第7話 ややこしい事態になってきた
最初に対峙した高等妖兵との戦いは、敵が御託を並べてる間に斬ってやったらあっさり終了した。
だが、今度はどうなる?
目の前の奴も、長々と御託を並べるタイプっぽくはある。
だが相手から見れば、状況は二対一。
もしかしたら、前みたいに油断してはくれないかもしれない。
もし、前たまたま上手く行っただけで、本来の高等妖兵はめちゃくちゃ強敵だったら──?
そんなことを考えていると、Sランクと思われる人が話しかけてきた。
「見ての通り、相手は高等妖兵だ。奇跡的に二人でかかれるとは言え、勝つのは至難の業だろう。少なくとも、無傷とはいかない。長く厳しい戦いになるだろうが……運命に拾われたと思って、全力で倒すぞ」
そう言うSランクの人は、鬼気迫る表情で高等妖兵を見据えていた。
……おいおい。そんなんじゃ、不意打ちできるものもできなくなっちゃうんじゃないか?
そんな俺の思いとは裏腹に、Sランクの人は神剣を振り上げ、高等妖兵に斬りかかった。
「……はあっ!」
「ヌルいヌルい。そんなのでは所詮、活きのいい獲物の域を出ませんねぇ!」
だが高等妖兵は、くつくつと笑いながらその剣を最小限の動きで躱していった。
……高等妖兵の奴、今の斬撃を鮮魚かなんかみたいに言いやがった。
「わー、またきもちわるいのきたー」
奴があんなこと言うから、またプヨンがポケットに隠れちゃったぞ。
やはり、本領を発揮させてはならない相手なのか。
「すまんな。あれに勝てば、ちょっと大きめの『ふわふわ』が来るはずだから……それまで我慢してくれ」
「わかったー!」
こうなってはもう、破れかぶれだ。
俺も、ただがむしゃらに斬りかかるしかない。
以前高等妖兵を斬った時のように、俺は熟練の剣士の動きを感じながら飛ぶ斬撃を放った。
その斬撃は──高等妖兵が気づくよりも前に、高等妖兵に直撃した。
「後ろの方はかかってこないんですか? 私にはまだまだ、余裕があるんですがねぇ」
斬撃を食らった高等妖兵はしかし、そう言って手首をクイックイッと動かして、こちらを挑発する。
……これは……どっちだ?
前みたいに、敵が斬られた事に気づいていないだけなのか。
それとも、本当に今の攻撃が痛くも痒くもなかったのか?
こうしている間にも、Sランクの人は更に攻撃を繰り出した。
「喰らえ……!」
Sランクの人の掛け声と共に、彼が手に持つ神剣から勢いよく炎が噴射される。
……え、神剣ってそんな事できるの。
今初めて知ったぞ。
「ここは私の特殊空間ですよ。そんなもの、息吹だけで消し去ってあげましょう!」
迫り来る猛炎を前にしても、そう余裕の笑みを浮かべる高等妖兵。
高等妖兵は思いっきり息を吹き出し、神剣から出た炎を霧散させた。
だがその時……反作用で自分が吹っ飛ばないよう力を入れている下半身とは対照的に、高等妖兵の上半身は思いっきり息吹の推進力で遠ざかっていった。
「……目、目が回るぅぅぅぅぅ!」
取り残された下半身に次いで飛んでいく上半身が消失し、高等妖兵は戦利品の水晶玉へと変わり果てた。
終わりか。
やっぱり、斬れてないようでちゃんと斬れてたんだな。
「……勝っ……た……?」
呆然と立ち尽くす、Sランクの人。
そうしている間にも周囲は特殊空間から、見慣れた宿の自室に戻っていった。
……ちょっと待て。
なんでSランクの人も、一緒に自室に来てるんだ。
このままだと気まずいので、なんか言ってみるか。
「良かったな、無傷で終われて」
そんな風に、Sランクの人に声をかけてみる。
すると、
「一体何が起きたんだ。高等妖兵が、急に真っ二つに分かれて……まさか、あの恐ろしく速かった斬撃のような何かは、お前が?」
Sランクの人は、そうまくし立ててきた。
「『斬撃のような何か』も何も、あれ斬撃だけどな」
「あの高等妖兵が、斬られた事に気づかないほどの斬撃……良かったら、名前を教えてくれないか」
「八葉 浴衣だ。お前は?」
「俺か? 俺はロイゼンだ。ハバユカタ、教えて欲しいことがある。一体どうやったら、あんな剣さばき──」
「いやその話ちょっと後にしようや」
俺はとりあえず、ロイゼンの話を遮った。
このままだと、ロイゼンが俺の部屋に来てしまった件について、一向に話が進みそうにないからな。
「それより、ここ俺の部屋なんだけど。ロイゼン、なんでここに来てんだ?」
「……言われてみれば、確かに。考えられるのは、『次元妖を二人以上で倒した場合は、トドメを刺した側がいた人間界の居場所にまとめて帰還する』くらいだが……」
「なるほど」
確かに、それなら筋が通っていると言えなくもないかもしれないな。
今のところほかに何か有力な説が思いつくでもないし、何よりその辺の原理は話の核心ではない。
「で、どうすんだ? ここ、バヨエインの街の旅館だけど。バヨエインには俺以外Sランクいないっぽいし、ロイゼンは別の街に帰らないといけないんじゃないのか?」
「ああ、そうだな。俺はアチャアの街出身だ」
アチャアか。俺が住む事にしたこの街、バヨエインの隣街だな。
「帰りは……神剣で飛んで帰ればいいか」
「そうだな。……バヨエインの神剣使い、ハバユカタ。今回は助けていただいたこと、深く感謝する。それではまた!」
そう言って、部屋の窓から飛び出そうとするロイゼン。
それを──俺は呼び止めた。
「これ、持っていけよ」
呼び止めたのは、高等妖兵の戦利品である水晶玉をロイゼンに渡すためだ。
「……こんなもの、頂けるわけがない! 今回の戦い、俺はほぼ役に立てなかった。これはハバユカタの手柄だ」
ロイゼンはしかし、そう言って水晶玉の受け取りを拒否しようとする。
「いやいいよ。バヨエインのギルドじゃ、向こう一年はこれ買い取ってもらえないし」
「しかし、それでは今日のハバユカタの稼ぎが……」
「大丈夫。俺は今日だけでもこんだけ稼いでるから」
そう言って、俺は連戦で手に入れた九十個近くの水晶玉をマジックバッグからとりだした。
「……は、はああああぁぁぁぁ!?」
目をひん剥いて叫ぶロイゼン。
……いやなんかごめんね。高等妖兵の水晶玉を受け取る事に納得してもらおうと思って、出しただけだったんだけど。
「じゃ、じゃあハバユカタは、これだけの連戦をして尚、高等妖兵相手にあんな一撃を……」
床に散らかった水晶玉を、呆然と見つめるロイゼン。
しかし数秒後彼は、はっと思い立ったかのようにこう続けた。
「……ハバユカタ、一つ頼みがある。俺と……手合わせしてくれ。その強さ、直に体感したい」
「へ?」
「決めた。数日間、俺はバヨエインの街に泊まる。だから、都合のいい日に……」
……なんか急におかしな話になってきたな。
ていうか俺の剣術は神剣の補正頼りだし、その手合わせやったところでロイゼンは何か掴めるのか?





