシティ関係の現象に特化してる。ユカタが言った遠隔魔力源を含め、同期系の付与はなんだってできると思うよ」


 と思ったが、ダイさんの説明の続きを聞く限りだと、そこまで簡単な話ではなかったようだった。

 なるほど、そういう意味では……この素材ならではの技術ともいえるわけか。


 この骨があるからこそ、ダイさんがもともと持っていた技術を更に拡張して、作りたいと思っていたものを完成させられる。

 だいたいそんなところだと理解した俺は、早速製作に取りかかってもらうことにした。


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